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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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24話 意外な結末6 

「……息はもうないな」

 横たわるレンの近くに膝をついて呼吸を確認したカトウはそう呟いた。

 その言葉で学園生達の泣く声が一層強まる。

「ちょっと静かにしてくれないか?」

 それは、呼吸を確認していたカトウの口から放たれた言葉で、その普段とは異なる態度にカトウをよく知るマルクトでさえも絶句した。


「集中するから泣きたい奴はよそで泣いてくれ。俺は今から運命を決める神に抗うんだ……俺の集中を妨げるな」

 その目に普段の余裕は微塵もない。

 なにがなんだかわからないため質問をしようとするが、その鬼気迫る顔を見てその考えはなくなる。

「……マルクト。お前は他の全員をこの場から離れさせてくれないか?」

「……まさかお前が今からやろうとしていることって!」

「そのまさかだ。俺は今からレン君を生き返らせる。……だが、確実にできるかは知らないから、期待はすんな」

「……わかった。全員ついてこい! ここはカトウに任せよう」

 マルクトの言葉に全員が従い、カトウを除いた全員で場所を移動した。


         ◆ ◆ ◆


 カトウは息の無い少年を見て、深呼吸をして息を整える。だが、何度やっても心臓の鼓動が強くなるのを抑えられないでいた。


 成功させないと彼は死んだままだ。

 何も変わらない。でも変えなければならない。

 マルクトには返しきれないような恩がいくつもある。さっきのマルクトは異常と言わざるを得ない状態だった。レン君を別の誰かに重ねていた。

 そんな状態で彼が死に絶えたら、マルクトの心が壊れかねない。

 だが、死にかけている状態の彼を治療するのは、マルクトでも不可能だった。マルクトの魔法でどうにも出来ないのを俺にどうにか出来るはずがない。

 だが、レンを生き返らせる方法はあった。……いや、正確には生き返らせる可能性がある方法だ。

 『蘇生薬』ならなんとかなる可能性が残されていた。


 『蘇生薬』は、俺が死んだことで開花したルーン(薬才)が作り出した薬品だ。

 その効力は死んだ俺が生き返ったことで実証され、ユリウスの斬られた腕にかければその腕を再生した。その効果から、人にかければ命を吹き返す可能性があった。


(……だが、難しいだろうな。あの時の俺とは死に方が違う……生き返らせても、血が無いんじゃ意味がないかもしれない……でも、やってみる価値はある)

 そうは思っていても腕が震える。

 もしも生き返らなかったら? もしも魂の無い脱け殻のまま動き出したら?

 そんなことを考えて、集中しないと作れない薬を作れないでいた。

 自分に余裕がないのもわかっている。

 人の命が取り戻せるかどうかのプレッシャーが身を強張らせる。

(死んでから何秒経った? 血はそもそも作れるのか? ……あれ? ……作り方ってどうだったっけ?)

 頭がうまく回らない。視界が狭まっていく。

 額から溢れ出す汗が目に入って、目に痛みを感じる。

 深呼吸したはずなのに、呼吸が荒くなっていく。


 そんなカトウの腕に少女の手が置かれた。

 カトウはそっちの方を見てみると薄紅色の髪を伸ばした少女がかがんでおり、カトウの顔を覗きこんでいた。

「カトウ先生……早く終わらせて帰ろう? 帰ったら今度は私がチェスを教えるからね……絶対一緒にやろうね」

 その言葉は焦るカトウの心を徐々にほぐしていった。


(それは今言わなきゃいけないことなのか?)

(俺の集中を乱して何がしたいんだ?)

 自分の心に存在していた余裕が無い自分はそんなことを言っていた。

 でも、それは間違いだ。

 このままやれば、何も出来なかっただろうし、その失敗を人のせいにしてしまう俺が誕生していたことだろう。


「……ありがとうアリサ」

 カトウは再びレンの方に向き直りつつ、アリサにお礼を言った。

「ミチルさんがいないからね! カトウ先生のお守りは私がちゃんとしておかないとね!」

 そんなことを笑顔で言ってくるアリサに「もう大丈夫だから皆の元へと戻りなさい」と言うと、アリサは満足そうな笑みで皆の元へと戻っていった。


「……俺が自分の過去を代償にして手に入れた力なんだ。……これくらいこなしてもらわないと割にあわないよな!」

 そう言ったカトウの目に迷いはもうなかった。

「蘇生薬作成!!」

 世界共通語でそう言ったカトウは、自分の死をきっかけに作れるようになった蘇生薬を作り出し、横たわったまま動かないレンにぶっかけた。

 すると、レンの体がまばゆい光を放ち始め、それを見た学園生達は何かにすがるように祈り始めた。


「………………あれ? 俺って確か死んだはずじゃ?」

 その声はカトウの前方から聞こえてきた。

 そう言ってから体を起こしたレンは、手の感覚を確かめたり、周りを見はじめたりしだした。

「うわぁぁぁん!! レンぐぅぅん! いぎででぐれでほんどうによかったよ~!」

 その姿を見て全員が駆け寄り、ユウキに関しては泣いたまま飛びついていた。

 ユウキがレンに泣きながら飛びついてきたことで、その場にいる全員に笑みがこぼれる。


 こうしてレンは命を吹き返した。

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