3ー3.別の案件、異なる切り口
――――――――――――――――
3ー3.別の案件、異なる切り口
――――――――――――――――
「そうか、思ったよりずっとあっさり尻尾を見せてくれたな」
「そうですね、反吐が出ます」
「同感だ。しかし証拠は無い、反応と通話履歴だけで追いつめるのも無理、その判断で正解だよ」
「私はそこまでクールにはなり切れませんよ」
文継の元へと報告が届いた。それは十分といっていい戦果だった。
敵は油断している。強硬な手段に出過ぎれば警戒され、油断というイニシアチブは失われてしまう。
零夏の判断は適切だった。
「文継様……グチります……悔しいです……とても悔しいです……」
「落ち着け。そんな精神状態で人と会ってみろ、見透かされるなりろくな結果にならん」
「…………そうですね」
珍しく熱くなってしまっている。そんな自分を指摘されて零夏は平静を取り戻す。だがまだ、上手く顔を合わせてゆく自信がない。
「ならこうしよう、キミには今から別の案件を頼みたい」
「別……ですか?」
そこに思わぬ話が舞い込んだ。
「仮に夫人が共犯者であっても彼女にはアリバイがある。施錠を解いたのは彼女ではないし、逆に彼女が実行犯となるには、千冬との体力差が拮抗し過ぎている」
「…………すみません」
「今は怒りで頭が回らないので、要点を教えていただけますか?」
先ほどから言葉がところどころ震える。その自己申告は正確な自己認識だった。
「施錠に穴を空けた人物が他にいるということだ」
なのに彼は驚くほど落ち着いている。さすが最低のご主人様だ。
極めて冷静に、状況を把握した上で自然発生する事実を短期間に導き出した。
「確か……当時戸締まりをしたメイドは今、屋敷にはいないんだったな?」
「はい、今はその娘の愛海さんが代わりに働いています」
「ならちょうどいい。夫人の調査は安易に進展するものでもないだろう」
「……ボロは出すかもしれんが、それも確実性に欠けてくる」
「だから、その当時戸締まりしたメイドに会ってみてくれ」
「本当に戸締まりが完璧だったのか、どうにも疑わしくなってきた」
別の案件とはそれだった。屋敷の二階の親族には犯行不能。つまり外部から犯人が侵入したとあっては、どこまでその完璧な戸締まりが真実かわかったものではない。
「わかりました、愛海さんに取り次ぎを頼んでみます」
零夏からすれば、今はこの最低の住民が住まう屋敷から離れられるなら朗報だった。
「文継様……すみません…………取り乱してしまいました……」
「いや、逆だな。もし俺とキミの立場が逆だったとしたら…………」
「俺はその場でその女に、悪手としか言えない挑発をかけていたに違いない」
「だからありがとう」
「……ふ、ふふふっ……うふふふっ、確かにその通りでございますね……ぷっ、ぷぷぷっ、あははははっ♪」
「文継様は人間のちっちゃい男でございますから♪」
想像してみたらおかしくてたまらないと、零夏は笑った。まず間違いなく面倒なことになるに違いない。
零夏はそっといつもの嫌みを言ったが、不思議とそのイントネーションには親愛が満ちていた。




