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「お父さん!」
「く、胡桃ちゃん!」
「あんまり明嶋さんを困らせないで!」
「い、いやでもお父さんはな胡桃ちゃんを心配してだね……」
「私が誰と何をしようとお父さんには関係ないでしょ!」
「で、でもね胡桃ちゃん、男って生き物はだね……」
「もう、行きましょう明嶋さん。お父さんなんて知らない、もう口聞いてあげない!」
「そ、そんなぁ………」
店長は娘からの口聞いてあげない宣言により、膝から崩れ落ちその場でがっくりうなだれていた。
「さ、行きますよ明嶋さん」
「え、えっと……良いの?」
「良いんですよ放っておけば」
「そ、そうなの?」
俺と胡桃ちゃんはその場に崩れる店長を見ながら映画館を後にした。
なんだか可愛そうな気がする……。
だが、今は店長の心配をしている場合じゃない!
恐れていた事が起きてしまった!
まさかこんなに早く店長にバレてしまうなんて!!
これはバイト先を変えることも考えないとな……。
「じゃ、じゃぁあの……俺はここで昼過ぎから用事あるから」
「ぶー……あぁーあ! 昼間から誰かのせいで暇になっちゃたなぁ!」
あからさまに不機嫌な表情で俺にそう言う胡桃ちゃん。
そんな事を言われてもこれから会長と用事があるし……そこに胡桃ちゃんを連れて行く訳にも行かないし……っていうか絶対に連れて行けないし。
「じゃ、じゃあこの埋め合わせはまた今度ちゃんとするから!」
「本当ですか!?」
「あ、あぁ買い物だろうがなんだろうが付き合うから」
「わかりました、今日はその言葉に免じて私は帰りましょう」
「分かってくれてよかったよ、じゃあ俺はこれで」
「はい、じゃあ明嶋さんまた明日」
「ん?」
なんでまた明日なんだ?
明日は日曜日だし、俺はシフトにも入って無いはず……。
きっと胡桃ちゃんの勘違いだな。
俺はそんな事を考えながら一度家に帰り、会長が来るのを待った。
流石はお嬢様、車での送迎なんて友達の家に行く時は始めてだ。
会長の実家は大きな会社を経営しているらしく、家も大きなお屋敷らしい。
家には執事やメイドが居るなんて噂も聞いた事がある。
そんな人のお父さんに会うなんて……なんだか緊張してしまうなぁ……。
てか、俺はなんで会長のお父さんに会わなきゃ行けないんだ?
そんな事を考えていると俺の部屋のインターホンが鳴った。
「はーい」
部屋のドアを開けるとそこには私服姿の会長が立っていた。
「待たせてしまったかしら?」
「いえ、時間通りですよ」
俺はやってきた会長に案内され、直ぐに車に乗って会長の家に向かった。
まさかリムジンに乗れる日が来るなんて……。
俺は慣れない高級車に緊張しながら、後部座席の会長の隣に座った。
「15分くらいで着くから少しまっててね」
「あ、はい……」
なんだろうこの空間は……俺のような貧乏人には縁が無い空間というか……緊張感があるというか……全然くつろげない。
「どうしたの? なんか緊張してる?」
「いや、こんな高そうな車に乗ったら緊張しますよ」
「そう? 皆そう言うのよねぇ……普通の車なのに」
俺の知っている普通の車はこんなに黒光りしてないし、座席もここまでふかふかじゃない!
「あ、あの……そう言えばなんで俺は会長のお父さんと会うんですか?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。お父さんに貴霞君の話しをしたら是非会いたいって言い始めたのよ」
「はぁ……ちなみにどんな話しを?」
「ん? 将来的に夫にしたい人が居ると話しをして……」
はい、アウトォォォォォ!!
やべーよ、絶対にお父さんに殺される奴だよ!!
だって社長令嬢だよ!?
社長の娘だよ?
大切にされてない訳ないじゃん!
絶対怒ってるよ!
うちの大事な娘をたぶらかしおってって絶対怒ってるよ!




