17話 魔法開発研究所1
魔導王国マゼンタの中心部にある王都、この王都の中でもあまり人の寄り付かない地域に一軒だけ建っている建物、この白く広い建物が魔法開発研究所なのである。
魔法開発研究所とは、全体的な魔法の開発及び、他の研究所を纏める重要な施設の名称である。
この魔法開発研究所の所員になるため、多くの学園生達が日夜魔法の研究に勤しんでいる。
所員になるための方法は大きく分けて二つ、スカウトか、試験を受けて合格するかである。
魔導学園エスカトーレの学園生達はスカウトの目にとまるため、魔導フェスタ、校内戦この二つで成績上位者を目指すのであった。
そして今回、こんな微妙な時期に新人が入ったと聞かされれば、マルクトも多少気になる。
先日、この日に来てくれと言われたため、こうして魔法開発研究所に赴いた。これが今マルクトがここにいる経緯であった。
マルクトが研究所の扉を開けようとすると、まるでわかっていたかのようなタイミングで白衣を着た金髪の女性が扉を開けてきた。
「お待ちしておりました主任」
深々とお辞儀をしてくるのは、普段の私生活とは異なり、シルバーフレームの眼鏡をかけたマリアだった。
彼女は、マルクトの学園時代からの友人であり、この魔法開発研究所ではマルクトの助手を務めている女性だった。ちなみにマルクトの学園時代担任を務めていた教師の一人娘でもあった。
あのさぼり魔とは似ても似つかない。しっかりと自分の仕事をこなす人物だった。
「おはようマリア。悪いんだけど早速案内してもらえるか?」
「かしこまりました。こちらになります」
マリアはそう言うとすぐに例の新人がいるところに案内してくれた。
マリアは普段の様子で基本的に隙を見せることはない。
もちろん、気の許せる相手に対しては一切素を隠さないで生きているが、他の所員もいる玄関で、一応主任という立場でもある俺に対してタメ語は使わないし使えない。
まぁ、此方としてはどっちでも構わないのだが、公私混同させないところは好ましい性格だとも言える。
新人たちの待っている部屋に向かう道すがら、他の所員にも挨拶していく。
てっきり裏切り者だとか言われるんじゃないかと思っていたんだが、どうやら杞憂だったようだ。
どちらかというと同情してくる人が多かった。
確かに、魔導フェスタでは、学園に来た侵入者と戦ったり、変な魔族と死闘した。それが終わったら、次はプランクという組織がわざわざ俺のいるタイミングで攻めてきた。
正直言って俺がいるから事件が起きてるんじゃないかと思ってしまうぐらい事件が起きている気がする。
まぁ、俺だけならまだしも、生徒達が巻き込まれるのは看過できない。
まだ教師になって四ヶ月くらいしか経ってないのに、なんでこんなにいろいろと事件が起きるのだろうか?
(これから先、何も起きないでくれるといいんだがな)
マルクトがそんなことを考えていると、前を進んでいたマリアが立ち止まってマルクトの方に振り返る。
「此方の部屋になります。所長、マルクト主任をお連れしました」
マリアはノックをして中にいると思われる人物に確認を取った。
部屋の扉には『所長室』と書いてある。どうやらここに新人が待っているらしい。どちらにしろ、所長にも挨拶する予定だった訳だし、ちょうど良かったとも言える。
中から入るよう指示が出たので、俺たちは「失礼します」と言ってから部屋に入った。
◆ ◆ ◆
部屋に入れば、そこには四人の人物がマルクトたちを待っていた。
一人は部屋に取り付けられた椅子の中で最も高そうな椅子に腰掛けている白髪の男性。机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきている彼がこの魔法開発研究所の所長、ベルクガルドである。
そういうポーズをとっているととても威厳のある感じに見えるが、実際はかなり心配性で、周りを巻き込むとんでもない男だったりする。
(実際それで迷惑かけられたの一度や二度じゃないしな)
マルクトが所長に向かって挨拶をすると横から声をかけられた。
「お久しぶりですねマルクト君」
そう言ったのはマルクトと同じく主任の立場にあるメアリーという高齢の女性だった。
自由気質でやりたいことを優先させるマルクトも、周りをかきみだす所長も頭が上がらない唯一の存在。
冷静沈着で緊急時の判断も的確、慈母のような優しき性格を兼ね備えており、たまに悪鬼羅刹と化したように思える程の容赦ない鉄槌で所長だろうが、権力者だろうが容赦なく怒る。
そんな彼女は女性所員の憧れ的存在であり、男性所員の母親的存在として、二十年もの間この魔法開発研究所を支えている人物だった。
魔法研究部門の主任であるマルクトとは違い、魔法具という魔力を動力源にした道具を開発している部門の主任である。
ソファーに綺麗な姿勢で座る彼女に、マルクトは丁寧にお辞儀をする。
「お久しぶりですメアリー主任。ご壮健そうで何よりです。ところで所長、そちらの方が今回この魔法開発研究所に新しく来た者たちですか?」
マルクトの見た方向には二人の女性が立っていた。
二人とも魔導学園エスカトーレの生徒とは思えない年齢に見える。
一人は、メルラン先生と同じか、彼女よりも多少上くらいの年齢だと思う。そう思えるほどの大人びた女性だった。
一子乱れぬ紫色の髪を長く伸ばしており、隣に立っている人物と違い直立不動の姿勢を崩さない。
その立ち居振舞いは、仕事が出来そうな印象を与えてくる。
実際に見てみれば、戦力として申し分無さそうな女性だと思った。この時期に入ったのも納得できる。
……しかし、
(こっちに関してはどう判断すればいいんだよ)
マルクトはそう思った人物の方をちらっと見てみる。
この『魔法開発研究所』という話で一旦章を区切ることにしました。
元々はまだ章の前半最後の話だったのですが、あれとカトウ君の話を同じ章に置きたくなかった。
という訳で元々メインとなるはずだった話は次章に持ち越しです。
それからもう一つ重要な話、現在連載中の『魔王様はゲームが下手』を一旦完結することにしました。
この後の展開も考えてはいたのですが、なにぶんリアルが忙しくなったりと余裕がなくなってきたためです。
という訳で、明日投稿する最終回の後は前みたいにこちらを毎日投稿に戻します。




