31話 準準決勝の開始9
フィールドに現れた灰色の髪の少女に向かって期待の眼差しを送るマルクトだったが、もちろん、今回の校内戦でクレフィと行った約束に関しては、ベルを三位以内に入れたくないという理由だけで行ったものではない。
それは、クレフィにもっと外の世界に目を向けてほしいと思ったからだった。
「改めて、よろしくお願いします。ベルお嬢様」
「うん。今日はベルも本気出すから、クレフィお姉ちゃんには負けないよ!」
二人の目に迷いの色は伺えない。
数日前まで戦うことに悩んでいた少女はもういない。そこにいるのは、主のために恥じない戦いをしようと心に決めた少女だった。
『準準決勝、第二試合、試合開始!!』
その合図が会場中に響き渡り、二人の少女は魔法発動の準備をし始めた。
◆ ◆ ◆
クレフィの才能は、彼女が働き始めた頃からマルクトは知っていた。
マルクトが道端で苦しんでいた彼女を助けたのは偶然で、彼女が父親のクリストファーと共に自分の屋敷に住み始めたのは、マルクトの配慮からだった。
娘を助けてくれたマルクトに恩義を感じ、働いていた屋敷を辞め、専属の執事になってくれたクリス。だが、クリスの奥さんが亡くなったことでクレフィを見ていられる者がいなくなり、夜は少しの間でいいから家へ戻らせてほしいとマルクトに頼み込んだ。
『それならいっそのこと、うちに二人で住めば? なんか部屋ならいっぱいあるし。むしろこんな立派な屋敷に一人で住むなんて寂しいしさ』
という理由でマルクトが勧め、クレフィとクリスは住んでいた家を離れ、マルクトの屋敷に住み始めた。
それはマルクト自身が父親と一緒にいられない辛さを知っていたからで、クレフィにはそんな辛い思いをしてほしくなかったという背景があったからだ。
そんなクレフィに魔法を教えたのは、クレフィが十三歳の頃に屋敷へとやって来たシズカだった。
クレフィが十五歳になった頃には、年が二つしか離れていないということもあり、かなり仲良くなっていた。
シズカがいなくなる日まで魔法を教わっており、彼女が魔王討伐に勤しんでいる間は、俺が教えていたに過ぎない。
そして、彼女が慕っていたシズカはもうこの世にはいない。
俺が助けられなかったから死んだ。
だからクレフィに、俺が死んだ時、何も残されていないなんてあってほしくない。
彼女にはまだ未来があるのだから。
◆ ◆ ◆
二人の戦いは熾烈を極めていた。
遠慮や手加減が一切ない魔法の応酬。
そして、熱戦を繰り広げる二人に向かって歓声が浴びせられる。
「クレフィお姉ちゃん、すごい、すごい!! ベルね。師匠以外の人にこんなに魔法撃てたの初めて!」
「お褒めいただき光栄です。私も、このように魔法を撃ちあえたのは、シズカさん以外では初めてですよ。本当によくここまで成長なされましたね」
「えへへ~。クレフィお姉ちゃんと師匠が魔法を教えてくれたからだよ~」
「そうですか。しかしながら、どんなに強い魔法使いと言えど、弱点というものは存在します。お嬢様……私は、自分のためにも、お嬢様のためにも、ここで貴女に勝たせていただきます!」
そう言ったクレフィは、ベルの魔法を華麗に避けた後、小声でなにかを呟き始めた。




