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追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します  作者: 武蔵野純平
第十一章 文明開化

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第358話 リージェント広場で接触

 俺が転移魔法で移動したのは、グンマー連合王国の西端にあるマドロス王国だ。


 マドロス王国は一連の共産主義革命でワリを食った。

 マドロス王国内のカタロニア、エウスコ、アラゴニアの三地方が独立し、領土が大幅に減ってしまった。


 ギュイーズ侯爵がマドロス国王をなだめたので、三地方と争いは起っていないが、グンマー連合王国内の火種だと俺は認識している。


 そこで、海軍パイロット育成カリキュラムの一部を、マドロス王国で行いたいと持ちかけた。


 マドロス王国は大陸の西端にあり暖流が流れ込むので、冬の寒さはそれほど厳しくない。

 マドロス王国内でも南の港なら、船上の訓練が可能な程度の暖かさだ。

 暖流が流れ込んでいるので、冬でも海水温も高い。

 万一落水しても大丈夫なのだ。


 海軍パイロットを早期に養成したい俺としては、好都合の立地な訳だ。


 マドロス王国としても、俺肝いりの海軍パイロット育成に協力をするのは、俺と交流できるのでメリットがある。


 海軍パイロット育成が行われているのは、マドロス王国でも南にある港町アヴェイロだ。

 ここ港町アヴェイロで海軍パイロット候補生たちの海上訓練が行われている。


 パイロット候補生たちは、冒険者ギルドのミディアムにしごかれて基礎体力と精神力を身に付けた。

 ミディアムに合格をもらった者が、次のステップとして、港町アヴェイロに送り込まれるのだ。


 俺たちは、港の埠頭から沖を見た。

 二本マストの軍船がプカリと浮かんでいる。


「あれかな?」


「行ってみよう」


 ルーナ先生が飛行魔法を発動し、船に向かって飛び立った。

 俺と黒丸師匠もルーナ先生の後を追う。


 上空から二本マストの軍船を見ると、パイロット候補生たちが船員教育を受けていた。

 船員教育といっても、やっていることは船の床掃除だ。デッキブラシを使って木製の甲板を擦る。


 だが場所は揺れる船の上だ。

 船に慣れていないパイロット候補生たちは、バランスを崩してデッキの上をゴロゴロ転がっている。


「うわあああ!」


「こら! しっかり腰を落としてバランスを取れ! 海に落ちるぞ!」


「しかし! 教官殿! 揺れがひどくて!」


「この程度の揺れは、揺れの内に入らん! 嵐になったら、こんなモノじゃないぞ! そこ! また、転がっとるのか!」


 海軍パイロット候補生は、教官にしごかれている。

 軍船と教官はマドロス王国海軍に出してもらった。

 マドロス国王から請求書が回ってきたが、まあまあのお値段だった。

 海軍パイロット候補生の滞在費も支払うので、まあまあ悪くない費用が、港町アヴェイロに落ちる。

 ちょっとだがマドロス王国の機嫌を取っておけるので、この出費はアリだ。


「おお! やっているのである!」


「面白い! ゴロゴロ! ゴロゴロ!」


 ルーナ先生は面白がっているが、揺れる船の上で、立つ、歩く。

 これが出来なければ、船の上で活動すらことが出来ない。


 彼らが行っている船上訓練は、船乗りとしては初歩の初歩かも知らないが、適正のない人はクリア出来ないだろう。


 船の上で立って歩けないとか、船酔いがひどく改善する見込みがないとか、そういった海軍に適性のない者をふるい落とす。

 ふるい落とされた者は、地上を飛ぶ飛行機のパイロットとして養成する。


「ふーむ。それがしは、船の上でも不自由なく動けるのであるが……」


「そりゃ一流の冒険者なら苦もなく出来ますよ。でも、彼らは違います」


 一流の冒険者になる人間は、運動神経も良いし、体の感覚も鍛えられている。

 まして黒丸師匠は、屈強なドラゴニュートだ。

 比較対象ならならない。


「うああああ!」


「そこ! 腰を落とせと言ってるだろう! へっぴり腰では、何度でも転ぶぞ!」


 教官役の海兵は厳しい態度だが、面倒見が良い。

 海軍パイロット候補生たちに、手取り足取り船の上での動き方を教えている。


「とりあえず、ここのチームは大丈夫そうですね。次へ行きましょう」


 俺たちは転移魔法で、ミスルへ向かった。



 *



 エリザ女王国で活動をしている、『じい』ことコーゼン伯爵の元に、謎のメッセージが持ち込まれた。


 羊皮紙には、『リージェント広場 明日 正午』とだけ書かれていた。


 羊皮紙を受け取ったランデル子爵によれば、パーティー会場から出て馬車に向かう間に、貴族の使用人らしき格好をした男に手渡されたそうだ。


 帽子を目深にかぶっていたので、ランデル子爵は男の顔を見ていなかった。


 ――翌日の正午。


 コーゼン伯爵とランデル子爵は、リージェント広場に来た。


 リージェント広場は、エリザ女王国王都にある大きな広場で、二本の大通りに接している。

 商業地域で人通りが多く、馬車や人が盛んに行き交う。


 ランデル子爵は、広場中央にある噴水のそばに立ち、羊皮紙を渡して来た人物から接触があるのを待った。


 ランデル子爵は罠の可能性――襲撃や誘拐――を恐れていたが、リージェント広場の様子を見てホッとした。


(これだけ人通りが多い場所なら、いきなり襲われることはあるまい)


