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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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19話 出発準備2

 アリスの大声はユリウスに衝撃を与えた。

 今まで自分の意思をはっきり伝えることが苦手で、いつも我慢してばかりだったアリスが、行きたくないと言ってきたからだ。


「お兄様!! その舞踏会が大事なのは分かっています。しかし、初めてのお友達が出来たのです。(わたくし)がこの国の第一王女だと分かっていても、それでも変わらず接してくれるお友達が出来たんです。だからどうかお願いします!! キャンプに行かせてください!!」

「……いいのか? キャンプってことは山に行くんだろ? もしかしたら、山の主的な化け物やこの前みたいにファイティングベアーとかが襲ってくるかもしれないぞ!!」

「大丈夫ですわ!! もしもの時のために、黄色のリュックサックには大量の武器が入ってます。もしもの時は返り討ちにしてみせます!!」

「武器だと!? そんなものまで用意してるのか……いやでも、もしかしたら食糧が食われて餓死の危険性も……」

「安心してくださいお兄様、緑色のリュックサックには一ヶ月分の食糧を調達していますわ。私のお人形さんに協力してもらって城の食糧庫からいただいてきましたの」

「ちょ……ちょっと待ってくれ。そんな量の食糧持っていっていいなんて誰が許可したんだ!!」

「お義姉様ですわ」

「カナデーーーーっっ!!」


 ユリウスは項垂れながら、アリスの協力者の名を叫ぶ。

 正直カナデに城の食糧庫管理を任せたのを後悔した。

 いろいろとおかしいとは思うがここまで準備万端だとは思っていなかった。これでは行かせないなんて言いたくない。

 言ったら嫌われる。絶対嫌われる。お兄ちゃん大っ嫌いって言ってもらえると……ちょっとこうふ……いや耐えられない。

 そんなの俺からしたら死活問題だ。

 こっちは久しぶりの旅行をアリスと満喫する予定だったのに、その計画がパーだ。

 カナデは行くなって言ったにも関わらず仕事行くし、食糧持っていっていいなんて勝手に許可だすし、グスタフは嫌な思い出があるって行くの拒んだし。

 こうなったら

「……も行く」

「お兄様?」

「俺も行く!!」

 ユリウスが告げた言葉にアリスは驚きが隠せなかった。

 王女であるアリスとは圧倒的に立場が違うユリウスが行かせないどころかこちらについてくるとか言ってきたのだ。

「いいのですかお兄様? グスタフは四大大国の……」

「そんなんどうでもいいよ。だいたい誰が好き好んであのおっさんの国に行かなきゃならないんだよ。というかこの前行ったし。しかも臭いし、つまんない話を一晩中聞かせてくるし、俺が若いからって説教という名の自慢話ばっかりしてくるし、あんな頭沸いたおっさんなんて酒をただでくれるくらいしかいいとこないし、しかもこの前はアリスを変な目で見ていたし、正直舞踏会なんて行かせたくなかったし、アリスがそう言ってくれてちょうど良かったと思ってるくらいさ。しかも嬉しいことに決意は揺るがないようだね。それなら断る口実はここ一ヶ月やまのように考えてあるから安心してくれ」

「お……お兄様?」

「……アリス、本当ならお前にはこんな話をしたくなかったんだがどうせだし一つだけ聞いて欲しいことがあるんだ」

「な……なんでしょう」

 先程まで早口で羅列していた言葉とは異なり、穏やかな口調と声質で言ってくるのが、アリスにとっては少し怖かった。

「あのおっさんな。この前行った時、お前に婚約者はいるかどうか聞いてきたんだぜ?」

 その瞬間、アリス全身の鳥肌がたつのを感じた。

 生理的に無理と全身で表している妹の姿を見て「だよな」とユリウスは呟いた。


「だから本当に気にしなくていい。例え後々グスタフ皇国の王様が水辺に浮かべられていたとか、急に姿を消したと聞いても本当に気にするな。だから一緒にキャンプ行こう」

(お兄様がストレスでおかしくなってしまいましたわ……どうしましょう)

「そ……それで何故お兄様までキャンプに行くことにしたのでしょう?」

「そりゃあ、アリスと遊びたいからだけど?」

(公務投げ出して妹と遊びに行く王様なんて聞いたことありませんよ。……ですがお兄様は一度こうと決めるとなかなか考えを曲げないですし……どうしましょう………そうだわ!)

「お兄様、今回のキャンプは友人だけで行きませんわ。男の子も……一緒に行きますし、それに頼りになるマルクト先生もご一緒に……」

 男の子という言葉を聞いた瞬間、アリスがすぐに言葉を紡げなくなるほどの不機嫌オーラを放ち、マルクトの名前を出した瞬間それの度合いが増した。


「……わかった」

 数秒の沈黙が空間を支配した後、ユリウスはその言葉を発した。

 その言葉を聞いた瞬間、アリスは胸を撫で下ろす。

「要するにマルクトから直接許可取ればいいんだな?」

 その言葉を聞いた瞬間、アリスはものすごく嫌な予感がした。

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