26話 夏期休暇の終わり1
皆さんこんにちは。私はマルクト先生の屋敷でメイドとして働かせていただいてるメグミという者です。
もうそろそろ夏が終わって秋へ入ろうとしていますが、まだまだ暑い日が続きますね。私はこの炎天下の下でこのだだっ広い庭を清掃するのが億劫だったりします。
だけど、そんな生活もマルクト先生やベルちゃんが傍にいてくれるから全然苦になりません。
ですが最近、そのマルクト先生に元気がありません。
一日中部屋から出ない日が増えて、仕事をやる時も上の空みたいです。
原因は間違いなく、キャンプで起こったあの出来事だと思われます。
キャンプの二日目、ディザイアという魔物がいきなり私達の前に現れました。
カトレアさんに聞くまで魔人だと思い込んでいましたがどうやら魔人とは別の種族らしいです。
さて、話を戻します。
いきなり現れたディザイアという魔族はソラ君の体を乗っ取って食卓を拭いていたエリスちゃんを襲いました。
その音に気付いた私達が現れた時には、マルクト先生がその魔族と対峙していました。
ディザイアは私達の姿を見ると、闇属性の魔法で攻撃を仕掛けてきましたが、そんな絶体絶命のピンチをマルクト先生が守ってくれました!
しかし、守ってくれたマルクト先生を襲ったのはエリナちゃんが放った光属性の攻撃魔法でした。
その攻撃はエリナちゃんの意図した結果ではなく、ディザイアの『支配』と呼ばれるルーンが使用された結果なので、エリナちゃんは被害者でした。
しかし、ルーンの効果は来ているメンバーの多くに影響を与えました。
私自身も声を出せなくなってしまい、マルクト先生に自分の意思とは関係なく攻撃してしまうという恩を仇で返すような行為に視界がぼやける程の涙を流してしまいました。
ですが、未熟な私にはわからないような戦い方で、いつの間にか不利だった状況をひっくり返し、ついに! マルクト先生は勝利を収めたのでした。
しかし、何者かの介入により、ディザイアはソラ君の体ごとどこかに消えてしまいました。
こうしてキャンプは友人を一人失ってしまうという悲しい結末で終わりました。
マルクト先生の元気がない理由は私達生徒をちゃんと守れなかったことだと、心配してやって来たカトウ先生が教えてくれました。
もうすぐ始業式でその後には校内戦という魔導学園エスカトーレの二大イベントの一つが行われるっていうのにあんな調子で大丈夫なんでしょうか?
◆ ◆ ◆
それはまだ蒸し暑い夜。いつもは町を照らす月の光も厚い雲に覆われ、雨が降っていてはその姿を見ることも難しい。
そんな雨が降る天気だと、この広い通りを歩く人もそうそういない。
そんな通りに傘をさしながら歩いている青年の姿があった。
傘の下から見える金色の瞳。後悔に暮れるその瞳にはほとんど生気を感じなかった。
そんな彼が赴いた場所は『Gemini』と看板に書かれた一軒の店だった。
「いらっしゃいませー!」
店に入ると、銀髪の髪を肩の辺りまで伸ばした少女が店の制服姿でお出迎えをしてくれる。
「珍しいな。今日はエリナがウェイターか?」
青年は先程までの死んだ魚のような目をおくびにも出すことなく少女に声をかけた。
「お久しぶりです先生。お姉ちゃんなら今日は学園の宿題に取りかかっている最中ですよ。夏期休暇はほとんど友達と遊びに行ってましたからね」
「おいおい、明日から学園だろ? 大丈夫なのか?」
「まぁ、今日は寝る気ないから大丈夫! とは言ってましたからおそらく大丈夫だと思いますよ」
エリナは姉であるエリスの真似を実際にしてみせる。やはり双子というだけあってまるでそこに本人がいるんじゃないかと思ってしまうほどよく似ていた。
「ならいいんだが、くれぐれも無茶して体調を崩す……なんて馬鹿みたいなことはするなよ、と伝えておいてくれ」
「承りました。とりあえずお席の方にご案内しますね……立たせているとお母……店長に怒られるので……それにもう来ていますよ」
「わかった」
そう言ったマルクトは、エリナと共に一番端にあるテーブル席の方に向かった。




