3話 魔導王国マゼンタ2
メグミは目の前に広がる光景に度肝を抜かれていた。
三階建ての広い家、広くてよく手入れされていた庭、そして、入り口の門から玄関までの道のりの途中に噴水まであった。
(……うそ……私ってもしかしてこんなに大きな豪邸でこれから働く……というか暮らせるの?)
驚いて困惑しているメグミとは対照的に、ベルはとてもはしゃいでおり、今にも庭を駆け回りそうな雰囲気を醸し出していた。
「ベル。悪いけど遊ぶのは後にしてくれ」
ベルのやりたいことを瞬時に見抜いたマルクトの言葉に、ベルはすねたように口を尖らせながら渋々マルクトについていった。そして、メグミとカトレアの二人も後に続いてその屋敷に足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆
「お帰りなさいませ、旦那様と」
マルクトに連れられて、家の中に足を踏み入れると、中には十名程のメイド服を着た女性が並んでおり、その手前に一人の初老の男性が立っていた。彼らは一斉に挨拶をしてくる。
「ただいま。皆に紹介するよ。今日からここに居候することになったベルと、ベルの世話係のカトレア、そして今日から住み込みで働くメグミだ。皆仲良くしてやってくれ」
マルクトの紹介に、ベルは手をあげて返事をし、カトレアは綺麗な仕草でお辞儀をし、メグミは慌ててお辞儀をしてそれぞれ挨拶し始めた。
次にマルクトはメグミたち三人のほうに向き直る。
「次に使用人側の紹介だな。このいかにもできますよ的な雰囲気を醸し出している男が俺の執事、クリストファーだ。実際できるやつで、俺も重宝している」
「お褒めいただき光栄にございます。私はマルクト様の執事、クリストファーでございます。気軽にクリスとお呼びください。以後お見知りおきを」
白に近い灰色の髪をオールバックにした執事服の男性は綺麗な所作で丁寧にお辞儀をした。
「何か困ったことや分からないことがあったらクリスに聞いてくれ」
「「「よろしくお願いします」」」
その他にも十人のメイドが紹介されていき、最後の一人を紹介し終えたところでマルクトは三人に体を向けた。
「最後にクリストファーの娘でクレフィという子がいるんだが、彼女はエスカトーレの学生で今は授業中でいないんだ。帰ったら挨拶してやってくれ」
「わかりました」
マルクトの言葉にメグミがそう言って、他の二人もうなずいたのを確認してから、続けて言った。
「すまないが俺もまだ仕事が残っているから、街の案内は難しいんだ。クリス、三人の部屋への案内を頼む。それから部屋への案内が終わったら、俺の部屋に来てくれ。ついでにカトレアとメグミの指導担当も決めておいてくれ」
「うけたまわりました」
自分の指示に綺麗な所作でお辞儀したクリスを満足気に見たマルクトは、二階の自室に戻っていった。
◆ ◆ ◆
「それではお部屋へとご案内致します。どうぞこちらへ」
三人はクリストファーに案内されて三階の部屋に向かう。
その道中、メグミが最近気になっていることをクリストファーに尋ねてみた。
「あのぉ……クリスさん。クリスさんに一つ聞いてみたいことがあるんですけど……」
「なんでしょう?」
「マルクトさんはどんな仕事をしているんですか?」
メグミの質問にクリストファーは少し驚いた様子を見せたが、すぐに優しい笑みを見せた。
「おや? ご存知なかったのですね。旦那様は現在、魔法開発研究所の主任を勤めていらっしゃいます」
その初めて聞く仕事にメグミは首を傾げた。
「魔法開発研究所?」
今度はクリストファーも想定していたようで、彼はすぐに答える。
「はい。新魔法の開発や現存する魔法の研究を主体に行っている施設でございます」
「……それでこんな広い屋敷に住んでいるんですか?」
「いえ。それはまた別の話でございます。申し訳ございませんが、さすがにその話を私の口からする訳にはまいりません」
そんな話をしていると、目的の部屋に着いた。
中に入ると、ベッドと机と椅子がおいてあった。
ベルは自室にあるベッドの上で跳び跳ねて遊んでいた。
「わーい。ベッド! ベッド! ふっかふか~」
中からベルの楽しそうな声が聞こえてくる。
「ではお嬢様。夕食の時間になったら迎えにあがります」
そう言って、クリストファーは部屋の扉を閉めた。
すると、彼は二人の方に体を向けた。
「ではお二方は着替えて仕事にとりかかっていただけますか? リーナ、手伝ってさしあげなさい。それと二人の指導係はリーナにお任せします」
クリストファーがそう言うと、クリストファーの傍らに控えていた緑髪のリーナと先程名乗っていた二十代前半のメイドが前に出る。
「わかりました。私がお二人の指導を務めさせていただきます。ではまずは採寸を行いましょうか!」
そう言うとリーナと名乗るメイドはやや興奮気味に、二人を引っ張っていった。
「……では、私も旦那様の元に向かいますかな」
三人を優しい目で見送ったクリストファーは、彼女達の姿が見えなくなると、彼女達とは別の方向に歩を進めた。
◆ ◆ ◆
「さぁ……覚悟してくださいね」
そう言いながら手に採寸用の巻き尺を持ったリーナと、手をわきわきと動かしているカトレアが、下着姿のメグミに詰めよってくる。
それに怯えるように、後ろにあとずさるメグミ。
しかし、無情にも狭い更衣室の壁に背中が当たり、もう下がれなかった。
二人の目がキラリと光る
「お覚悟!!」
少女採寸中……
「……大きいですね」
「……ですね」
リーナとカトレアは目の前の巻尺に記された数字を見て驚いていた。
「……Gカップですか。なぜ十五歳の身でそれほどまで成長なされたのか」
「何食べたらそんなに大きくなったんです? わた……いえ、是非、全国の貧乳で悩まれている方に教えて差し上げるべきですよ!!」
「もうやめてください!!」
メグミは顔を真っ赤にして叫んだ。
その叫びで我にかえったリーナは、メグミに対して謝罪した。
「これは失礼。取り乱してしまいました。一応サイズにあった服はなんとかありましたので、それにお着替えください」
リーナはクローゼットからメイド服を二着取り出すと、それぞれサイズにあったものを二人に渡した。
メグミは疲れたような表情でそれを受け取り、カトレアも感謝の言葉を伝えながらそれを受け取る。
二人はメイド服に着替え、リーナの指導のもと、仕事を開始した。