 ランデル子爵は落ち着き、辺りの様子をうかがった。

 活気のある商業地域で、三階建ての建物が多い。


 町ゆく人を見ると、貴族もいれば、平民もいる。

 平民は比較的裕福な者のようで、着ている服はキチンとしている。


(悪くない雰囲気だ。誰かに接触されたとしても、落ち着いて話が出来る)


 ランデル子爵は、視線を一軒のカフェに向けた。


 リージェント広場脇のカフェでは、コーゼン伯爵がテーブルに座りお茶を飲んでいた。

 コーゼン伯爵が座る位置は、リージェント広場を一望出来、ランデル子爵がよく見えた。


 周りには、護衛のエルキュール族が地元平民に偽装して散らばっている。

 万一、荒事になったとしても、コーゼン伯爵とランデル子爵を脱出させる手はずは整っていた。


 コーゼン伯爵は、貴族らしいゆったりとしだ動作でティーカップを手にし、一口お茶を飲んだ。

 背後から声が掛かった。


「コーゼン伯爵様でいらっしゃいますね?」


 背後の声は中年男の低い声で、非常に落ち着いていた。

 背後の男は、コーゼン伯爵の後ろの席に腰掛けていた。

 コーゼン伯爵と背中合わせの格好だ。


 コーゼン伯爵は、ティーカップをゆっくりソーサーに戻しながら護衛のエルキュール族へ視線を送る。


 コーゼン伯爵から見える位置にいるエルキュール族の女は、屋台で買い物をする芝居をしながら首を振った。


 コーゼン伯爵は内心舌を打つ。


(ちっ! 監視の死角に座っておるのか! 顔が確認出来ぬ!)


 噴水近くに立つランデル子爵に接触があると想定し、噴水を囲む形でエルキュール族を配置したのだ。

 背後に座る男の顔は、確認出来ない。


 だが、コーゼン伯爵は、内心の焦りを表に出さず淡々と返事をした。

 接触してきた相手が顔を見せたくないのなら、相手の希望を尊重しよう。

 振り向くのは危険だと判断した。


「いかにもワシはコーゼンじゃ。お主は、羊皮紙を渡した者かのう?」


「はい。私は主の使いです」


「ほう……」


 羊皮紙の切れ端を送りつけてきた者は、用心深いらしい。

 この場には来ないで、使いの者を寄越した。


(結構なことだ)


 コーゼン伯爵は、相手の慎重さをプラス評価した。

 振り返らずに、視線をリージェント広場に向けたまま、ごく普通の口調で話す。


「用件を聞こうか」


「貴国に亡命を希望している貴族がおります」


「亡命? 理由を聞いても?」


 背後の男は、低く落ち着いた声で話し続けた。


 亡命を希望しているのは、ある下級貴族の当主と妻、息子、娘の四人。

 亡命希望の貴族家は、エリザ女王国女王エリザ・グロリアーナの政敵に味方していたという。


「ふむ……。アリー・ギュイーズ様のお味方であったと?」


「左様でございます。密かにお力添えをしていたので、アリー・ギュイーズ様は、この貴族のことをご存じないでしょう」


 アリー様に味方した者であれば、見捨てるわけにもいかない。

 だが、この話は本当だろうか?


「わかった。続けるのじゃ」


 事の真偽を見極めようと、コーゼン伯爵は続きを促した。

 背後の男は、淡々と一定のペースで話し続ける。


「しかし、最近になって、この貴族がアリー・ギュイーズ様にお味方していたことが、エリザ・グロリアーナ陛下に知られてしまったのです」


「それで亡命を希望すると?」


「はい。このままでは、何か理由をつけて貴族家お取り潰し。悪くすれば処刑されるでしょう。この貴族は、非常に恐れております」


「ふーむ……。それは捨て置けぬのう……」


「では、よろしくお願いいたします。貴族の名は――」


 コーゼン伯爵の背後から気配が消えた。

 亡命希望の貴族の名を告げると男は去ったのだ。

 周囲を警戒していたエルキュール族が、すぐに男の尾行についた。


 コーゼン伯爵は、冷めたお茶を口にして、苦さに顔をゆがめる。


(やれやれ、厄介ごとを引き受けてしまったわい)


 カフェの席を立つと、リージェント広場の噴水脇に立つランデル子爵を手招きした。

 ランデル子爵は、不審顔でコーゼン伯爵に駆け寄る。


「どうしました?」


「相手から接触があった。大使館に戻る」


 コーゼン伯爵とランデル子爵は、馬車が止めてある場所へ歩き出した。


 道の向こうからハンチング帽をかぶった労働者風の男が歩いてきた。

 一瞬だけコーゼン伯爵に視線を合わせ、首を左右に傾け、肩を二回揉む。


 ハンチング帽の男はエルキュール族で『報告あり』のサインだ。


 すれ違いざま労働者風の男が、小声でコーゼン伯爵に報告した。


「尾行をまかれました」


 相手の正体は分からず。

 コーゼン伯爵は、相手の手強さに深く息を吐いた。

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ここまで楽しく読めました。 しかし、なぜ更新しないのですかね? テンポ良く進んでいただけに残念です。
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