約束
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約束
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ここ、どこ……?
目を覚ますとそこは真っ白な世界だった。
不思議な感覚。視界がぼやけて、だが五感の全てが妙に生々しい。
ん……んん……っ。
身を起こそうとすると、何だか身体が重かった。視界のぼやけと共に、ゆっくりと思考能力が戻ってくる。
「ここは……」
「天国…………?」
何か邪魔なものが身体へと張り付いている。お構いなしに身じろぎして、妙に高いベッドから床へと足をついた。
「ん……んん……?」
針と、チューブと、指先に噛みつく洗濯ばさみのようなもの。それら全てを取り払うと不快な電子音が鳴る。
白い部屋。まるで映画の実験室みたいな。それとブラインドがある。
隙間からこぼれるその光は白く、目がくらむほどの暖かな陽射しが漏れ込んでいる。
「え……?」
おぼつかない足取りでブラインドへと近付いて、乱暴にそれを押し開けた。
「……………………」
光輝かしい世界。公共設備と遠い町並み。キラキラと輝く湖畔。よく見るとそれは見覚えのあるもの。
「わ、わたし……うそ…………」
わたしは生きていた。
信じられない、確かにわたしは死んだというのに。
『ガシャンッッ』
その時、看護婦さんが部屋の入り口に現れて、わたしの姿に驚いて何か器具を落としてしまった。
それからベッドサイドへと飛びついて、わたしを一心不乱に見つめながら叫ぶ。
「516号室の患者さんが目を覚ましました!! 至急先生とご家族を!!」
どこかで聞いた定番のセリフ。その音はやっぱり生々しい響きを持っている。
「大丈夫ですか、無理をしないで、こちらで休んで下さい。今、先生がいらっしゃいますので……!」
生まれ変わったような清々しい気持ちでいっぱいだった。ううん、確かに自分は生まれ変わったのだと思う。
これはきっと、神様がくれた二度目の人生……彼がくれた悪夢の終焉。
彼、彼、彼、彼のおかげ。彼のおかげでわたしは目を覚ました。
「あの、千冬、さん? 大丈夫ですか?」
「そうだ、約束……」
約束を果たさなくてはならない。




