22話 仲間との戦い6
剣で斬りかかってくるコウの腹に、何も持っていない拳で強めに殴った。
「……なぁ、お前達は見たことがあるか? 自分じゃ助けられないような存在を」
よろめいたコウに剣を突きつけながら、ピピリカを視界の端に捉え、そう質問した。
「…………何度もありますよ。近衛騎士に抜擢させられるまでは一介の兵士でしたから。……戦場で助けられなかった同胞や、守れなかった民間人を見ていると自分が不甲斐なく感じてしまいます。……俺は王様と違って弱いですから」
「……私もあったぞ。今はどこでどうしているか知らないが、たった一人だけ、どうしても助けられなかった存在が……。あの時程自分の無力さを噛みしめたことはない。……だから、お前達は私の力で助けてみせよう!」
そう言ったユリウスは、防御以外の用途でルーンを発動させる。
ユリウスの《ルーン・真実》は決して無条件で発動するものではない。
どのような攻撃でどういう避けかたをすればいいのか見せてくれる、ユリウス呼称の『ビジョン』という技は、所持者に危機が迫った時に自動発動するようにユリウス自身が設定している。
また、相手の心を見抜くのにも発動条件があった。
それは、所持者に対して、後ろめたい気持ちがある時に発動するものだった。
しかし、後半の能力については、ユリウスにもよくわかっていない。それは、この能力をユリウス自身があまり好ましく思っていないため、多様しないからだ。
だからこそ、それがどれ程絶大な能力を誇るのか知らない。
その能力は見せる。
このルーンの真実を。
「《ルーン・支配》? ……これが敵の力だっていうのか? ……俺のルーンは相手の能力まで知れるのか? …………おいおい、まずいぞこの能力は!」
今回攻めてきた魔族が持っていたルーン。それはユリウスの予想していた能力の遥か上をいくものだった。
◆ ◆ ◆
「……君ってそんなに強かったっけ? 僕の記憶じゃ、メグミちゃんよりかは少し強い程度だったと記憶しているんだけど……」
自分の造り出したゴーレムを凪ぎ払うレンという少年を見て、ティガウロがそうぼやいた。ティガウロ自身元魔法使いだ。
あの学校に通っているなら多かれ少なかれ魔法の才能がある子だとわかっていた。しかし、その火力は少なくとも普通の学生に出せるような火力ではなかった。
「……あんた、強いんだよね? 護衛とか言ってよく見かけていたけど、こんな雑魚しか造れないの?」
「ふ~ん……どうやら、子ども相手に本気出す出さない言ってる場合じゃないみたいだね。さっきの通信だと本当にまずい状況みたいだし。……まったく、君も操られているんだったらもっとそれっぽく動いたら? まるで自分の意思で僕を襲っているように見えたよ?」
「他の雑魚どもと一緒にするんじゃねぇ! ……あんたは、あの方の支配下に置かれてないみたいだし、楽しめそうだと思ったんだが…………どうやら退屈な相手みたいだな」
少年の言葉は、意味がよくわからなかった。
先程から僕の出すゴーレムの相手しかしていないくせに、何故、あそこまで調子に乗れるのだろうか?
ましてや、こちらは木製か土製のゴーレムしか使っていない。本気のほの字も出していないというのに……。それでも、出来る限り無傷の保護を頼まれているし、僕が行ったらそれこそ、加減が難しくなる。下手したら後遺症の心配までしなくちゃならなくなるから、ゴーレムに頼るしかない……と思っていたんだが、予想と大幅に異なるほど、彼の魔法が強いせいで、それもうまくいかない。
しかし、操られて王様にお手数をおかけしている二人の後輩を止めるために少しでも魔力は残しておきたかった。だから、魔力を大量消費する技は使いたくなかった。
ティガウロが苦戦している理由は、守るべき対象が三ヵ所あることだった。
妹達やアリスといった護衛対象。本来であれば、二人の護衛を連れて真っ先に守る必要のある対象だった。
しかし、肝心の護衛二人は敵の力で操られており、むしろ、ユリウスという護衛対象を襲っている。
そして、目の前にいるレンはマルクトの話だと一番危険な状態だ。そんな彼を放っておいて他の二ヶ所に向かう訳にはいかなかった。
そう考えている間にも、ルーンで造ったゴーレムが灰になっていく。
しかし、勝つイメージはあった。
ゴーレムを大量に出すことで、こちらは少量の魔力でゴーレムを造り、拘束を試みることができる。
いずれ、魔力が切れるのを狙って拘束するのもいい。
(あれだけの火力だ。魔力が尽きるのも時間の問題だろ。消火活動は土ゴーレム達がやってくれているし、俺は相手にどんどんゴーレムを造って投げればいいだけだ)
その作戦は間違っていなかった。人なら魔力がつきれば、生命活動を維持するために倒れることもある。
だが、ティガウロは知らなかった。
操られた者が、自分の意思で動けないことを……。




