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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第6章 校内戦編
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31話 準準決勝の開始8


「見事な試合でしたね、エリスさん」

「エリスちゃん、おめでとう!!」

 学園の先輩と、幼すぎる同級生に賛辞の言葉を送られ、エリスは笑顔の仮面をつけて「ありがとう」と答えた。

 本当は、決着を着けたかった。

 あんな勝ち方は嬉しくなかった。

 それがエリスの偽らざる本心だった。

 だがそれを、表には出さない。

 何故なら、まだ今日の試合は終わってないのだから……。


 準準決勝からは一日に二試合しか行われない。

 それは魔力の消費が激しくなることを予想してのことだ。ここからは、実力者しか残されていないし、運良くここまで来れた者などはいない。今日のアリサみたく魔力切れになるケースだってある。

 そして、今日のもう一試合の対戦カードは目の前にいる二人で行われる。

『ベルVSクレフィ』

 おそらく魔導学園全体が注目している対戦カードだろう。 


 六歳という若さで『濃紫』という黒に次ぐランクを保持し、予選ブロックでは、前年度の校内戦で三位の成績を残したアボウを謎の闇属性魔法で倒し、その後も数々の強敵を圧倒的な魔法で倒してきた少女、ベル・リーパー。

 四年生になったことで、上級生の壁を乗り越え、『薄紫』の魔法ランクを持ちながら決しておごることはなく、四年生の頃に首席をとり今年度の校内戦で優勝候補の中でも最有力候補と呼ばれていたシベリアを新魔法で倒した少女、クレフィ。

 共に魔法ランクは申し分無かったものの、その実績の無さから優勝候補に名前が上がらなかった二人が準準決勝という舞台に立ち、雌雄を決することで、どんな試合を見せてくれるのかと魔導学園の生徒や教師を始めとした観客が楽しみにしているのだった。


 準準決勝は、勝てばマゼンタ最強決定戦に大きく近付くが、負ければ例えどんなにいい成績を残していようと、出場は不可能になってしまう。

 負けてもなんとかなる準決勝や決勝とは違って、負けたらそこで終わりなのだ。

 観客の期待が上がってしまうのは無理もない話だろう。


「さて……どっちが残るかな?」

 マルクトはスクリーンに映しだされた二人の画像を見てそう呟いた。

「なんで先生はそんなに落ち着いていられるんですか?」

「……そう言うアリスは落ち着かない様子だね」

「そりゃそうですよ! やっぱり、クレフィ先輩にも勝って欲しいですし。でも、ベルちゃんが負ける姿も見たくないんです!」

「アリスらしいな。まぁ、俺としてはベルに負けてほしいかな。……まぁ、難しいだろうけど……」

「えっ!? マルクト先生は自分の妹が負けてもいいんですか?」

 その質問をしてきたのはアリスと同じく驚いたような表情を向けるユウキだった。性別を知らなければ少女と見間違いそうになるその顔を近付けてくるユウキに「落ち着け」と言ってなだめる。

 実際、ベルが勝つのは、正直あまりいい展開じゃない。なぜなら、ベルは俺の妹ではなく正体を隠した魔王だからだ。

 いきなり現れた二人の妹、国内で俺の正体に気付いているのは、ごく一部の限られた人間しかいない。

 その中でもユリウスとカトウには、彼女が魔王であることと、カトレアが元魔人であることは伝えてある。

 クリストファーには、ベルのことは伝えてあるし、身分証の偽装にも手伝ってもらっている。

 まぁ、マリアやジャック先生は、知っていても深くは尋ねてこない。他にも、俺の近辺を探るという俺の怒りを買うようなバカな行為をとる奴はいない。

 だから、この半年、ベルの正体に探りを入れられることはなかった。だが、ここでベルがクレフィに勝った場合、ベルに勝てる魔法使いは既に学園の生徒にはいないだろう。

 要するに、マゼンタ最強決定戦に出場してしまう可能性が高いのだ。

 校内戦は、国中の機関が注目する行事だからまだいい。俺の妹ということで、その魔法ランクにも納得している者も多いし、見た目の件は真実を織りまぜた嘘で誤魔化せたと思う。

 だが、マゼンタ最強決定戦は違う。各国の機関がその幼き魔法使いに注目し、探りを入れるだろう。そうなれば、ベルの安全は保証できない。最悪俺の母国が、ベルの存在を否定してくる可能性だって考慮しなくてはならない。

(……本当は校内戦だって出したくなかったから反対してたのに、メルラン先生のところで勝手に申請してたんだよなぁ……それを怒ったら、泣きそうな瞳でこっちを見てくるからうまく怒れないし……。せっかく学園長に強者を当ててくれって頼んだのに、ことごとく倒しちゃうし……こうなったらクレフィ! お前だけが頼りなんだ! ベルが納得する形で勝ってくれ!)


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