32話 悲しい祝勝会3
明らかに言い過ぎだと思う。何事にも挑戦することに意義がある。メグミは挑戦して失敗した。そのせいで犠牲者が出てしまっただけだ。
だからといって、それ以上やるな。と教師が言っていいのだろうか?
別に悪いことをした訳ではない。ただ、作る料理が倒れてしまうくらい不味いというだけだ。
俺が言った言葉で、彼女は自分に自信がなくなり、全てのことに卑屈な対応しかできず、失敗ばかりの人生になってしまった場合……それは、俺のせいなんじゃないだろうか?
今は不味い。だが、練習していけば旨くなるかもしれない。
……成長の芽を摘むのは、果たして教師のやることなのだろうか?
「…………一キレ残しとけ。今は無理だが帰ったら必ず食べてやる」
「先生死ぬ気!?」
その言葉をエリスが放った瞬間、エリナが彼女の頭をひっぱたいて首根っこ掴んで奥の方に連れていった。
メグミも俺の言葉に驚いたような顔をこちらに向けてきた。
「……先生? ……別にいいんですよ? ……私、料理下手みたいなんで……先生も倒れちゃいますよ?」
悲しそうにそう言ってくる彼女の言葉で罪悪感が募っていく。確かに、彼女の料理は訳がわからないくらい不味い。しかも、質の悪いことに、自分では食べきれるせいで、それを自覚出来ていない。だが、それは俺が彼女を傷つけていい理由にはならないだろう。
「……今回はさすがに俺が言い過ぎた。……すまなかった。今回は反省してくれたなら、それでいい。料理が苦手なら練習すればいいもんな。俺が付き合ってやるから一緒に料理をうまくならないか?」
「……いいんですか?」
「ああ。ただし、俺以外の奴に料理を振る舞わないことと、基本的に夜以外は練習しないこと。これを守れるんだったら、練習のために厨房を貸そう。……まぁ、メグミがやりたいのであれば……だがな」
「や……やります! 私、絶対に料理をマスターしてみせます! 先生の犠牲は無駄にしません!」
メグミはそう言った直後、意気揚々とエリカさんのもとに行き、タッパをもらってアップルパイを詰めていた。
(……我ながらこんなことを言うなんて驚きだな……まぁ……おっさんから彼女を預かったんだ。味見役くらいしないとな……)
彼女の嬉しそうな表情を見て、最悪の状況にならなかったことを安堵した。
◆ ◆ ◆
その後は、特に何事もなく続いていた。
一人の生徒に入れ込んでいると思われたらまずいかもしれない、と思ったのだが、杞憂だった。
生徒達の会話を聞いてみると、ほとんど良い兄という感想を抱いているようだった。
妹ということにしていたのを忘れていたが、それのお陰でかなり助かった。
倒れた男子生徒も治癒魔法で目を覚まし、このまま特に何事もなく終わると、この時までは思っていた。
ベルのこともあり、夜七時には解散することになり、ほとんどの生徒達は帰った。アリスも、ピピリカとコウという近衛騎士が護衛について城まで戻った。
だから、この場所には、俺、ベル、メグミ、クレフィ、クリス、エリカさん、エリス、エリナしかおらず、この数名で後片付けを行っていた。
だが、片付けの最中、表が騒がしくなっていることに気付いた俺は、疑問に思い、窓の近くに歩を進めた。
その行動に、箒を持ったエリスが首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いやな、店の外が少し騒がしいように思えてな……」
そう答えた俺は、カーテンを少し開いて外の様子を見た。
そして、目の前に広がった光景を見て、息を飲んだ。




