少女と幼馴染とお昼ご飯
割と自分で書く際にいろいろ調べてますが今回『食指』の意味を学びましたね。
食指を伸ばすは誤用で正しくは食指を動かすみたいですね。
触手を伸ばすなら正しいみたいですw
しばらくして—―
「お待たせー!はい、アリスちゃんの肉盛り肉倍増定食とリンちゃんの魚定食でーす!付け合わせのパンもどうぞー」
「うわぁ、おいしそう!」
リンとアリスの頼んだ料理は、一目で調理したてだということが分かるように湯気を立て香りを立ち昇らせている。鼻で息を吸い込むと肉と魚の美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。
きゅるる~とリンとアリスのお腹は待ちきれないと言わんばかりに可愛らしい音を立て早く食べろと主張する。
アリスの頼んだ肉は分厚くカットされたステーキで、しかも肉倍増ということもあり極厚のステーキが2枚乗せられている。ソースはどうやら玉葱がメインのソースのようで、飴色になるまで炒められた玉葱をみじん切りにしたものがかかっている。ステーキの横に添えられている野菜も瑞々しそうで美味しそうだ。
対するリンの魚料理は、1匹の魚を丸々使った煮つけで琥珀色の澄んだ液体の上にどっしりと構えている。よく味がしみ込んでいるのか魚に付けられた切れ目から覗く白身は、味付けの液体と同じく琥珀色になっている。付け合わせで置かれている人参と大根もよく味がしみ込むまで煮られていて、フォークで突くだけでほろほろとその身を崩しそうだ。
「では、ごゆっくり~」
シアルシアはそういうと二人のご飯を邪魔しないように1階の巡回を始めた。
「これは、すごいね…」
「おいしそう…」
「冷めないうちに食べよう!」
「うん!」
アリスはフォークとナイフ、リンはフォークとスプーンを手に取るとそれぞれの料理に食指を動かす。
アリスは抵抗感のある肉をナイフとフォークで巧みに操り切り分ける。大きめに切られた肉は肉汁とソースが滴り食べる前から美味であることを視覚に訴えかけてくる。
「はむ」
一口で肉を口の中に入れる。アリスが噛むたびに肉汁が肉の隙間から飛び出し口内を暴力的までに蹂躙する。それでいて玉葱の風味とレモンが加えられた酸味のあるソースが口の中を洗浄しくどさを無くしている。
もきゅもきゅ、と擬音が聞こえてきそうな頬の膨らませ方をしてアリスは肉を咀嚼する。
ごくり、と喉を鳴らし肉を飲み込むと恍惚の表情を浮かべ一息つく。
「おいしい…」
そんなアリスを見ていたリンも自身の料理にスプーンとフォークを這わせる。
煮つけにされた魚は柔らかく、ほろほろとその身が崩れる上手い具合に魚の汁と身をスプーンに乗せると小さな口を開き口内に迎え入れる。白身の魚は淡白な味わいで煮つけ汁も濃い味付けではなく、優しい味わいで口の中に広がり暖かな身を噛みしめ自然と頬が緩む。
口の中で溶けるようにその身を崩した魚を飲み込むと、リンも一つ息をつく。
「おいしいね」
「うん、王都の中にも色々なお店があるけど食べた中じゃここが好きかな」
「僕も好き」
「リンの舌に合ってよかった」
しばらく、二人は会話をしながら料理に舌鼓を打つ。
お互い半分ぐらい食べ終えたところでリンはアリスがじっと見ていることに気が付く。
「どうしたの?」
「いや、リンのお魚料理も美味しそうだなーって」
「…食べる?」
「いいの!」
そういうとリンは魚と煮汁をスプーンの上に乗せアリスに差し出す。
「はい、あーん」
「あーん…おいしいね、これ」
「でしょ?」
「じゃあ、私のお肉もあげるね」
何でもないかのように自然とあーんをするリンとアリス。幼い頃アリスの両親が狩りに出かけているとき、リンの家に預けられていたアリスはリンの家族と食事をとる機会が多かった。そんな二人にとって食べさせ合うのは日常で、特に気にしていなかったからだろう公衆の面前で食べさせ合いをするのも仕方ないだろう。
アリスは肉を切り分けるとフォークで刺しリンに差し出す。
「はい、あーん」
「あーん…むぐむぐ…ちょっと弾力があるけどお肉もおいしいね」
「でしょー、結構気に入ってるんだ!」
周囲がざわつくがあまりにも自然に食べさせ合っている様子からあの二人の間ではそれが日常なのだな、という変な空気が流れ始めたが当の本人たちは食事に夢中で気が付かない。
それから15分が経ち、二人は食事を終えていた。
「大満足」
「おいしかったね」
二人はお腹をさすりながら満足のいく料理だったと感想を言う。
「この後は買い物?」
「そうだね、その前にギルドのことかな」
「…忘れてた」
「リンの素直なところ私は好きだよー」
微笑むアリスに対しリンは気恥ずかしそうに頬を掻く。
