15話 奪われたカトウ1
暗い暗い空間、夜よりも暗く、まさに闇と表現するにふさわしい場所、ここでは周りの様子もわからない。
その闇の中にいると、自分が何かもわからなくなってしまいそうな感覚に陥ってしまいそうで、自我を保つことだけが自分に出来る精一杯だった。
この場所は、最悪の環境と言っても良かった。娯楽は何もないし、話し相手もいない。腹はすかないからなんとかなったけど、この空間にいると自分の中にある何かが削られていくような感覚がする。
それが何かは心あたりがない。
まるで、自分の中にぽっかり穴が空いてしまったような気がする。
時間の感覚なんてよくわからないが、何百年とここにいたようにも思えるし、一瞬だったような気もする。もしかしたら時が止まっているのかもと思ったこともある。
「そういえば、今回はあいつ来ないんだな。てっきりこの空間に来た瞬間会うもんだと思っていたのに、……あんな奴でもいてくれれば、どれ程気が楽になるんだろ」
「呼ばれて飛び出て神様だよ~!!」
「いや呼んでないです。お帰り下さい」
「ええ!?」
闇のごとき暗い空間に突如として現れたのは前回と同じカトウの姿をした奴、などではなく、普通の老人だった。しかし、声は前回と同じだし、雰囲気もよく似ている。
見た目以外はなんか同じっぽい気がする。
「ん? あぁ、この見た目に驚いてるんだな? 前回はお前さんの体を借りておったが、本来はこういう姿なんじゃよ。どうじゃ? これなら見た目にあっとるかの~?」
口調どころか声まで変えてくるこの老人、髪は一本も生えておらずシワだらけの猫背だった。
仙人のような老人だったが、白い髭に持ち手側が少し丸まっている杖を手に持っていた。もはや、前の面影なんて何処にも見受けられない。
「それで? 何の用なんだよ。今まで呼んだって来なかった癖に今頃のこのこやって来やがって、しばきまわしますよ~」
「笑顔で恐ろしいことを言いよるの~。最近の若者はこれじゃから困るの~、せっかく終わったから迎えに来てやったというのにの~」
「そうかよ…………えっ、迎えに!?」
「そんなに邪険にするなら一生目覚めなければいいのじゃ」
「嘘だって、ウソウソ、待ってたよ~。そりゃあもう首を長~~くしてね」
こちらに背中を向けてくる神様と名乗ってたそいつをカトウは慌てて止めた。
「本当かの~?」
こちらを怪しんでいるように顔を覗きこんでくるじいさんの眼が緑色であることに今更ながら気付いた。
それが自分でも不思議に思う。
何故さっきからこんな暗闇の中でこのじいさんの姿がくっきりとわかるんだ?
「フォッ、フォッ、フォ。どうやら気付いたようじゃな。この世界はいわゆるワシの空間での~、やりたいように出来るんじゃ」
「……なんでこんなに暗いんだ?」
さっきみたいに機嫌を損ねる危険性があるため、カトウは言葉を選んで慎重に尋ねる。
「そりゃあ、明るいと眠れないんじゃよ」
……はぁ?
「えっ? まさかそんな理由?」
「そんな理由とはなんじゃ!! 明るくするとここがどれぐらい明るくなるかわかっとるのか? 真っ白なんじゃぞ!! 死活問題なんじゃぞ!!」
神様……なんだよね?
本当かどうかわかんなくなってくるな~。
「……そんな理由だとは知らなかったですね。それで俺はなんでここに戻って来たんですか?」
「そりゃあ、テツヤ君に代償を払ってもらいたくての~。ワシが最初に現れた時、不自然に感じたのじゃろう?」
その言葉に頷いて肯定する。
「それはワシが前に現れた力の一端ではなく、本物の神様じゃからじゃな」
「へ~」
「反応薄くないかの~、ちっ、これだから最近の若者は」
「というか代償についてちゃんと教えて欲しいんですけど」
「……代償とは、能力、君たち人間の世界でいうルーンのことじゃな。このルーンが開花した人間から、その者が大切にしている何かを強制的に奪うということじゃな」
「!? それってまさかミチル達が危険なんじゃ!!」
「嬉しい誤算かもしれんが、それはないの~」
「……どういうことだ?」
「確かに、お前さんは人とのつながりが強い男じゃ。おそらく、仲間を殺せばそれ相応の代償になると思ったんじゃが、テツヤ君は薬才の効果で蘇生出来るから意味がないんじゃ」
「だったら無しでいいんじゃ?」
「それじゃ、テツヤ君が爆発四散するが良いのかの~?」
「はぁ!! 爆発、いやそんなのあり得ないだろ!!」
「人間には耐えられる代物ではないということじゃ」
そう言った神様の顔は少し儚げだった。




