第227話 ウーラの町は、発展する!
――三月末。
俺がキャランフィールドの執務室で仕事をしていると、リス族のパイロットが手紙を届けてくれた。
「アンジェロ陛下。ウーラの町にいるブンゴ隊長からお手紙です」
「ありがとう。ブンゴ隊長? 馬賊討伐は、もう終わったけれど何だろう?」
ブンゴ隊長からの手紙には、町が大きくなって大変だから何とかしてくれと書いてあった。
便宜上『ウーラの町』と呼んでいるが、あそこは街道の治安維持の為に作った砦だ。
そんな場所に、人が増えるだろうか?
対応に迷った俺は、じいを呼んで、ブンゴ隊長からの手紙を見せた。
「はて? ウーラの町は、街道沿いに砦があるだけだと思いましたが?」
「うん。俺が作ったのだから間違いないよ。でも、このブンゴ隊長からの手紙だと……」
「町が大きくなったと書いてありますじゃ」
「とりあえず行ってみるか」
俺はじいを連れて、ウーラの町へゲートをつなげて転移した。
「えっ!?」
「なっ!?」
俺とじいは、あんぐりと口を開けた。
町の様子はスッカリ変わっていたのだ。
サイターマ街道に沿って沢山の露店が軒を並べ、商人の元気の良い声が響いているのだ。
イタロス風のお洒落な服を着た商人もいれば、ゆったりしたメロビクス風の衣装に身を包んだ商人もいる。
少数だが、ミスル王国商人と思われる肌が日焼けした者もめにつく。
農民は手押し車に積んだ野菜を売り、薪を売っている男もいる。
「じい。街道沿いに、マーケットが出来ているな」
「アンジェロ様。何か手を回したのでしょうか?」
「何もしてないよ! どうなってるのコレ?」
「とりあえずブンゴ隊長を探しながら、事情を聞いて回りましょう」
俺とじいは、街道沿いの露店に顔を出し、商人たちに話を聞いて回った。
イタロスの農民が言う。
「ブンゴさんに畑の野菜を売りたいって相談したら、いいっすよーって」
続いて、メロビクスから来た行商人と話した。
「いやね。ブンゴ隊長さんが、ここで店を開いても良いって。ほら、イタロスまで行かなくて済むから、ちょっと楽でしょう」
ミスル王国の商人は、女性が使う香油と肌触りの良さそうな綿の生地を持ち込んでいた。
「遠征に来たブンゴさんに、この町のことを聞きました。ミスル本国は治安が悪いですからね……。でも、こっちは盗賊がいなくなったでしょう? ウーラの町まで足を伸ばせば、安全に商売が出来るからありがたいですよ」
どうやら、ブンゴ隊長はあちこちで人と交流し、結果、自然発生的にこのマーケットが出来上がったらしい。
「じい。どうよ?」
「いや、もう、こうなると、一つの才能ですじゃ!」
「イタロス、メロビクス、ミスル……三カ国の交易中継所になり始めているな……」
「ウーラの町は、大化けするかもしれませんぞ……」
これは嬉しい想定外だ。
ウーラ、オオミーヤ、ドクロザワが、サイターマ三大拠点として発展するかもしれない。
砦に来てみると、門が閉まっていた。
入り口にメモ書きが釘で刺してあった。
『ミスル王国への街道整備してるッス! 夕方には帰るッス!』
俺とじいは、メモの内容を見て首をひねった。
「ミスル王国への街道なんてあったか?」
「いえ……。この辺りに南北を結ぶ街道はなかったですじゃ」
俺とじいは、視察を兼ねてブラブラと歩き出した。
すると、ウーラの町から南へ下る道があった。
道と行っても、ケッテンクラートで土を踏み固めただけの道だ。
じいと二人で、南へ続く道を歩いて行くと、ケッテンクラートの音が聞こえてきた。
ブンゴ隊長と部下たちが、ケッテンクラートを往復させて道を作っていたのだ。
「おーい! ブンゴ隊長!」
「おー! 王様じゃないッスか!」
ブンゴ隊長と合流して早速話を聞いた。
「なぜ道を作っているのだ?」
「ほら、この前、馬賊退治でミスルに遠征したじゃないッスか? 現地で会ったミスル人と仲良くなったんス。そしたら、ウーラの町で商売したいって言うんで、許可したッス」
「ああ、街道沿いのマーケットを見てきたよ。いたな、ミスル商人」
「ね! 私もビックリしたッス! 本当に来るとは思わなかったんで。じゃあ、迷子にならないように道があった方が良いと思ったス!」
「それで、ミスルまで道を作ろうとしているのか!」
「そうッス! あれ? マズかったッスか?」
「……」
俺とじいは、同時に目を合わせてうなずいた。
いたよ!
人材が!
武官も出来て、内政官も出来そうなヤツが!
もう、逃さない!
「ブンゴ隊長! この前の遠征の褒美として、あなたを騎士爵に叙する」
「へっ!? き、騎士爵ッスか!?」
「国王の代官として、ウーラの町を治め、更に発展させてくれ!」
「ちょっ!? いきなり!? いや、無理ッス!」
驚くブンゴ隊長を放って、俺はゲートをキャランフィールドへつなげた。
「徴税とか内政のことは、アリーさんに聞いてくれ。明日、連れてくるから。じゃあ、よろしく♪」
「しっかり励むのじゃぞ♪」
俺とじいは、優秀な人材を発掘できて、ルンルン気分でキャランフィールドへ帰った。
「ちょっと待つッスーーー! 王様ーーーー!」
背中にブンゴ隊長の声が聞こえたが……。
人手不足だから!
あとは頼むね!
*
赤獅子族のヴィスは、夜の砂漠を進むラクダ隊商の一団にいた。
この一団は、ミスリル鉱山にミスリル鉱石を仕入れに行く商人の隊商だ。
昼間の砂漠は暑いので、涼しい夜に移動をしているのだ。
砂漠の商人たちは、空に輝く星の位置を見て方角を知り、迷わずにミスリル鉱山へ向かっていた。
隊商の中に、五人ミスル軍人が混じっている。
その内の一人がヴィスだ。
ヴィスは、地球神の使いの言葉に従い、ミスリル鉱山へ向かうことにした。
しかし、ミスリル鉱山は、砂漠の先にあるので一人で歩いて行くことは出来ない。
そこでヴィスは、ミスリル鉱山の警備兵に応募し、運良く採用をされた。
「おーい! 警備兵さんたち! ミスリル鉱山が見えてきたよ!」
商人が、ヴィスたち警備兵にラクダの上から声をかけた。
ヴィスは、ラクダの背中でウトウトと居眠りをしていたが、目を開けて前方を見た。
「あれか……」
月明かりに、大きな岩山が照らし出された。
砂漠の中にポツリと立つ陸の孤島である。
その岩山に隊商は吸い込まれていった。
こうしてヴィスは、同じ転生者がいるミスリル鉱山に入ることに成功した。




