21話 支配者との戦い2
「おかえり、グリル。先生とはちゃんと話せた?」
腕で膝を抱えながら丸まっている黒髪の女性が、グリルに向かって問いかけてきた。
「……ちゃんと忠告もしておいた。これで死ぬようなら、それまでの男だったということだ」
グリルは素っ気なく言ったがその女性は羨ましそうな目でグリルの方を見てくる。
「うらやましいな~、グリルはマルクト先生といっぱい喋れてさ~。本当ずるいったらないよ! 私もあの誓約を知ってたらな~」
「話す相手を変えたか?」
グリルの言葉にシズカは急に口ごもる。
「…………ううん。それでも、先生に会ったと思うな」
シズカは、あはは、と悲しそうに笑う。
「だが、結局彼は何の前準備もしておらんかったぞ?」
「だね~、でも、先生って案外素直じゃないからな~。準備していないように見えて、案外いろいろやってるのかも」
「……だといいがな。私はベルさえ無事ならそれでよい」
「ふ~ん。そういえば、グリルって、本当はグリモワールって言うんだね? 知らなかったよ~。なんでグリルって名乗ってんの?」
「……単純な話だ。死んだ妻が気に入っていた呼び名を私も気に入っただけだ」
「へ~、グリルって愛妻家だったんだね~。私も結婚とかしてみたかったな~」
「……あの男と、か?」
「ふふっ、そうだよ。好きな人と結婚したいって何か悪いことかな?」
「構わんさ。だが、あの男のどこが好きだったのだ?」
「え~それ言わせる~? 恥ずかしいな~。でも、グリルには世話になってるし、少しくらい良いよ。……先生はね、優しいんだよ。他人を恐れているのに、人に優しく接することができるんだよ。それが例え、ライバル関係にあった従兄弟だろうと、奴隷の身に堕ちた私であっても助けてくれるんだよ」
シズカは遠い目をしながら、白く染まった虚空を見つめる。
(……頑張ってね、先生)
◆ ◆ ◆
目が覚めた時、そこはテントの中だった。
どうやら戻ってきたようだ。
食事中に意識を失ったにも関わらず、何故か用意していた寝袋にくるまっていた。
横を見てみると、ベルが俺のすぐ横で寝ていた。どうやら、今回は服を着ているようだ。
……そういえば、彼女の正体を知った次の日にも、目を覚ましたら彼女が横で寝てたな。
…………あれは寂しくて取った行動でもあったのだろうか?
ずっと側にいてくれた父親がいなくなったことは、ベルにとって辛かったのは聞くまでもないことだ。
(彼女の父親である元魔王グリルも、娘のベルに会いたかっただろうに、俺が不甲斐ないせいで、それが叶わなくなっちまったんだよな。……ごめんな、ベル)
マルクトがベルの頭を撫でると、う~ん、と可愛らしい声を出して、ベルが目を覚ました。
「悪い、起こしたか?」
ごしごしと目を擦るベルに、マルクトはそう言ったのだが、ベルは「……しぇんしぇ~、おはよ」と寝ぼけ状態でマルクトに挨拶してきた。
その姿につい笑いがこぼれてしまった。
◆ ◆ ◆
時刻は、すでに正午を回っていた。
マルクトとベル以外の全員が起きており、昼食の用意をしている者や、鍛練を行ったり、それぞれが自由に行動していた。
メグミから聞いた話によると、あの後、結局どうすればいいのかわからなくなったらしい。
そこで、テントで療養中のティガウロに相談すると、ティガウロは驚きながらも、そのままにしておく訳にはいかないと、動けない自分の代わりに土で作ったゴーレムを使用して、その場で倒れた全員をテントまで運んだというのが、昨日の出来事である。
ちなみに、昨日も言ったが今後彼女を調理台に立たせるのは、絶対禁止だ。というか、なんであれをメグミは平気で食えるのかがわからないんだが、魔人すらぶっ倒れるカレーを自信作と言って振る舞える彼女には驚きだ。
(どうやらもうすぐ、昼飯ができそうだな)
机を拭いたり、食器を並べたりの仕事を手伝っているエリスたちを見ながら、そんなことを思っていると、人が集まっていないことに気付いた。
ここにいないのは、テントで療養中のティガウロと、剣術の練習をするために、少しトレーニングをすると言って山の麓へ向かったユリウスと護衛二人、カトウは、アリサとメルラン先生と山を散策しに行った。
そして、レンが二十分程前に、ソラを呼びに行ったそうだ。




