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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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19話 出発準備5

 その茂みから現れた人物を、不審に思っていた街灯の明かりが照らし出す。

 それは、赤い斑点のついたワイシャツを着た黒髪の少年だった。

「……なんだよソラじゃないか。ったく驚かすなよ」

 緊張が解けたレンは探し人の方へ歩み寄っていく。

 目の前で、上着を羽織っているソラを不審に思いながらも、ユウキはレンの後に続く。

 夏という季節を長袖で過ごすのは明らかに不自然だった。夜とはいえ、蒸し暑いのは変わらない。


「こんな時間まで特訓か? 相変わらず向上心高いな~そういうところはまじで尊敬するぜ」

 レンは感心した様子でそう言っていたが、ソラは眉一つ動かさない。

 そのいつもとは異なる態度にレンも少しだけ違和感を覚えていた。

「なんだ? 具合でも悪いのか? まぁ無視することはよくあるけど、いつもはため息とかつくのにな~」

 レンが笑いながらソラの肩に手を置いた瞬間、ユウキがその場から飛び退いた。

 その顔には、緊張で余裕がないのか、いつものかわいらしい顔は恐怖に支配されていた。

 呼吸も浅く何度も吸って吐いてを繰り返している。

 しかし、何も起こらなかったことがわかり、徐々に呼吸が整っていく。


「おい……どうしたんだ?」

 いきなりの行動にレンが戸惑っているのが声の調子でユウキにはわかった。

「な……なんでもないよ……なんか大きな虫がいてさ、ちょっと怖くて避けただけ」

 ユウキは咄嗟に誤魔化したが、青くなった顔色は良くなっていない。幸いにも、ユウキがいるところに街灯は立っていなかったので、夜の闇が深かったため、顔を見られることはなかった。

 ユウキは誤魔化しながらも、その視線はレンの方ではなく、ソラの方に固定させていた。

(気のせいかな? 今……すごい殺気がソラ君から放たれたと思ったんだけど……もしかして気のせいかな? ……だよね。気のせいに決まってるよね。ソラ君が僕たちに向かって殺気を放つ訳ないもんね)


 ソラの方も、その目はユウキの方に向けられていた。

 ソラは何かを考えているような素振りを見せると、二人に声をかけた。

「なんだレンとユウキ君だったのか。こんな遅くに何の用かな? さっさと帰って風呂にでも入りたいんだけど」

「そっか、悪い悪い。ちょっと話があってさ」

 いつものように腕を振り払われて、レンもこの不信感を気のせいだと考えることにした。


「さっそくで悪いんだけどさ、皆でキャンプ行くって話になってるんだが、一緒に行かないか?」

「断る。やらなきゃならないことがあるんだ。お前とのお遊びに付き合ってやるつもりはない」

「相変わらずつれないねぇ。そんなこと言ってていいのか? 今回のキャンプにはあのエリスちゃんとエリナちゃんが参加するんだぜ! あの二人の他にもアリスちゃんにメグミちゃんといった豪華メンバーが集結するんだぞ! 行かなきゃ損だって! なぁユウキ!」

「損かどうかはよくわかんないけど、僕もソラ君と一緒に行きたいかな」

 いきなり話を振られておどおどし始めるユウキ、しかし、彼もソラを誘うために来ているため、なけなしの勇気を振り絞る。


「いくらユウキ君に言われたとしても、興味がないんだよ」

「……そっか、なら仕方ないね。気が変わったら僕たちか先生に言ってよ。僕たちはいつでも大歓迎だからさ」

「ちょっと待て」

 ソラに断られ、ユウキが残念そうに諦めたあと、気落ちしたように今来た方へ引き返そうとするがそれを他ならぬソラに止められた。

「気が変わった。やっぱり僕も同行させてもらうよ」

 さっきまで、行く気なんてさらさらなかったにもかかわらず、ソラは唐突に参加すると言ってきた。

 その言葉に目を輝かせているユウキとは違い、急に意見を変えた友人を不審に思うレン。

 何が彼の気を引いたのかと、先程のユウキが言った言葉と自分が今までに言った言葉を比べて一つの回答を出した。

「はっは~ん。さてはお前先生のことが好きなんだろ~? りょ~かい、了解、先生には俺からお前が来るって伝えとくから、一緒に楽しもうぜ」


 レンの言葉を皮切りにこの場は解散された。


         ◆ ◆ ◆


「……これで良かったのか?」

 ソラは己の内に住む化け物に話しかけた。

(ああ、危うく彼らを殺しかけたが、貴様が協力してくれたお陰でなんとかなったぞ)

「友達をみすみす殺されては堪らないからな。だから約束しろ。友達には手を出すな」

(まだどちらが上か分かっとらんみたいだな)

 その言葉が脳内に囁かれた直後、心臓が締め付けられるような痛みがソラを襲った。

(貴様の体はすでに我輩のものだ。貴様の協力次第ではあの少年たちは死ぬ。間違っても変なことをしようとするなよ。貴様と我輩は一心同体、殺しなどしないが、お前を死んだ方がましと思えるほどの痛みで攻め続けることもできるのだ)


 痛みで悶絶していたソラだったが、改めて恐怖を刻み込まれたことにより、既に抵抗する意志は残されていなかった。

 涙が零れてくるのを必死に止めようとするが、体の主導権は既にソラではなかった。

「ふっふっふ、キャンプか、ちょうどいい。せっかくなら自分を慕う生徒の前で無惨に殺してやろう」


 その言葉を残し、ディザイアは死体が蔓延る公園を後にした。

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