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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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21話 支配者との戦い14

 カトレアの存在は、この戦いの戦況を揺るがすものだった。

 少し前の対コカトリス亜種(トリ)戦で、カトレアの実力を見誤っていたことがわかった。

 髪が長く伸びているように見えるのは、オーラが可視化されたものだと聞かされた。オーラが可視化できるほど、今の彼女は普段と違う。それこそ、普段とは天と地程の違いだ。

 だが、いくら強いとはいってもマルクトがサシで戦えば、勝てる相手には違いない。

 ただ、問題は戦う相手がカトレアだけではないことだ。


 今の状況でも正直いっぱいいっぱいだったマルクトからしたら、カトレアの参戦は、マルクトの勝算をことごとく打ち砕いていくものだった。計算が狂っていくのを、頭でわかっていながら、マルクトは諦めることだけは絶対にしようとしなかった。

 ここで自分が諦めれば、ここにいる皆の未来が失われることに繋がることを理解しているからだ。


(いや、ほんと勘弁してくれ!)

 カトレアが手を向けてくるのを見て、俺は急いでこの場にいる全員を守る結界を張った。

 全体的に影響を及ぼす氷結の魔法。

 俺一人なら、余裕で回避できる攻撃なのに、この状況でそんなことできる訳がない!

 急いで張った結界は丈夫で魔力をかなり消費したが、それが効果を発揮することはなかった。


「このバカカトレアーーっっ!!」

 怒りが混じった少女の声が、この辺り一帯に響いた。

 次の瞬間、凄まじい土石流がカトレアのいた位置を襲った。

 

「ベル!?」

 声がした方を見てみると、カトレアの右斜め後方の離れた位置に、金髪の少女がいた。


(……うわ~、容赦ね~)

 いきなりあんな攻撃をして、彼女は無事なのかと心配になるが、そう思った矢先、生き埋めにされたカトレアは、丸い結界に包まれて出てきた。

 明らかに無傷の状態だった。

「このバカカトレアっ! 師匠(せんせい)の邪魔しちゃ駄目って言ったじゃん!」

 ベルは俺達のところにまで走って来ると、俺の前に立って、両手を広げ、出てきたカトレアに向かってそう言い放った。

 その光景にその場にいた者たちは絶句する。


「ベ……ベル、お前は操られてないのか?」

「ん? 操られてないよ?」

 ……どういうことだ? なんで他の全員は操られているのに、ベルは操られていないんだ?

 確かカトレアは馬車に置き忘れていた荷物をベルと一緒に取りに行ってたはず、彼女が操られているというのなら、ベルも操られていてもおかしくない。……まさか、俺のルーン(操作)みたいに制限があるのか?

 そういうことなら、俺以外にも無事な奴らがいるのか?


 今まで自分以外に無事な人間がいるとは思ってもみなかった。信じていなかった訳ではないが、自分よりも強力なルーンの力は、そんな希望を持たせることすら憚られたみたいだ。


『今回来た全員に送る。現在の状況を速やかに教えろ!』

 マルクトは瞬時に探索魔法を使用し、全員の居場所を把握し、その言葉をこの場にいない全員に向けて送った。

 その間にも攻撃は受けたが、ベルの張った結界が、全てを防いでくれた。

 ……すると、

『やっと出ましたねマルクトさん! さっきから何度か連絡したのに誰も出ないから心配しましたよ! 妹達は無事なんですか!』

『あ~俺俺、カトウだけど、そっちはどんな状況? できればこっちに加勢してほしいんだけど?』

『マルクトが無事だったのは、戦闘音でなんとなくわかっていたが、どうやら二人も無事みたいだな。……それからカトウ、弱音なんて吐くんじゃない。こっちの気が滅入る』

 マルクトが全員に向けた通信魔法に返答があったのは、ティガウロ、カトウ、ユリウスの三人だけだった。

(……他に無事だったのは三人だけか。いや、逆に言うとこの状況で三人も無事だったのは喜ばしいことか)

『……他はいなさそうだな。……とりあえず、後で教えるから先にそっちから教えてくれ』

『わかりました。こっちは現在、レン少年からの襲撃を受けました。カトウさんからもらった痛み止めを飲んで、現在戦闘中です』

『俺のところは、メルランとアリサが急に変な感じになって襲われた。……一応言っておくが、今回は何もやってないからな! ……多分。……とりあえず、山の中腹辺りにいるんだが、どうすればいいと思う?』

『どうやら他のところでも仲間が操られているみたいだな。こっちは、護衛の二人と交戦中だ。どうやら、体が操られているみたいだが、なんとか意識はあるみたいだ。ただ、援護はいらないが、こちらからも行けそうにない。あ……そうそう、おいマルクト、アリスは無事か? もし、アリスに傷一つでもついてたら、お前と首謀者の首は胴体とおさらばすることになるからな』


 ユリウスの冗談には聞こえない脅しを聞きながら、同時にこの状況でも変わらないこいつらの普段通りが今はありがたかった。

 自分は一人じゃない。

 それだけでここまで力が湧いてくるとは思ってもみなかった。


『……こちらの状況を伝える。おそらく、ここが一番きつい状況にある。アリス、エリス、エリナ、クレフィ、メグミ、ユウキの生徒六人とカトレアが敵のルーンによって操られている。だが、ベルはなんとか無事みたいで今さっき合流できた。敵はディザイアと名乗る凶悪な魔族だ。そいつが、ソラの体を乗っ取って、戦いを挑んできた。それから、レンは敵の影響を一番受けているみたいだ。レンを頼んだぞティガウロ!』

『……はぁ、わかりました。やるだけのことはやってみますんで、エリスとエリナをよろしくお願いします』

『本来なら、そのディザイアとかいう害虫を排除しに行きたいところだが、今回はマルクトに任せる。……アリスをもう悲しませるなよ』

『こっちも出来るだけのことは、やってみるから、終わり次第、マルクト達の方へ向かうよ。まぁ、頑張ってくれ』

『わかった。そっちは任せたぞ。それじゃ、各々健闘を祈る』


 マルクトは、通信魔法を切ると、側にいるベルに誰にも聞こえないように囁いた。

「ベル、カトレアは敵の能力で操られている。彼女を助けるためにお前の力がどうしても必要なんだ。カトレアを任せてもいいか?」

 それは一種の賭けに近かったが、成長したベルが、この状況を打破できる鍵だと信じた。

「うん、大丈夫だよ! お父さんも言ってた。配下の者が囚われたら、助けるのは王の務めだって! カトレアはずっと私の側にいてくれた家族だもん! 私が絶対に助けるよ!」

 

 ベルが力強くそう言ったのを見て、マルクトはディザイアの方へ顔を向けた。

「さて、第三ラウンド開始といこうか!!」

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