22:ミステリアス男子として間違いなく人気に
アズレークの言葉に私は我に返り、思案することになる。
つまり塩水で聖杯を満たしたいが、これまでのように「聖杯を塩水で満たせ」と唱えるわけにはいかないというわけだ。塩水で満たすが、それをバレないようにする。
しばし思案した結果。
「思いつきました。……その、拙いかもしれませんが」
「呪文を作り慣れているわけではない。拙くても構わない。大事なのは詠唱しやすく、忘れないものであることだ」
そういう意味ならバッチリだ。
なぜなら『戦う公爵令嬢』という乙女ゲーには、王宮に凄腕で秀麗な魔術師がいて、彼はまさにポエムな呪文を唱えていたからだ。というか、愛の囁きにも時々ポエムが混じり、それが堪らなかった。
彼のポエムのような呪文を思い出し、それっぽく言葉にしてみる。
「聖杯に聖なる水を。遥かなるオケアノスよ、その水を杯に満たせ」
元の呪文は「盃に果実の滴の恵みを。遥かなるオケアノスよ。悠久の時を盃に満たせ」というもの。海辺で行われたゲーム内のイベントで、皆が持つグラスに、フレッシュな果実のジュースを満たす際、使われた呪文だ。悠久の時を杯に満たすということで、飲み終わったと思ったら、グラスにジュースが再び溢れてきて、これは便利と大喜びしていた。
「その呪文は……」
私が口にした呪文に、アズレークが反応している。
眉がピクリと動き、しばし思案し、そして。
「なるほど。オケアノスは海水だが、その中にはステュクスという川が含まれ、その川は生者と死者を隔てるものとされている。生者と死者を隔てる川の水が、ゴーストに有効である。それは聖水にも等しいと。でも実際に聖杯に満たされるのは海水――塩水ということか」
私が大きく頷くと、アズレークは……。
「素晴らしいよ、オリビア!」
そう言って私の体を抱きしめた。
それは間違いなく、私の呪文を褒め、称賛の意味でのハグだ。
もちろん理解している。
そうであっても……。
やはり男性からこんな風にハグをされたことがないから、顔は赤くなるし、心臓もドキドキするし、全身が熱くなってしまう。
「いいだろう。その呪文で実践だ」
私から体をはなしたアズレークは、頬も高揚している。
呪文に満足し、喜んでいるだけ。
自分自身に言い聞かせる。
でもやっぱり私も、笑顔になってしまう。
その気持ちの昂りのまま、聖杯を満たす呪文を口にすると……。
無事聖杯に海水……塩水が満たされた。
「見事だ、オリビア」
今度は両肩を掴み、輝くような笑顔を向けてくれる。
ヤバいなぁ。
アズレークとの関係性を考えると、その言動や笑顔に、反応している場合ではない。それでもやはり男性耐性もないし、これは断言できる。
アズレークは、私がプレイしていた『戦う公爵令嬢』には登場していなかった。でももし登場していれば……ミステリアス男子として間違いなく人気になるだろう。
だから……。
これはもう不可抗力だ。反応はしてしまう。
それは受け入れよう。
でもそれだけだ。その先はない。
何より。
来月の今日、私がどうなっているのか、それは神のみぞ知るという状況なのだから。
アズレークと過ごした日々が、最初で最後の生身の男性とのスキンシップになるかもしれないのだから。
そんなこんなでこの日も終わった。
お読みいただき、ありがとうございます!
引き続きお楽しみください☆



























































