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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第6章 校内戦編
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29話 エリス3


「先生、じゃあ私、帰りますね」

 全ての試合を終えたエリスは、そう言って帰ってしまった。

 その背中には哀愁が漂っていた。


 Aブロックの勝者はアリサが、余力を残したまま勝ち進んだ。

 エリスは、決勝トーナメントに行けるから、そこでリベンジを果たすと気丈に振る舞っていたが、それでも心配だった。

「……ねぇ、先生。この後、用事はありますか?」

 エリスの背中を見送っていると、エリナが声をかけてきた。

 その質問に俺は自分の予定を確認した。

 今日は一睡もせずに魔法開発研究所からの仕事を終わらせ、ベルとエリスの観戦が出来るようにしていたのだ。明日の仕事も仮眠をしてから終わらせる予定だったので、なんの問題もないだろう。

「まぁ、仕事も今日の分は終わらせてるし、時間なら取れるな」

「そうなんですね。それなら、少しついてきてもらえますか? 姉さんの試合を見てたら、心配になったので少し相談に乗ってもらいたいのです」

(確か……生徒の相談に乗るのも教師の役目だってカトウが言ってたな……エリスのことも心配だけど、試合前のエリナが次の試合で心配事があるって言うなら、エリナを優先した方がいいか……)

「わかった。俺でよければ相談に乗らせてもらうよ」

「ありがとうございます!」


 エリナはマルクトに笑みを向け、感謝の言葉を告げた。

 マルクトはメグミとベルをピピリカという護衛を任じられている女性騎士に送らせ、ユウキをコウという同じく護衛を任せられた男性騎士に送らせた。

 アリスがティガウロに護衛を指名したが、エリスを慰めようとしていたティガウロも今回ばかりは他の者に任せようとした。しかし、エリナに「アリスちゃんをお願い」と言われてしまい、その瞳から何かを感じとり、アリスを城まで送っていった。


「それでは行きましょうか。マルクト先生」

「ああ」

 そう短く答えたマルクトは、エリナに続いて歩き始めた。


         ◆ ◆ ◆


「そういえば、今日はお店の手伝いに行かなくていいのか?」

 街の通りを歩いているマルクトは、先程から気になっていた疑問をぶつけることにした。

「今更過ぎません? 今日は休業日ですよ? それに最近、色々あって客足が遠退いてるんで、あんまり繁盛してないんですよね……まぁ、お母さんは趣味でやってるから、そこまで気にしてないと言ってるんですが、やっぱり心配ですね」

「それが相談したい事……って訳じゃ無さそうだな」

「はい。その件はお兄ちゃんが先生やユリウス国王陛下に迷惑がかからないよう、一人で動くと言ってますし、お兄ちゃんなら心配いらないと思います」

「そうか……」

 ティガウロがそう言ったのなら、自分が動けばあいつ自身が嫌がるうえに、今の自分に『Gemini』の客足が減っている問題にまで手を回す程の余裕はない。そういう考えから、マルクトはこの問題に手を出さないことにした。


 そうこうしている間に、エリナは人通りの少ない道を歩き始め、マルクトの見知った場所に案内した。

「…………なぁ、なんでこんなところに俺は連れてこられたんだ?」

 そこは、マルクトのもう一つの勤務先、魔法開発研究所だった。


 入口の前でマルクトが固まっていると、いきなり扉が開かれた。

「お待ちしておりました。主任」

 そう挨拶してきたのは、白衣を着たマルクトの同級生だった。

「おいマリア。今お待ちしておりましたって言ったな。まさか、俺をここに連れて来るようエリナに指示したのか?」

「そんな主任に嫌われそうな手を私が使うとでも? 今回はエリナさんから依頼なんですよ?」

「はぁ? 本当かエリナ?」

「ええ、私がマリアさんに頼ませていただきました。マルクト先生に見てもらいたいものがあったので」

「……まぁ、どこに行くかを聞いてなかった俺のミスだし……エリナの意思でここに来たというのなら、俺に反対意見はないよ」


「それでは主任、ここからは私も同行させていただきます」

 そう言ったマリアが先導し、マルクト達は研究所内を歩いていき、ついにその部屋へとたどり着いた。

「ここです」

 そう言って部屋を開けたマリアの後に続いて、中へ入る。

 そして、部屋の中には巨大なモニターがあり、そこに映し出された少女の姿を見て、マルクトは驚愕の声をあげた。

「……エリス!?」

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