―69― 次なるダンジョンとパーティーの勧誘
そもそも、なんで〈魔力操作〉と〈アイテムボックス・特大〉を入手できたのだろうか?
メッセージでは『〈封印〉の習得に伴い』とか書かれていたけど。
もしかすると、この2つのスキルは〈封印〉となんらかの関係があるスキルなのかもしれない。
まぁ、これ以上〈封印〉について考えても仕方がないか。
とりあえず、注目すべきは〈魔力操作〉だろう。
〈魔力操作〉はMPを魔力に変換し、自在に操ることで魔法を使えるスキルだ。
その魔法を覚えるには、〈魔導書〉がいる。
「よしっ、魔導書を買いに行こう!」
と思っても簡単には買える値段じゃなかった。
確か値段は700万イェールだったはず。
以前、金策に使っていたプランタダンジョンの初回クリア報酬は2万イェール。
単純計算で、350周する必要がある。
流石にやっていられない。
もっと、効率的に金策ができるダンジョンがあればいいんだろうけど。
それに、今は〈アイテムボックス・特大〉がある。これを活かさない手はない。
「とりあえず、冒険者ギルドに行こうか」
◆
冒険者ギルドに行き、真っ先に異変に気がつく。
みなが僕が入ってきた瞬間、ヒソヒソと囁き始めたのだ。まるで、僕の噂話をしているかのように。
気にしても仕方がないと思いつつ、ダンジョンの情報が書かれた掲示板のほうに行く。
「さて、いいダンジョンがあればいいのだけど」
今の僕はレベルが34になったことだし、行けるダンジョンは増えたと思うけど。
「ふむ、必ずしもお金稼ぎをしないといけないわけでもないのか」
と、あるダンジョンを見ながら、僕はそう呟く。
ただ、このダンジョンに行くには少し準備が必要だな。
「やぁ、少年。最近、景気がいいみたいじゃないか!」
見上げると、背が高く筋肉質の冒険者が立っていた。
「えっと、なんの用でしょうか?」
話しかけられたことに嫌な予感を覚えつつ、そう口にした。
「『永遠のレベル1』のはずの少年が毒蜥蜴ノ王を倒したと聞いてな。どうして、そんなことができたか直接、聞きにきたというわけだ」
あー、やっぱりか。
毒蜥蜴ノ王を倒したのは昨日のことだが、もう噂が広まっていたか。
僕がギルドに入った瞬間、彼らが噂話を始めたのも、このせいかもしれない。
恐らくアルセーナくんたちのパーティーの誰かが話したか、毒蜥蜴ノ王の素材を換金したところを誰かに見られたのだろう。
もし、パーティーの誰かが喋ったとしても、別に黙ってくれ、と頼んでいたわけではないので、咎めるつもりはない。
それに、いつかこういう日が来るだろう、と覚悟していた。
今まで、壁抜けのことがバレないように『永遠のレベル1』のフリをしていたが、毒蜥蜴ノ王を倒したことに限らず、何度もギルドやダンジョンを出入りしているところを人に見られている。
いつか、レベル1のフリをするのも限界が来ると思っていた。
「えっと、実をいうと、レベル1はもう卒業したんです」
僕は作り笑いを浮かべながらそう口にする。
「ほう、それは大変喜ばしいではないか。しかし、『永遠のレベル1』の少年がどうやってレベル上げをしたんだい?」
僕がレベル1のとき、モンスターを倒せないほど攻撃力が低かったのは有名だ。
もちろん、こんな風に聞かれるのは当然だろう。
どうしよ……うまく言い訳をしないと。
「えっと……剣を使って、低い攻撃力を補ったんですよ」
「ほう? だが、少年は〈剣技〉に限らず武器の加護を得るようなスキルを持ってなかったような?」
「そ、それは勘違いなんですよ。実は〈剣技〉を持っていて、ほら、僕が今使っている〈蟻の短剣〉です。ほら、ちゃんと剣の加護を得ることができるんです」
と、〈蟻の短剣〉を見せびらかしながら、そう説明する。
どうだろう……。うまく、ごまかせたかな?
