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 夜、俺は会長の家で夕食にお呼ばれされていた。

 高そうな料理の数々に俺は思わず目を奪われる。

 いつも飯は適当に済ませるから、こんなごちそうはなんだか久しぶりだ。


「さぁ、遠慮なく食べてくれ」


「は、はいいただきます」


 食事は美味しそうなのだが、この雰囲気は少し緊張するな……。

 会長と会長のお父さんと俺、そして給仕係の先ほどのメイドさんの三人だ。

 会長のお父さんは楽し気に俺に話をしながら食事をし、俺はその話を聞きながら会長のお父さんの話相手になっていた。


「まぁ、そんなわけでね、うちの娘は私の妻に似てそれはそれは可愛くてだね」


「あ、あぁそうですね……あはは」


「もう、お父様! 貴霞君が困ってるでしょ? それに少し飲み過ぎではありませんか?」


「うぅ……ところで明嶋君」


「はい?」


「娘とはいつ結婚するんだ?」


「は?」


「お、お父様!!」


 会長の父親がそう言った瞬間、会長は顔を真っ赤にして立ち上がる。

 まぁ、父親がそんな事を言ったら焦るだろうけど……一番気まずいのはここに居る俺だってことをわかってほしい、いたたまれない。


「私も妻も孫の顔は早く見たいとだね……」


「お父様いい加減にして下さい! 貴霞君も困っているじゃないですか!」


「しかしお嬢様、結婚は早いに越したことはないかと、女性の場合30を過ぎたら相手にさえしてもらえない場合もあります」


「白谷さんまで何の話をしているんですか!」


「ちなみに私は白谷君のことも心配しているんだが……良い人はいないのかい?」


「セクハラですよ旦那様」


「え!?」


 はぁ……もう帰りたい……。

 まぁでも……なんだかこんな賑やかな食卓は久しぶりだな……。





「それじゃあ自分はこれで」


「泊っていったらよいではないか? 明日も休日なのだし」


「いえ、これ以上は、それに明日は用事があるので」


 まぁ、ないのだが。

 会長の家で一晩過ごしたなんてクラスの奴らに知られたら殺されかねないし。

 俺は会長のお父さんとメイドさんに別れを告げ、車で家の前まで送ってもらった。


「ごめんね、騒がしい家族で」


「いえ、楽しかったですよ」


「そう? なら良いのだけど……」


 そういえば会長のお母さんが居なかったけど、今日は仕事だろうか?

 俺は何となくそのことが気になり、会長に尋ねる。


「あの会長のお母さんは今日はお仕事ですか?」


 俺がそう尋ねると会長は寂し気な表情で外を見ながら言った。


「もういません……」


「え……」


 この言葉で自分が地雷を踏んでしまった事におれは気が付いた。

 

「す、すいません! あの……俺……」


「良いのよ、もう十年も前の話だから」


「で、でも……」


「うふふ、やっぱり貴霞君は優しいのね」


「え?」


 会長はそう言って俺を見ながら頬を赤らめ微笑んだ。

 そして車は俺の自宅であるアパートに到着した。


「あ、じゃあ俺はこれで……」


「えぇ、今日はありがとう私もすごく楽しかったわ」


「いえ、自分もです」


「ねぇ貴霞君……」


「はい?」


「……私が君に告白した日の事……覚えてる?」


「そ、それは……はい」


 まぁまだ最近の出来事だし、それにかなり俺もあの時ドキドキしてたからな……。


「私は待ってるから……貴霞君の返事をずっと……それがどんな返事でも」


「は、はい」


「それじゃあ、お休み」


「え!? か、会長!?」


 会長はそう言うと俺の背中に手を回し、俺に思い切り抱きついてきた。

 三秒ほどの短い時間俺に抱きついた後、会長は顔を真っ赤にして車に乗り、そのまま帰って行った。


「………はぁ……本当は早く決めないといけないのになぁ……」


 なんだか罪悪感を感じながら俺はアパートの自分の部屋に向かったする。

 すると何やらポストに封筒らしき物が入っていた。


「なんだこれ?」


 俺は気になり封筒を取り出すと、そこには血のような真っ赤な殴り書きでこう書かれていた。


【解雇通知】


 あ、きっと店長だ。


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