―35― パーティーの後ろからついていく
トランパダンジョンを一人で進んでいたら、なぜか他のパーティーと一緒に進むことになってしまった。
「はぁ」
小さくため息をつく。
ソロで活動したかったのに、なんでこんなことに……。
見るに、銀髪の少女は手に長い杖を持っていることから魔法使いなんだろう。
魔法は高度な勉強をしないと覚えられないため、恐らくお金持ちの子な気がする。
そして、銀髪の少女を取り囲むように男たちがいた。
男たちは剣や槍、盾などを装備していた。
どうやら銀髪の少女が男たちにお金を払ってパーティーを組んでるっぽい。さっきの会話から、察するにそうなんだろう。
パーティーというのは本来、信頼できる人たちが集まって結成するものだが、お金でパーティーを組むよう依頼するのは珍しいが有り得ない話ではない。
ちなみに僕はというと、できる限り邪魔にならないように、後ろからついていった。
「お前、アンリだろ?」
「は、はい、そうですけど……っ」
後方にいた男の一人に話しかけられる。突然だったため、驚いててしまった。
「ギジェルモの使いっぱしりがなんでこんなとこにいるんだよ?」
男はからかうような口調でそう口にする。
どうやら僕がギジェルモのパーティーにいたことを知っているらしい。まぁ、僕もギジェルモも冒険者の間で、悪い意味で有名なためそう驚きはしないけど……。
「えっと、パーティーを追い出されてしまって、それで仕方なく……」
と言うと、男は「がははっ」と笑い出す。
「お前は無能で有名だからな。逆に今まで追い出されなかったことが不思議だよ」
そういわれた僕は事実その通りなので俯くしかなかった。なにも言い返すことができない。
僕なんて、最近やっと魔物を倒せるようになったんだしやっぱり無能だ。
集まっている人たちはレベルが高い集団らしく、道中岩の巨兵や子鬼の群れと遭遇するも、なんの不自由なく撃破していた。
ただ、一つだけ気になることがある。
さっきからボスのいる部屋から遠ざかっているのだ。
ボス部屋まで何度かきたことがあるので、ある程度は道はわかるつもり。だから、そのことに気がついたが、どうせ僕が言ったところで誰も聞いてくれないだろうから、黙っているけど……。
歩き始めてから数時間後、近くにモンスターがいないことを確認してから皆で休憩をとることになった。
男の冒険者たちは固まって談笑を始めている。
それを遠目に、僕はひざを抱えて座っていた。
「あなた、アンリって言うんだってね」
ふと、見上げると銀髪の少女が立っていた。
「お腹空いたでしょ。これあげるわ」
と、少女は手に持っていた干し肉を手渡してくる。お礼を言って受け取ると、少女は遠慮なく隣に座ってきた。
「わたしはオーロイア・シュミケット。一応、貴族の娘」
「え……?」
貴族って単語にビビってしまう。確かに、お金持ちのような雰囲気は漂わせていたが、まさか貴族だなんて。
失礼がないように姿勢を正そうとするが、
「別に普通にしてて良いわよ」
と言われたので、元の姿勢に戻す。
「気がついているでしょうけど、あの人たちは私がお金を使って雇ったの」
と言いながら、男の冒険者たちを指差す。
しかし、疑問だ。
なんで貴族の令嬢がこんなところに来ているのだろう。しかも、冒険者をこんなにも雇って。ここ一帯は荒くれ者の冒険者が多いため、貴族なんて滅多に来ない。
「あの人たちが、あなたのことを噂していたわ。あなた、相当無能らしいね」
「うっ……」
歯に衣着せぬ物言いにショックを受ける。
「自暴自棄になって、このダンジョンに来たのかもしれないけど、このダンジョンから出たら冒険者から足を洗いなさい」
「でも、他にできる仕事なんてないし……」
と、真っ当な反論をする。
すると、オーロイアは僕の顔を見たかと思うと、指で顔をなぞりながら、こう口にした。
「あなた男のくせして、かわいいんだから男娼にでもなればいいじゃない」
だ、男娼って。この人は真顔でなにを言っているんだ……。
「死ぬよりはマシでしょ」
と、オーロイアは言葉を付け加える。
確かに、死ぬよりはマシかもしれないけど、だからって何事にも限度はある。
「その、オーロイアさんはこのダンジョンのボスを倒しに来たんですか?」
話題を変えたいと思い、気になっていたことを口にする。
もしボスの討伐が目的なら、ボスの部屋から遠ざかっていることを伝えたい。僕が言っても信じてもらえそうにはないが。
「いえ、違うわ」
間髪入れずに否定された。
じぁ、なんのためにこのダンジョンに来たんだ?
「このダンジョンには転移トラップがたくさんあることで有名なのは知っている?」
「は、はい」
思い返せば、転移トラップには散々苦しめられてきた。
「たくさんある転移トラップのうち一つだけ隠しボスの部屋に転移するのがあるのよ」
「えっ……」
隠しボスだって?
冒険者ギルドではそんな情報一切なかったけど。
「本当か嘘かわからない噂よ。それを確かめにきたってわけ。もし噂が本当なら、隠しボスを倒せばすごい報酬が手に入るに違いないわ。それが私の目的。そのために、あいつらを雇っているわけ」
「そ、そうなんですか……」
どうやらボス部屋から遠ざかっていたのはちゃんとした理由があったようだ。
「ここ数日、ずっとこのダンジョンに潜っているのに見つからないから、嘘かもって思い始めてるけどね」
そう言うと、オーロイアさんは立ち上がり、一度伸びをしてからこう口にした。
「そろそろ出発するわよ」
それからオーロイアを中心としたパーティーは再び歩き始めた。
◆
「しかし、隠しボスなんて本当にいるのかね?」
歩いていると、冒険者の一人がそう口にしていた。前にいるオーロイアには聞こえない声量で喋っている。
「こんな中級のダンジョンに隠しボスがいるなんて思えないけどな」
隣にいる冒険者も同調する。
「俺としては報酬がもらえれば、隠しボスがいようがいなかろうがどっちでもいいけどな」
と、別の冒険者が口を挟む。
すると「それもそうだな」と、皆が笑った。
「にしても、なんのために隠しボスを探してるのかね? 俺にはお嬢さんの考えがわかんないなぁ」
確かに、オーロイアさんがいるかどうかわからない隠しボスを探す理由は謎だ。
それにしても、どうやらオーロイアさんとその他の冒険者の間には随分と温度差があるらしい。
金で雇われているみたいだし、仕方のないことかもしれないけど。
そして、数時間後――。
「いかにもって感じの場所ね……」
オーロイアさんがそう口にしていた。
前方には、まさに怪しい空間が広がっていた。
二本の柱が入り口であるかのようにそびえ立っており、その奥には甲冑が置いてある。
どう見ても罠だ。
それにしても、こんなところがあったとは……。
ここはボスの部屋から大分離れているため、気がつかなかった。
「それじぁ、行くわよ……」
オーロイアさんが真っ先に二本の柱をくぐる。
途端、ここにいる全員を巻き込むぐらい大きな転移陣が現れる。一番後ろにいたはずの僕も容赦なく巻き込まれる。
どうやら隠しボスというのは本当にいるらしい。




