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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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19話 出発準備4

「ソ~ラ~くん、あ~そ~ぼ!」

 それは暗い夜の時間帯には似つかわしくない大声だった。

 まるで相手をおちょくっているような声に反応したのは呼ばれた当人ではなく、彼の母親だった。

「……またあなたね、いい加減その呼び掛けはやめなさいと何度言えばわかるの?」

「こんばんはおばさん。でもこれしないとソラのやつ来ないじゃないっすか」

「……いい加減わかりなさいよ。ソラにはあなたのような子どもと遊ばせている余裕はないのよ。あの子には将来、魔法開発研究所の研究者になってもらわないといけないの! ……まぁ、あなたのような何度言ってもやめない子どもにはわからないでしょうけどね」

「だけど、あいつの人生はあいつのものですよ? おばさんが勝手に決めるものじゃないですよ?」

「はいはい、どうせ言っても聞かないのは分かってたからさっさと帰りなさい。それから今日はあの子まだ帰ってきてないわよ」


 レンはソラの母親が言った言葉の真意を探る。

 いつものように帰れの意思表示なのかと思ったが、その対応が普段と異なり、少し心配しているようにも見えて、本当に帰ってきていないのだと判断した。

(珍しいな。ソラが門限破るなんて……いつもの場所で特訓でもしてんのか?)


 今はパーティーが終了した四時から時間が経って、午後八時を回っていた。

 普段とは異なる行動をとる親友が気になり、レンはそこに向かうことにした。

「……そうですか……じゃあまた来ますね」

「もう二度と来なくていいわよ」


 レンはソラの母親にそう言われた後、ソラが居ると思われる場所に向かった。

 どうせいつものようにあの広い森林公園にいるんだろうと考え、夜の暗くなった住宅街を歩く。


「早かったねレン君、……ソラ君いた?」

 レンが目的地に行く道中、少し寄り道をした。街灯の光に照らされながら、まだ声がわりしてないんじゃないかと疑うくらいの高い声を発してきたのは、ユウキというレンの新しい友人だった。

 ユウキとは中等部からの同級生だったが、彼のことは噂に踊らされて、毛嫌いしていた。しかし、マルクト先生の特訓を受け始めてから、仲良くするようになった。

 あんまり、人を悪く言うようなやつではなく、気弱な性格だけど、優しいやつだった。

「ごめんな。こんなとこで待たせて。あいつ、自分の家知られるのあんまり好きじゃないからさ」

「いいよ。さっき聞いたから、別に気にしないで。それよりもちゃんと伝えられた?」

「それがさ~あいつ家にいなかったんだよね。多分あそこにいると思うんだけど、ユウキはどうする? もう遅いし親も心配するだろ?」

「大丈夫だよ。今日はうち親いないし。それに一人でいるより、レン君といる方が僕も楽しいんだ」

 電灯の光に照らされた笑顔は、男とは思えないほどかわいらしいものだった。

 正直レンも、ユウキが男だと分かっていなければ、惚れてたかもしれない。

「……なら良かった。ないとは思うけど、あんまり人にあの場所のことを言わないでくれよ。あいつにとって秘密の場所だからさ」


 自分の言葉にユウキが頷いたのを見て、レンたちは目的地へと向かった。


         ◆ ◆ ◆


 レンたちがやって来た公園は、夜のせいもあるだろうが、人はあまりいなかった。いるのは、ここで寝ているホームレスか酔っぱらってそこら辺で転がっている中年男性だけで、若い人影は誰一人としていなかった。

 奥に広がる森林エリアは夜のせいでなんか不気味な感じがした。


「ほ……本当にここにいるの?」

 怯えた様子をみせ、レンの腕にしがみついているユウキは震えた声で聞いたのだが、レンの視線は別の方を見ていた。

 ユウキもつられてその方角を見てみるがそこには()()()()()()()()()()街灯があるだけで他には何もなかった。


「あれ? なんであそこだけ街灯ついてないんだろ? 込められていた魔力が尽きたのかな?」

「……おかしいな。ここの街灯は周囲の人間から気付かない程度の微量な魔力を吸いとってつく仕組みの筈だから、近くに人がいれば消えないはずなんだけど」

 レンとしてはただ疑問を投げ掛けただけなのだが、その言葉でユウキの震えが増した。

「も……もしかして、お……お化けなのかな?」

 

 人が近くで寝ているにもかかわらず、明かりのつかない街灯は実に不気味で、ユウキが恐がるのも無理はないが、そんなに怖がられるとこっちまで怖くなってくる。

 奥にある森林エリアが途端に魔の蔓延る世界と思ってしまうほどで、風に揺られる木がこちらの恐怖心を煽ってくる。


 するとそちらの方から、草を踏む音が聞こえてきた。

「ね……ねぇ、これって足音?」

「み……みたいだね。ユウキ……今なら帰ってもいいんだぜ?」

「だ……だめだよ! レン君一人置いていくなんて僕には出来ないよ!」

 ユウキは勇気を振り絞ってそう言うが、足は未だに震えていた。

 やがて、消えていたはずの街灯がちかちかとつき始めた。

 レンは音のする方に身構えるが、徐々に近くなってくる恐怖に変な汗が出てくる。

 森林エリアとこの広場を隔てる茂みが、がさがさと音を発したことで、レンもユウキもそこに目がくぎ付けになった。

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