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「ひっ! こ、殺さないで!」


「えっと……君何か誤解してないかい?」


「え?」


 俺がそう言うと会長のお父さんは静かに話始めた。


「あの子は……昔は人と関わるのが苦手な子だったんだ」


「え? は、はぁ……」


「中学時代も結構苦労したようでね……友人と呼べる存在を家に招いた試しがないのだよ」


 まぁそうだろうな……お嬢様であんなに美人なのだ、誰だって話かけずらい。

 学校でも高嶺の花として扱われているし、親しく話しかけるのは生徒会のメンバーくらいだろう。


「それが去年頃からだ、楽しそうに学校で特定の生徒の話ばかりするようになったではないか……今まで学校の話など全然しなかったあの子がだ」


「そ、それって……」


「君だよ、明嶋貴霞君」


 まさか会長がそんなに俺の事を家族に話ていたなんて……。

 

「私はずっと気になっていた、娘をこれほど魅了する男子生徒の事をね」


「いや、別に僕は何も……」


「君は何もしていないつもりでも、君のその何気ない行動でうちの娘は見違えるほど変わった。ありがとう、親として君にはお礼を言いたい」


「い、いや僕は本当に何も……」


 どちらかというと、今は迷惑を掛けてる側だし……将来的には泣かせるかもしれないしな……。


「言いたかったのはそれだけだよ、別に娘と結婚してくれなんて言うつもりはない。君の結婚相手は君が選ぶべきだからね」


「そ、それなら良いんですけど……あはは」


 愛想笑いをする俺。

 そして会長のお父さんは話を終えると、そのまま俺に質問をしてきた。


「それで君は三人の中で誰を選ぶんだい?」


「ぶっ! な、なんでそのことを!?」


「この間娘から聞いてね、ライバルが二人いるから頑張ると言っていたよ」


 会長、お父さんになんて話を!!

 まぁでもこの人は胡桃ちゃんのお父さんと違って普通の人のようだし、変な事をしてくるとは思えないから別に良いのだが……なんだか他人にそう聞かれると気恥ずかしい。


「娘も美人だとは思うんだ、何せ私と妻の娘だからねぇ……どうだい? 瑠香はタイプじゃないかい?」


「い、いえその決してタイプじゃないとかそう言う問題ではなく!! その……まだ自分が誰を好きなのか……分からないと言いますか……」


「ほぉ、ならまだ娘にもチャンスはあるのかな?」


「そ、それは……は、はい……」


 なんで俺は会長のお父さんとこんな話をしてんだ?

 メチャクチャ恥ずかしいんだけど!


「なるほど、それを聞いて安心した、まだまだ勝負はこれからのようだな!」


「しょ、勝負って……」


 勝負に勝って獲得できる商品が俺とか残念過ぎるだろ……。


「それでは親として今日は娘の為に少し君に意地悪をしてみようかな」


「え? い、一体何を……」


「今日は晩飯を食べて行きなさい、私ももっと君と話をしたいからね」


「え!? い、いやでもご迷惑ですし……」


「うちは全く問題ないよ、それに会社を経営していると急な来客も多くてね、こういうのは慣れているし」


「で、ですが……」


「それに君は一人暮らしなのだろう? 晩飯代が浮くのは嬉しいんじゃないのかい?」


「うっ……」


 この人痛いとこをつくなぁ……。

 まぁでも飯を食うだけだし、命の心配もしなくてよさそうだしごちそうになって行ってもいいかもしれない。

 てか、人の家に来て命の危機を感じる方が異常か……最近の俺どうかしてるのかもしれないな。


「じゃ、じゃぁごちそうになります……」


「そうかそうか、それは良かった。なら風呂にも入って行きなさい、背中を流してあげよう」


「い、いえそんなそこまでは!」


「うちの風呂は無駄に広いぞ~それにサウナもあってな!」


 なんなんだこの人……めっちゃぐいぐいくる!

 会長のお父さんも会長のお父さんでなんか少し面倒臭いな……。

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