30話 決勝トーナメント2
俺はエリスとエリナを呼び、ベルを含めた三人と共にトーナメント表を見ていた。
他の生徒達は自分達でプリントを取って仲間同士で見ている。
決勝トーナメントの表に残った面子は大半が四年生か五年生だった。
それだけに、エリス、エリナ、ベル、クレフィ、そしてアリサの初戦の対戦相手が五年生というのもわからなくはなかった。
「ベルちゃんってすごい相手とばっかりじゃん。これは……いくらベルちゃんでも厳しいんじゃ……」
エリスが言ったとおり、ベルの一回戦、二回戦の対戦相手が主任の先生から優勝候補と伺っていた相手だった。
しかも……。
「あっ……ベルちゃんが準々決勝まで残ったらクレフィ先輩と戦うんだね」
トーナメント表を見ていたエリスがベルにトーナメント表を見せながら教えている。
「そうなの?」
「うん。一回目と二回目の相手に勝ったら、クレフィ先輩、そして決勝は私かエリナ、もしかしたら私じゃなくてアリサちゃんかもね……」
いつもの強気なエリスが珍しく、弱気な発言をしている。
それも仕方ない話といえる。
エリスもアリサも、共に勝ち進めば準々決勝にて、ぶつかる。
「そう簡単にはいかないと思いますよ。なにせ、優勝候補として名高い先輩達が相手ですし……クレフィ先輩のお相手は……」
「エリナもエリスも、人の試合ばっかり気にしてないで先ずは目の前の相手に集中しろ。どんなに先のことを話し合っても、その前に負けたら意味はないし、全員相手は上級生なんだ。負けても悔いがないよう全力で戦ってこい!」
「「「はい!」」」
◆ ◆ ◆
『さて、本日はまごうことなき快晴、決勝トーナメントの初戦にふさわしい天気となっております! まぁもし雨が降り始めたとしても、隣のこの方が雲など蹴散らしてくれるでしょう! 世界屈指の実力者と名高く、魔法の権威という二つ名に恥じない大魔法使い! 本日の解説はマルクト・リーパー教諭にお越しいただきました! 本日はよろしくお願いいたします』
『……よろしくお願いします』
『いや~それにしてもエキシビションマッチでは素晴らしい戦いを見せていただきました。さすがは黒ランクですね!!』
『そんなことありませんよ。逆に不甲斐ないところを見せてしまったせいで、昔の同級生から怒られたくらいです』
『そうなんですか!?』
『ええ。研究職についたことで少し戦線から離れていたので鈍っていたのでしょう。昔の方がまだ強かった気がしますね』
『いやはや、さすがは黒ランク。あれほどの素晴らしい戦いをまだまだと評価できるなんて、魔法の才能もさることながら、謙虚さも身につけているとは、私もまだまだ精進しなくてはなりませんね。……さて、こうしている間にも、時間が過ぎていき、間もなく一回戦、ベル・リーパー選手とガイアナ・デラバシア選手の戦いが始まろうとしております!』
『ベル・リーパー選手は俺……私の幼い方の妹で、実力は私が保証しますよ。ただ、一年生とはいえ、まだ六歳の少女。油断や慢心、気の緩みから敗北もあり得ます。そして、優勝候補の一人、ガイアナ・デラバシア選手はデラバシア男爵家の三男。魔法騎士の家でその実力を磨いた彼は学園でも上位の実力者。しかも、これまでの相手とは異なり、絶対に油断はしてくれないでしょう。むしろ、ベル……選手が彼の胸を借りるつもりで頑張っていただきたいところですね』
『なるほど……てっきりマルクト教諭は自分の可愛い妹を応援しているものだとばかり……』
『そんなことありませんよ。私は教師として、解説として今回ばかりは公平にやらせていただきますよ。まぁ、解説の日でなければ遠慮なく彼女を応援させていただきますがね』
『それを聞いて安心しました。ところでずっと伺いたいことがあるのですが……まだ少しかかりそうですし、せっかくなので聞いてもよろしいですか?』
『いいですよ?』
『では、一つ質問なのですが、ベル選手とマルクト教諭は見た目が全然似てないことから、実の兄妹ではないんじゃなかろうかと噂になっておりますが、そこのところはどうなんでしょう?』
『……それをここで聞いちゃいます? まぁ別に構わないからいいですけどね。ちなみに兄妹ですよ。私は青髪の父の血が濃いのだと思いますよ。逆にベルは金髪の母から遺伝子を受け継いでいるのだと思います』
『なるほど……確かに納得できますね。さて、ようやく二人の準備が出来、スタジアムから出てきましたね』
大きな歓声が上がり、魔導学園エスカトーレの白い制服に身を包んだ二人の生徒が円に向かい合って立つ。
そして、始まりの鐘が鳴り響いた。
『決勝トーナメント第一回戦試合開始です!』