「えっと、大体何があるかは話したから詳しい内装でも話そうかな…」
「うん、お願い」
「まず、1階だけど依頼を受けるための場所があっちにあるんだよね」
アリスが指差す先を目で追うと5人の女性が同じ服を着て受付に立っていた。ギルド統一の制服なのだろう、白を基調としたシャツに黒いスカート、赤や青など色とりどりのスカーフを首に巻いている。他の装飾は自由なのだろう、各々場を乱さない程度にイヤリングやネックレスを付けている。
「スカーフごとに何を担当する人か決まっていて赤い人が依頼の受付とハンター登録担当。青のスカーフの人が依頼を終えたら報告しに行く人。最後に緑のスカーフの人が依頼とは別に魔物を倒して手に入った素材や、薬草や鉱石なども買取の受付をしてくれる人でギルドでは一番少ない人だね」
「どうして買取の人は少ないの?」
「しっかりと素材の鑑定ができて傷が無いかや劣化具合などを正確に見分けれないといけないからね。そういった技能が必要になってきて必然的に人数が少なくなっちゃうんだよね。このギルドでも常駐してる人は2人しかいなくて特別時以外は他の街から来ることもないんだよね」
「そうなんだ…」
リンは何やら思案顔で考え込む。アリスは不思議に思い首をかしげている。
「ん、なんでもないよ。続けて、アリス」
「そう?後は傷薬を買うところがあったり食事をするための施設があるぐらいだね。受付横の奥の扉には治療施設もあるけどあんまり使われないかな…」
「そうなの?ハンターって怪我多そうだけど」
「うん、切り傷や擦り傷なんかで怪我することは多いけどそれぐらいで治療院を使ってたらお金がね?後は大怪我をすると大抵魔物に襲われて死んじゃうからかな…」
ぞわり、とリンの背筋に悪寒が走る。言われてみればそうだ。ハンターの世界は命のやり取りをする世界なのだ。ちょっとした不注意や注意散漫で取り返しのつかないことになりかねない。
「…アリスはそれでもハンターを続けるの?」
「…うん、強くなりたいからね」
「私のために?」
自惚れているわけではないが、自分のために強くなろうとしているアリスにリンは問いかける。
「もちろん」
「だったら!」
「でも」
リンが言葉を紡ぐより早くアリスが言葉を被せる。
「魔物以外にも悪人なんているし、災害だってある。身を守るためと大切な人を守るためには強さがいるんだよ。だから私はリンが止めてもハンターを続けるよ」
「アリス…」
アリスはリンを真っ直ぐ見つめ言葉を紡いだ。そんなアリスにリンは悲しげに声を漏らす。しばらく無言で見つめ合った二人だが、根負けしたようにリンが視線を逸らす。
「話逸れちゃったね」
「…うん」
「続き聞く?」
「…ううん、また今度でいい」
首を横に振り小さく呟く。
そこには抑えきれない思いが隠れているのが見え透いていた。
「そっか…」
「…」
「リン。これだけは言っておくけど私は何があってもリンを一人にして死ぬつもりはないよ」
「アリス?」
「無茶な依頼だって受けたことはないし、自分の実力はしっかりと把握してる。それに私はパーティ組んでるから一人よりは安全だよ」
アリスの言葉に少しだけ落ち込んでいた気分が戻ってくるのをリンは自覚していた。
実際、ハンターの死因の一つとして過度に自分の実力を過信したが故の無茶な魔物狩りがある。自身が付くのはいいことだが、実力を見誤って自分を過大評価する者もいる。大抵はどこかで躓き、自覚するものなのだが、所謂『天才』と呼ばれる人種はその殆どが負け知らずで自身の才能を十全に発揮する。そして、自分を勘違いするのだ。
『天才』、そう呼称するなら間違いなくアリスも天才だ。剣の才能、魔法の才能、体術の才能…おそらく1000年に一度の才能の塊だろう。そこに神々の加護も加わるのだ、間違いなく『天才』だ。
しかし、アリスは増長しない。彼女には強くなる明確な理由と自分が弱いことを知っているからだ。
リンはそんなアリスをまじかで見てきている。今のアリスの言葉が嘘偽りなくすべて本当のことだということも理解できた。
「よっし、買い物して帰ろっか」
「うん」
アリスは席を立つとリンにそう提案した。
先程の重苦しい空気は既に霧散していて快活に笑うアリスの顔にリンは毒気を抜かれる。
「布団と、シーツと、食料品に…後は生活雑貨かな。スライムクッションも買いに行こうね」
立ち上がったリンの手を引きながらアリスはギルドの外に向かっていった。
飯テロ回でした。
煮つけとは書いたけどイメージはポワレとかそんな感じになるのかもしれない。
やっぱ色々書こうと思うと知識が必要だと感じる。
どこまで横文字を使っていいのかもめちゃくちゃ悩みますね…




