31話 準準決勝の開始5
「アイスエッジ!!」
エリスの口から放たれたその言葉で、アリサは警戒度を高める。そして、エリスの空いた左手から氷の礫が放たれた。
一センチ程の氷の礫は決して大きくはないが、一つや二つなどではなく、数十個という普通の人よりも多い量をエリスは無詠唱で放っていた。
しかし、警戒していたアリサには通用しなかった。アリサは双剣の面を巧みに使って氷の礫を弾いていく。
「……これって……確かベルさんが使ってたやつ……」
アリサは叩き落とした氷の礫が消えていないのを見て、そう判断した。
「せいか~い。少しずつ振り撒いて、アリサちゃんにはこれから極寒を味わわせてあげるよ」
(……北国育ちの私がそう簡単に寒さで屈することはないと思うけど……どれほどまで寒くなるかわからない以上、早めに終わらせた方がいいかも……)
そう考えたアリサは、防御に徹したことで開いた距離を一瞬で詰めにかかった。
◆ ◆ ◆
昔から私は魔法が使えた。
お父さんもお母さんも使えなかった魔法を、なぜか私だけが使えた。
あんまり強くはないけど、お父さんもお母さんも褒めてくれた。ただ、外では絶対に見せるな。お父さんとお母さん以外の人がいる前では絶対に魔法を使うな。とお父さんに約束させられた。
知識がない私は、簡易的に風を起こすことしか出来ないし、魔法を学んでみたいと言っても、お父さんは許してくれなかった。
私は特別だから魔法が使える。だから、持たざる者の前で魔法は使えないフリをする。
そう自分に言い聞かせて、私は魔法を封印した。
でも、この国に来て、その考えは変わった。
私は魔法を使えるけど、この国では最下層の人間だった。
『薄黄』
それが私の実力だった。
ホワイト国家のクリンゴマ王国において、魔法を使える私は侮蔑の対象になる。
魔導王国マゼンタの魔導学園エスカトーレでは、『薄黄』の私は完全に劣等生だ。
だから、私は誰からも必要とされない人種だった。
そのはずだった。
なのにあの人達は、カトウ先生とミチルさんだけはそれでもいいと言ってくれた。
別に魔法がメインじゃなくても、得意の剣技に応用すれば問題ないと言ってくれて、それを応用する術を教えてくれた。
二つや三つの魔法を覚えるのは、才能がない私じゃどうしようもない。だから、一つの魔法をひたすら練習させられた。
◆ ◆ ◆
(いくよ! エリスちゃん! 私の全力で貴女に勝つ!!)
距離を詰めようと、アリサは足に力を込める。そして同時に、初歩の初歩、風属性を持つ者なら誰もが使える魔法で、アリサが一週間頑張って会得した最初の魔法。それを発動させた。
「フーマッ!!」
なめらかな風に包まれた少女は、地面を蹴って、エリスとの距離を詰めた。
その速さは先程よりも格段に速く、開いた距離は一瞬で詰まり、エリスの視界に振り下ろされる剣が映った。
「……予想の範疇だったよ」
振り下ろす直前、エリスがそう呟いた。
「な……っ!?」
アリサの背中に激痛が走り、痛みで、持っていた剣が手から離れて地面を転がり、アリサの体も同時に転がっていった。




