20話 キャンプ5
「……なあ、その鳥はなんだ? さっきのコカトリスとかいう白いのはどこ行った?」
さっきまでいたはずの研究対象がいなくなったことでマルクトは混乱していた。
狼狽えるマルクトを前にして、カトレアは自分の肩に止まっている鳥を指差す。
「……まさかそいつか?」
マルクトは信じられないものでも見ているように、震えたまま、近付こうとすると、
「おい、そこの下等生物、姐さんや俺様に近付いてんじゃねぇよ。つつきまわすぞ!」
高い声でその綺麗な羽を広げて威嚇してくる。
「……ああ、こいつあの連中の仲間だ。なんか今のですごく納得できた。……というかカトレア、こいつの口調どうにかならないのか?」
「無理ですね。舐めてる相手には絶対に態度を崩しません。一生こんな感じです」
「なるほどね~。ちょっと二人ともここで待っててくれ」
「なんだよ! 近付いてんじゃねぇよこの愚鈍な猿ギャピッ!?」
マルクトは毒を吐いてくる白い鳥の首を掴んで防音結界の外に出た。
……十分後
「この白豪。マルクト様の僕。先程の暴言の数々、誠に申し訳ありませんでした。これより心を入れ換えて、マルクト様のお役に立てるよう尽力していきます」
「いやいやいやいや、さすがにおかしいでしょ! おい白豪、いったい何があった!」
翼を器用に折り曲げて、かしずく姿勢を見せる先程の白い鳥。
その先程までの面影が一切なくなった同胞をカトレアは心配そうな目で見る。
「何をおっしゃるカトレア殿、白豪はもともとこんな感じだったではありませんか」
なんか一人称や、しゃべり方まで変わっているところをみると何があったのかすごく気になる。
「……なぁマルクト、いったい何やったんだ?」
「何ってそりゃあ、………羽を抜いた」
((抜いた!?))
「一本一本痛みを増幅する抜き方で抜いてくる拷問、全部抜くまで耐えきると、回復魔法で治されて、治ったらまたそれを繰り返す。最初は本当に人間のやることか!? と思っていたのですが、なんだかだんだんその痛みが気持ちよくなってきたのです。なんだか自分でもよくわからないのですが、新しい世界が垣間見えたのです」
話をしている最中、コカトリスが興奮しているのが伝わってくる。
「いやマルクト、さすがに酷すぎるんじゃないか?」
「マルクト様に文句言ってんじゃねぇよ、このどぐされ猿が!」
綺麗に整った顔が一変、器用に怒りを現すコカトリスにユリウスは絶句した。
「………なんで俺には未だにこんな感じなわけ?」
「なんでってそりゃあ……抜いてないからだろ」
「お前程度の猿がマルクト様と口聞いてんじゃねぇよ。お前はひざまずいて、マルクト様の靴を舐めな!」
「………全然可愛くないな。抜くっていうかさわりたくもない」
「なにを今更、こいつが可愛くないなんてことは会った最初からわかってたじゃん」
「……それはそうだが、それでこいつをアリスたちにどう紹介するんだ?」
「え? ペットだけど?」
「はい。白豪はマルクト様の忠実な僕、一生あなた様についていきます」
「いい心がけだな。後で羽を数枚抜いてやろう」
「ありがたき幸せ!!」
嫌がらせにしか思えないのに、コカトリスは本当に嬉しそうな表情をしている。
「そんなことはどうだっていいんだ! こんな変態鳥をアリスたちに見せるわけにはいかん!! こいつはここで燃やす」
「やってみろや。口だけのへたれ猿が~」
「少し黙れコカトリス」
「はっ、仰せのままに」
マルクトはコカトリスに侮蔑の目を向けているが、それすらも嬉しそうにしているコカトリス。
マルクトはコカトリスの様子を見て大きなため息を吐くと、
「確かに、こいつを子どもに見せるのはなんかいろいろとやばい気がするな。………よし! コカトリス。お前はこれから俺の許可があるまで誰とも喋るな。俺やカトレアとの念話は許してやるが、それ以外の者に俺の許可を得ずに喋ることを許さん」
「そ……そんな! それではアイデンティティーがーー」
「わかったな?」
「………うっ……あ」
「わ、か、っ、た、な?」
威圧してくるマルクトの表情には、反論を許す気なんてまったくなく、コカトリスにはうなずくか拒否するという選択しかなかった。
しかし、先程逃げることに関しては失敗しており、その失敗がコカトリスの選択の幅を狭めていく。
「………………はい」
長い沈黙の後、コカトリスはうなだれるように、うなずいた。




