―84― 受付
「ねぇ、レイドモンスターについて教えてほしいんだけど」
翌朝、僕はそう名称未定に尋ねていた。
「ふんっ、聞いてどうしたいんですか?」
「えっと、この町に今度レイドモンスターが出現するらしいからさ。詳しいんでしょ。だって――」
お前もレイドモンスターだから、と言いかけて口をつぐむ。人をモンスター呼ばわりするのは失礼かもしれない、と思ったから。それが例え事実だとしても。
「……別に教えることなんてありませんよ。レイドモンスターは固有ごとに特徴が異なりますからね。ただ、逃げるなら早くしたほうがいいです。そのうち町の外に出られなくなりますよ」
「えっと、どういうこと?」
「遮断されるんですよ。町の外と中で」
そう言われて僕は慌てる。
今住んでいるここは宿屋だし、荷物はすべて〈アイテムボックス〉に入れてしまえば、なにも失うことなく町から避難することができる。
「ひとまず町の外に行ってみよう」
それから荷物を全て〈アイテムボックス〉に収納したうえで、名称未定と共に町の外に行こうとした。
町を守りたいなら、この町に残るべきなんだろうが、なにより大事なのは名称未定だ。
それを守れるなら、逃げるという選択肢も悪くはないはずだ。
「遅かったか……」
町の外に出ようとして、僕は呟く。
町を包み込むように、結界がすでに張られていた。出ようとしても、透明な壁のようなものに阻まれる。
昨日はこんなのなかったはずだから、さっきできたばかりなのだろう。
これで、レイドモンスターを倒すしか選択肢がなくなった。
「強いのか? レイドモンスターって?」
「そりゃあ、強いでしょうね。まぁ、名称未定ちゃんほどではありませんが」
「そうか」
頷きつつ、僕は静かに決意する。
レイドモンスターが出現するまで時間はまだあるはずだ。それまでにやるべきことを全てやろう。
それから名称未定を宿屋まで送った後、情報収集を始めた。
すでにレイドモンスターのことは町の住人すべてが知っているようだ。町に張られた結界のこともあるだろうが、今朝方、冒険者ギルドがレイドモンスターが出現することを正式に発表したらしい。
出現する日付もわかっており、今から13日後とのことだ。日付がわかったのは、あの隠しボスの初回クリア報酬がレイドモンスターに関する情報だったためとのこと。
町に張られた結界は今朝、出現したらしく、昨日の段階でレイドモンスターのことを知り避難を決めた者は町から脱出することはできたらしいが、町のほとんどの者は避難することが叶わなかった。
町の外からも救援要請をし、戦える冒険者を募る予定だったらしいが、結界のおかげでその計画も頓挫したらしい。
それから、昨日ワルデマールさんが言っていた通り、ギジェルモのクランが新しいリーダーを決めるべく、大会を急遽行うことになったことも、本当だと知ることができた。
だから、僕はその会場に足を運んでいた。
もちろん、クランのリーダーになるために。
古びた扉を開けると酒の匂いが鼻孔をついた。
場所はギジェルモが懇意にしていた飲み屋だ。飲み屋でどうやって大会を開くんだろうか? と、疑問に思ったが、ひとまず行ってみることにした。
「あん? アンリじゃねぇか? なにをしに来たんだ?」
僕が入ってくると、酒を飲んでいたらしい冒険者が声をかけてくる。昨日から飲んでいるのか、顔中真っ赤になっている。
彼に聞けば、大会のことが詳しくわかるかもしれない。
「クランの新しいリーダーをここで決めるって聞いたんだけど」
「あん? あぁ、そうかお前も一応〈名も無きクラン〉の一員か」
「〈名も無きクラン〉?」
「あぁ、新しいリーダーを決めるまでクランのことをそう呼ぼうってことになってんだよ。誰が最初にそう決めたかは知らんがな」
「そうなんだ」
「それで、なにをしに来たんだ? お前も賭けに参加したくなったのか? 誰が新しいリーダーになれるか、今賭けをしていたんだよ」
「いや、大会の参加に」
「あぁん? 誰が?」
「僕が」
そう言うと、男は僕の言葉をすぐに理解できなかったようで、少しだけ間が空いた。
「お前がクランのリーダーに立候補するってことか?」
「うん、そうだけど」
「ぶはっはっはっ!」
と、男が我慢できなくなったのを吐き出すように笑う。
「おいおい、『永遠のレベル1』のお前がどうやって勝つんだよ?」
すでにレベル1ではないんだけど。一度ついた悪名は中々消えないらしい。
「参加は自由なんでしょ?」
「あぁ、それはそうさ。誰でも参加可能。だから、俺にはお前をとめる資格はない。だが、参加者は加減ができないやつばかりだからなぁ。間違って殺されちゃうかもしれないぜぇ」
「うん、わかっている」
「そうか、なら俺から言うことはもうねぇ。ほらよ」
そう言って、なにかを渡される。
見ると、腕輪のようなリングだ。
「それを腕につけるなり首にかけるなり、誰にでも見えるように持っておけ。ルールは簡単だ。参加者全員、そのリングを持っている。勝てば、相手のリングを全部奪うことができる。リングを奪われたら脱落。最後の一人になるまで、リングを持ち続けていたら、そいつがリーダーだ」
なるほど。
別にこの飲み屋で戦うわけではないらしい。とにかく他の参加者からリングをすべて奪えば、大会の勝者となる。
「シンプルでいいルールだね」
「ここのクランの連中は難しいルールを覚えられないからな。このぐらいシンプルでちょうどいいんだよ」
と、男は笑いながらそう言う。
確かに、その通りだと思ったので僕も一緒に笑った。
「あぁ、あともう一つルールがあった」
と、なにかを思い出したかのように男が言葉を付け足す。
「今日の午後12時までは参加受付中だから、まだリングの奪い合いを始めてはいけないんだよ。それだけは覚えておいてくれ」
「午後12時。よく覚えたよ」
「だが、ここの連中は簡単なことさえ、覚えられないからな。すでに始まっていると勘違いしているやつもいるかもしれねぇなぁ」
受付の男はニタニタと笑みを浮かべながらそう言った。
「忠告ありがとう」
僕はそう言いながら、真後ろに反転しながら蹴りを加える。
「うぐっ」
そこには蹴りを加えられて、えずいている冒険者がいた。
どうやら真後ろから僕に襲いかかろうとしていたらしい。その腕にはちゃんとリングがある。
確かに忠告通り、時間を守らないやつがいた。
一撃だけでは、相手を気絶させられないと思い、僕は何度も急所を狙って拳や蹴りを加えていく。
気がついたときには男は気を失って倒れていた。
「ルール違反をしたのは向こうが先だし、別にいいよね」
開始時刻である午後12時にはまだなっていなかったことを念頭に入れながら、僕は確認するようにリングをくれた男にそう言った。
「あぁ、もちろん大丈夫さ……」
驚愕したのか、腰が引けた状態で男はそう答える。
受付の人の了承も得たことだし、倒れている冒険者からリングを奪いつつ、僕は飲み屋を出て、他のリングの所有者を探しに行くことにした。
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