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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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21話 支配者との戦い6


『ダークネビュラ』

 師匠から聞いたことがある闇属性魔法の奥義。ダークマターもだが、魔族特有の魔法で、人間には、使うことが不可能だと聞いていた。

 ……決定だ。こいつは魔族。しかも、人間にとりついて力を得るタイプのやつだ。

 そして、『ディザイア』という魔族で間違いないだろう。

 …………まさか、寄生するタイプの魔族だったとは……そこを教えといてほしかったぞ。


「な……何が起こった! 今のは我輩の最強魔法だぞ! 貴様いったい何をした!」

「レーザー、光属性の小型攻撃魔法だよ。それがどうかしたのか?」

 目の前で、ソラの体にいる魔物が驚いたような顔を見せてくる。


「小型魔法で我輩の魔法が破れる訳がないであろう! 貴様、本当は何をした!」

「本当も何も、嘘はついてないぞ。ほら、よく言うだろ? 一人で駄目なら二人で。二人で駄目なら三人で。確かに百相手に一や二でやったって敵わないけどさ。一が千個もあれば百に勝てるだろ?」

「あり得ぬ! 我輩の魔法は百程度ではない。そんなしょぼい攻撃が千ごときでーー」

「おい、勘違いすんなよ? 確かにダークネビュラは全体に影響を及ぼす魔法で強力だが、もろい一面もある。俺のレーザーはお前の繊細な魔法のもろい所を攻撃し、徐々に魔法自体を壊してみせたのさ。要は使い方、魔法において、力だけで押しきるなんてのは、愚策中の愚策だぞ?」

 もちろん、理由はそれだけではない。

 そもそも、闇属性最強の魔法がその程度で破れる訳がない。

 理由は簡単、先程と戦法を変えただけの話だ。

 相手の魔法を観察して、それに対しての最善策をとるやり方は、高等部時代に自分へと課した課題を今も続けているだけに過ぎない。

 要するに、相手の魔法を見た後に放つ後出しではなく、圧倒的な数と威力を有した小型魔法の連射。その戦法に変えただけだ。


 魔物は、俺の言葉を聞いて、怒りの表情を一層強めたと思うと、すぐに冷静な顔に戻った。

「……なるほど、諦めた訳ではなく、ただ、我輩の魔法を崩す手段を模索しておったのか。なかなかやりおるわ。……まぁ、魔法など、我輩の力の一端に過ぎぬがな」


 負け惜しみと取れなくもないが、それだけだとは、どうしても思えなかった。

「よかろう。貴様はどうやら、少しばかり楽しめそうな人間らしい。それならば、我輩の名を知る資格くらいは認めてやろう! よく聞け人間! 我輩の名はディザイア。魔王グリルから魔王の座を奪い取り、魔界を手中におさめた最強の魔族だ。頭が高いぞ人間!」


 その名前で疑う余地はない。

 こいつが、元魔王グリルの言っていた存在。

 ……そんな化け物が、ソラの中で蠢いていたのか。……どれ程辛かっただろうか。両親を殺した存在が自分の中にいたらと思うとあいつが不憫に思えた。

「……もう少しだけ待ってろよ、ソラ。俺が今からお前をその化け物から解放してやる」


         ◆ ◆ ◆


 魔法とは、魔力があってこそ威力を発揮するもの。

 ランクの優劣はすなわち、魔法の優劣に相当する。もちろん、一概にそう言える訳ではないが、基本的にはそうだと言える。

 ソラの元々のランクは青に充たない薄い青だった。

 人を殺すことで力を得ると言っていたが、どんなに頑張っても、紫くらいが限度だろう。

 実際のランクはわからないが、要するに俺の黒には到底及ばない。

 それを証明するように、数度の撃ち合いで、ディザイアは息を切らしていた。それはそうだろう。あんな大技、何度も連発していれば、魔力が切れるのなんてあっという間だ。

 発動速度と威力には驚かされたが、肝心の魔力量に限界がある時点で、魔力量にほぼ限界がない俺の敵じゃない。

 圧倒的な魔力量と魔法の知識量、そして、魔力の回復手段。こと魔法という分野において、例え、魔人だろうが、何だろうが俺相手に勝ち目なんてないのだ。

 魔法のみの分野において、最強の座は誰にも譲らない。


「シックスエレメンタリーショット!」

 マルクトがそう唱えるとマルクトを軸に六芒星が描かれ、その頂点の一つ一つに、異なる色のついた魔力の塊が現れ、それらが、マルクトのかざした手に集まり、混ざりあい、ディザイアに向けて放たれた。

けど

 シックスエレメンタリーショットとは、六つの属性の小型魔法を一つにまとめて放つ魔法。いにしえの魔法使いが編み出した魔法で、対抗手段は、同じ魔法だけというほぼ敵無しの魔法。威力は魔法使いが込める魔力量次第のマルクトと相性がすごく良い魔法だった。

 ディザイアは、再びダークマターを放とうとするが、もはや魔力がないのか不発に終わる。

 結果、マルクトの放ったシックスエレメンタリーショットをその身に受けてしまった。

 容赦のない一撃、本来であれば、手加減するのだが、今の状況で手加減なんてやれば、こちらが死にかねない。そんな戦いだった。


 今の攻撃は間違いなく、殺すとはいかないまでも、気絶は免れないであろう一撃だった。

 ……にもかかわらず、爆煙が晴れた時、ディザイアはそこに立っていた。さすがに無傷とはいかず、ところどころに怪我を負っている様子だが、学園の制服には傷一つついていない。

 今だけは、あの服の防御性能と安全性の高さに苛立ちを感じた。

「驚いたぞ人間! まさか我輩相手にここまでやるとはな! 久しぶりに心が踊るぞ!!」

「……もうお前に勝ち目がないのはわかったんじゃないのか? さっさとソラとレンを解放しろ!」

 再びシックスエレメンタリーショットを放つ用意をしながら、マルクトはディザイアに近付いていく。

 しかし、ディザイアの余裕ある態度は崩れない。

「断る! なぜこんなにも面白いゲームを止めねばならぬ? …………そもそも我輩は魔法において貴様に敵わぬことくらい折り込み済みよ! それでも、魔法で挑んだ理由は、ただの時間稼ぎに過ぎぬ!」


 その瞬間、目の前にいたはずのディザイアが消えた。

 自分の中で危険信号がけたたましい音をあげる。

 ディザイアが先程までいた場所には、ゲートが出来ている。おそらく、どこかへ転移したのだろう。

(まずい! 今すぐ、あいつのいる場所を探らないと!)


 そう思ったマルクトは探索魔法を使い、ディザイアの位置を探る。

 そして、その場所はマルクトが一番、ディザイアに行ってほしくない場所だった。

 マルクトは急いで、転移魔法を使った。

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