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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第6章 校内戦編
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29話 エリス5


 先程から、魔物の形をしたホログラムが出なくなってしまったことに、エリスはイライラしていた。

(トラブルがあれば、マリアさんが何かしら伝えてくるはずなのに、それすらもないなんて……いったい何があったんだろ?)


 私はこんなところで立ち止まってる場合じゃない。このままじゃ……このまま弱かったら、エリナとの約束も守れなくなっちゃう。

 この前だって、私がベルちゃんくらい強かったら、先生の足を引っ張らないですんだ。私が操られてなかったら、先生はソラ君の体を乗っ取った魔物を倒せたかもしれない。

 きっとベルちゃんくらい魔力ランクが高かったら、きっと今より強いに決まってる! 高かったら、操られてなかったに決まってる!

 ……でも、私はランクを上げることはできない。確かにガウ兄くらい色を濃くすることはできるけど、それが私の限界……きっと私は、どんなに頑張っても、ベルちゃんやクレフィ先輩に勝てない。戦うまでわからないと口では言えても、心までは偽れない。

 そう……思ってた。そう思ってたのに、ランクが下回っているアリサちゃんに負けた。しかも惜敗ではなく完敗だった。

 元々、アリサちゃんは双剣を使うスピード特化の剣士。それなのに、アリサちゃんは剣一本で私と戦って、それで勝ってみせた。

 自分は強いと思っていた。自惚れではなく、本当に強いと思っていた。偉大な先生に半年間しごかれて、その前も、強すぎる兄に色々と教えてもらっていた。

 なんでここまでされて、私は……勝てなかったの?


 ……だけど、これで道が途切れた訳じゃない。

 幸いにも、決勝トーナメント進出の時点で彼女と当たれたから、私は校内戦敗退じゃない。校内戦の決勝トーナメントが始まるまでの一週間で今よりもっと強くならなくちゃいけない!

 そのための手段も私にはある。

 先生の知り合いに、魔法開発研究所の所員がいて、偶然にも顔見知りになった。

 だから、少し前に偶然会った時、ダメ元で強くなる方法を聞いたら、この研究室を紹介してくれた。

 マッシュとかいう研究者が言うには、毎日毎日、魔力が尽きるまで、魔法を行使していくことで、魔力の限界値が上がっていき、そのうち黒に到達することが出来るという内容だった。

 未だに研究段階のため、公表はされていないが、絶対に成功すると言われたので、私はそれを受けることにした。


 まだ始めて三十分も経っていないのに、いくら待っても始まらないことに、さすがのエリスも違和感を覚え始めた時だった。

「おいエリス、実験は終了だ」

 いきなり後ろの扉が横にスライドし、そこから声をかけてきた人物を見て、エリスは顔を驚きの色に染める。

「な……なんで先生が?」

「マリアから聞いてきた。この研究室は魔力の色を変えるというあり得ないことを実験して、人格を壊してしまう可能性が非常に高いやり方を実践し続けたことで取り壊しになる。すまないな。うちの所員がお前に迷惑をかけた。今回の埋め合わせは近いうちに必ずするからエリスも帰るぞ」

 それはいきなり過ぎる言葉だった。信頼していた先生に自分が強くなるための実験を邪魔され、エリスは床にへたりこんだ。


(なん……で? 私はただ、強くなりたいだけなのに……先生みたいな強さが欲しいだけなのに……)

「……でよ……」

「ん? なんか言ったか?」

 マルクトはエリスが何かを喋るのが聞こえたために、魔法の撃たれた壁の方からエリスの方に向けた。

「勝手なことしないでよ!!」

 その怒声が広い実験場に響き渡り、マルクトは眉をひそめた。

「意味がわからないな。それは、どういうつもりで言ってるんだ?」

 マルクトがエリスに向けていた金色の瞳を鋭くしたが、エリスの怒りは治まらなかった。

「そのまんまの意味ですよ! 私は校内戦で優勝したいんです! そのためには、まだまだ力が足りなくて……ここなら、私はもっと強くなれるんです!!」

「実験内容がただただ、限界を迎えるまで魔法を撃ち続けるというとちくるった内容でもか? これは人格を壊す実験だ。魔力の色が変わるなんてことは絶対にあり得ない! お前はマッシュとかいう老いぼれに騙されてたんだよ!!」

「違う!!! 私は……このままじゃ駄目なんです! こんな駄目な私が変わる為に必要な実験なんです! お願いします先生! 私に実験を続けさせてください!」

「いい加減にしろ! このまま続けていけば人格が破壊されてもう二度ともとには戻らないんだぞ!」

「それでもいいの! 私は先生の足を引っ張らないくらい強くならなきゃいけないの! 例え人格が壊れるとしても、こんなところで立ち止まってる場合じゃないの!!」

 その言葉がエリスの口から放たれた瞬間、甲高い音が実験場内で響き渡った。

 マルクトがエリスの頬を叩いたのだ。

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