31話 準準決勝の開始1
二日間で十六試合が行われ、エリスとエリナも二日目に行われた決勝トーナメントの初戦を無事に勝利し、四人は一回戦を無事に突破した。
そして、この日はベストコンディションで行うための休みであるため、俺はエリスとエリナを家に招待していた。
「マルクト先生。今日はなんで先生のお屋敷に呼ばれたのでしょうか?」
テーブルに置かれた紅茶を飲んだエリナが紅茶のカップをテーブルに戻すとともに聞いてきた。
彼女の隣に座るエリスもどうやら同じ意見のようで、しきりに頷いていた。
「別にどうこうしようなんて考えちゃいないから安心していいよ。今回は少しお詫びのつもりで来てもらっただけさ」
「……お詫び……ですか?」
「うちの研究者達が二人を騙して危険な実験に巻き込んでいたからな。どっちにしてもあれじゃ強くはなれないが、俺に出来ることは少しでもしてあげたいからな。今日は俺が呼んだ相手と修行してもらおうと思ったんだ」
「……お詫び……なんですか?」
「もちろん。修行が終わったら、うちの執事が腕によりをかけた料理を振る舞ってやる。……それに強くなりたいんだろ?」
「やります! クリスさんの料理……じゃなかった。強くなるためだったらなんだってやります!!」
「……お姉ちゃん……でもまぁ、お姉ちゃんがやりたいっていうなら私もやろうかな。それに、先生の紹介なら大丈夫だと思いますし……」
その時、屋敷のチャイムが鳴り響き、誰かの来訪をつげてくれた。
「ようやく来てくれたみたいだな……」
少しすると、白髪をオールバックにした執事服の男性が部屋の扉を叩いてから入ってきた。
「旦那様、お客様がお見えです」
「通していいよ。クリス」
「かしこまりました」
恭しく一礼したクリスは、少ししてから一人の女性と共に戻ってきた。
「やっほ~! マルクトちゃ~ん! 久しぶり~」
そう言って入ってきたのは黒い瞳と、黒い髪が特徴的な純白のドレスを着こなした女性だった。
「……綺麗な人……」
エリナが思わずそう呟くと、その女性は笑顔で「ありがと」とエリナに向かって言った。
「久しぶりだな、カナデ。今日はすまないな」
「いいよ、いいよ~。マルクトちゃんには、すっごいお世話になったし~! お店の資金もマルクトちゃんが大半を出してくれたしね~。そんなマルクトちゃんの頼みじゃ断れないよ~」
「……マルクトちゃん?」
「紹介するよ。彼女はカナデ・ヴェル・マゼンタ。ユリウスの嫁で王妃の地位にありながら、レストランを経営している変人だ」
「変人って酷いな~。初めまして。レストラン『シュガー』でオーナー兼コック長を務めるカナデ・ヴェル・マゼンタよ。よろしくね」
「お……お初にお目にかかります。マゼンタ王国近衛騎士団の騎士長の次女エリナと申します」
いきなり、現王妃が現れたことについていけず、唖然としているエリスと違って、エリナはすぐに立ち上がって挨拶をした。それを見たエリスも彼女と同じように挨拶を行うが、カナデは「そんなにかしこまらなくていいのに~」と言ってきた。
「一応私、王妃って立場らしいけど、あんまり権力に興味ないし、別に馴れ馴れしく接しても、怒ったりはしないし、むしろそっちの方が嬉しいから、いつも通り友人に接するくらいでいいからね~」
そう言われて戸惑っているエリナにマルクトは追い討ちをかけた。
「エリナ。カナデは今日、お前の修行に付き合ってもらうために来てもらったんだ」
「そ……そうなのですか!? マゼンタ王国の王妃様に魔法をお教えいただけるなんて光栄です!」
「いや、私魔法使えないけど?」
「えっ!?」
その意外過ぎる発言に、エリナは驚きの声をあげた。
「ねぇ、マルクトちゃん、本当に私のやり方でいいの?」
「別に構わないよ。むしろ、エリナは校内戦中なんだから魔法の使用は禁止だ。もちろん、エリスもな」
「「わかりました」」
内心では魔法を使っての修行だと思っていたため、がっかりはしたものの、先生が無意味なことはしないと信じているため、二人は今日の修行を本気で取り組むことにした。
「……そういえば、もう一人が来ないな……」
「よくわかんないけど、庭に誰か立ってたけど、その人だったりしない?」
マルクトが時計を見て、ぼやくとカナデがそう答えてくれた。
「そうか……。ならエリス、俺達は外に行くぞ」
「は……はい、先生!」
外に向かうマルクトの後をエリスがついていき、残されたカナデとエリナの二人も修行に入ることにした。