「なるほど、そうだったのか! じゃあ、今の少年のレベルはなんぼなんだ?」
「えっと、30近くです」
嘘をついても仕方がないと思い、正直に言う。
「30だと? 随分と、レベル上げが速いんだな!」
まぁ、格上のモンスターばかり倒しているから、他の人よりはレベルあげの速度は速いだろう。
「よしっ、少年、俺たちのパーティーに入りたまえ!」
と、男は僕の背中を叩きながらそう口にした。
「は?」
「それだけレベルがあるなら、俺たちのパーティーでも十分やっていけるはずだ! あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はゲオルグ、これでもパーティーのリーダーをやっている」
とか、自己紹介されても困る。
パーティーに入るつもりなんて一切ないんだから。
「おーい、お前らもこっちに来い!」
と、ゲオルグさんが誰かを呼び始める。
恐らく他のパーティーメンバーを呼んでいるんだろう。
「あのっ、すみません!」
話に流されないように、できる限り大きい声を出した。
だが、想像以上に大きな声量だったようで、部屋中に響いてしまい、ギルド内が静まり返っていた。
そのことに羞恥を覚えつつ、僕は言うべきことを口にする。
「お誘いはありがたいんですが、僕はパーティーに入るつもりはありません。だから、ごめんなさい」
頭をさげながら、僕はそう主張した。
「どうしてなんだい? 普通、冒険者というのはパーティーで行動するもんだぞ。なにかソロで活動したい理由があるのかな?」
それは壁抜けをするには、ソロでないと困るからだけど、そう言うわけにいかない。
だから、うまい言い訳をしないと。
「い、以前のパーティーでいい思い出がなかったので、少し人間不信になってしまったというか……」
うん、実際ギジェルモたちのせいで、人に対して苦手意識を持っているのは本当だし、これなら納得してもらえるかな。
「そうか、少年はあのギジェルモの……」
と、ゲオルグさんは僕がギジェルモのパーティーにいたことを知っていたようで、察したような顔をする。
「それは悪かった、少年! ならば、その傷が癒えたとき、パーティーを組もうじゃないか!」
「ありがとうございます……」
そう言われても、パーティーを組むつもりはないが、一応お礼は言っておくことにした。
◆
アンリが冒険者ギルドを出たあと、ゲオルグは一人考え事をしていた。
「ボス、どうでしたか?」
見ると、横に槍を持った一人の女が立っていた。
それを追うように、何人もの冒険者が彼の周りに集まっていた。
「あの少年は嘘をついているな」
さっきまで快活そうな表情をついていたゲオルグは一転、冷酷そうな表情に様変わりしていた。
その変わりように、部下たちの鳥肌が立つ。何度も見てきたはずなのに。
「最初から〈剣技〉を持っていたというが、あれは嘘だろう」
「ええ、嘘でしょうね。〈剣技〉を持っていたら『永遠のレベル1』なんて噂が立つはずがありませんし」
そう、その通りだ。
だが、彼が一人で何度もダンジョンを攻略しているらしいというのも、事実だろう。
そして、昨日毒蜥蜴ノ王を単体で倒したというのも。
このガラボゾの町は狭い。
噂なんて、すぐに広まる。
「捕まえて無理矢理吐かせましょうか?」
と、女の槍使いが提案するが、「やめておけ」とゲオルグは制する。
嫌な予感がしたからだ。
ギジェルモたち一味がいなくなって、半年が経とうとしていた。
遺体はまだ見つかっていないが、彼らは死んだと判断してもよい頃合いだろう。
じゃあ、誰が殺したんだ?
ダンジョンでモンスターに殺されたのはありえない。そんなヘマをするような男ではなかったはずだ。
「まさかな」
ふと、頭に浮かんだ可能性を否定する。
流石に、アンリの成長とギジェルモたち一味の失踪に関連性はないだろう。
アンリがギジェルモたちに虐められていたのは有名な話だ。だが、この町は弱肉強食が当たり前。
毎年、何人もの冒険者がダンジョンで死んでいるのだ。皆が自分の命を賭けて戦っている。だからこそ、弱い者は切り捨てられて当然。
だから、ギジェルモがいくら犯罪まがいのことをしようと、それは弱い者が悪いだけ。
その考えに、ゲオルグ自身否定するつもりもない。
なぜならゲオルグ自身、弱い者をたくさん切り捨ててきたのだから。
「しかし、ボス自ら少年に話しかける必要なんてあったんでしょうか?」
「そうかね?」
女の槍使いが言った言葉にゲオルグは首を傾げた。
「だって、あなたは三大巨頭の一人、ゲオルグ様なんですから、直接お手をわずらわせる必要なんてなかったでしょうに」
三大巨頭ね。
今は一人欠けたから、二大巨頭なんだけどな。
そんなことを考えて、ゲオルグは小さく笑った。
さて、この町はこれから一体どうなるんだろうな。




