32話 悲しい祝勝会1
『決まったーー!! 準準決勝第四試合を制したのは、今大会で未だに黒星無しの一年生、エリナ選手だーー!!』
その声がスタジアム中に響き渡り、観客席から声援が上がる。
それは準決勝という舞台に進んだ最後の一人を讃えるものと同時に、準決勝からの試合を楽しみにしているという期待の現れでもあった。
ここからは、スケジュールが決まっており、全員一日一試合は確定している。
そして、どれも白熱したものになると予想されていた。特に準決勝では、唯一の五年生がクレフィと戦う試合が注目されているが、クレフィの完勝は揺るがないと思えた。問題点があるとすれば、同情して勝利を譲ってしまう昔の彼女と同じ行動をするかもしれないと思っていたが、横に座る彼女の表情を見て、杞憂だと思えた。
今の彼女なら、間違いなく準決勝で勝利を見せてくれるだろう。……だから、俺が気になったのはもうひとつの準決勝だった。
『エリスVSエリナ』
その試合は、さすがの俺にも結果が読めなかった。
「マルクト先生~! 私の魔法、どうでしたか?」
試合を終え、集合場所にやって来たエリナが尋ねてくるので、俺は素直な感想を伝えることにした。
「良かったよ。準準決勝前より遥かに進化してたね。カナデとの修行がうまくいってるのかな?」
「はい! カナデ様に教えられた通りにすると色々上手くいくっていうか……私の苦手な場所も的確についてくるし……それに、ご褒美のお菓子がまた美味しいんですよ!」
「わかる~! カナデ様ってよく私のところにもクッキーとか持ってきてくれるんだよね~。それがまた美味しくて美味しくて……疲れも吹き飛んじゃうんだよね!」
「エリスちゃんもエリナちゃんもカナデお義姉様とお知り合いなんですか?」
二人にそう聞いたのは、周りに自分の正体を知っている者しかいないという安心感からか、現王妃の彼女を義理の姉と呼んだ。国王の妹であり、カナデの義妹という立場で考えてみれば、不思議なことはないが、一応、秘密にしているらしいので、この誰が聞いているかわからない空間でする発言ではないだろう。……ただ、彼女自身がその秘密に行きつくような発言をしても、損をするのは彼女だけだ。それにカナデを王妃と連想でき、なおかつ、彼女のあまり大きくない声を明確に聞き分ける技量がなければその事実に行きつくことはないだろう。
そんな訳で、俺はアリスのお義姉様呼びにあえて何も言わず、彼女の疑問に答えることにした。
「カナデにはエリナの修行に付き合ってもらってるんだよ。まぁ校内戦が終わるまでの間だけなんだがな」
「カナデお義姉様にですか? ……確かカナデお義姉様は魔法が使えなかったはずですが……」
そう。カナデは魔法は使えない。
だが、俺はエリナの修行相手に彼女を選んだ。それは、彼女が魔法に詳しく、そして、どうやれば強くなれるのかを知っているからだ。
だが、その秘密を知っているのは、俺とユリウス、カトウの三人だけで、ティガウロの《創造》同様口外することを禁じている内容だった。
だからカナデも、料理という方法を使って、エリナに魔法を発動するコツを教えていた。
「さて、エリナの修行に関しての話はここまでにして、そろそろ『Gemini』に向かうか。久しぶりにティガウロの料理が食えるだろうし、楽しみだよ」
「……先生知らないの? 今日はガウ兄いないんだよ? ガウ兄、王様にも休暇をもらってどっか行くって言ってたし……」
その言葉を口にした直後、エリスは「しまった」とでも言いたげな顔でエリナを見た。
「……やっぱり来なかったんだ、お兄ちゃん……」
エリスにならってエリナの方を見ると、彼女の表情は先程までとは違ってかなり沈んだものとなっていた。
「……そうか。なら、ティガウロ抜きで楽しむか。エリカさん一人じゃ大変そうだし、クリスも呼ぼう」
そして俺は、エリス、エリナ、ベル、メグミ、クレフィ、アリスの六人を連れて臨時休業中の祝勝会会場『Gemini』に向かった。




