第二十二話:JK(ジャイアントマウンテンの孤高)
そういえば俺が今まで連れて行ったのはただの観光だ。
思えば、ぬいぐるみショップの前に通ったとき、徒労は足を止めていた。
気づかなかったが、そういう……え? マジ?
この人、乙女なの?
少し……かまをかけてみるか。
「あれはアイスキャンディっていうんだ。見た目はクマだが、果実味で美味しいらしい」
「……ふん、そうか」
「前から食べたかったんだよな。一人で買うの恥ずかしくてな」
「……ほう」
「まあでも、徒労はそんなもの食べないもんな。さて、帰るか」
振り返って王城へ向かう。
脚を動かすと、なぜか動かなかった。
いや違う。
――服の袖を掴まれている。
「どこへ行く? アイスキャンディはどうした?」
「え? いや、食べたいんだけどな。でも付き合わせるのも悪いと思って」
「……しょうがないな。非常に面倒だが構わんぞ」
「本当か? いいのか?」
「いいから行くぞ。まったく、仕方ないな……」
そう言いながら、ものすごい力で俺を引っ張っていく。
地面をずりずり、さすが蛮族の王。
店は近くだった。
女性がいっぱい並んでいる。
徒労は、それに気づくと、少し不安げだった。
「混んでおるな」
「すぐだと思うぜ。徒労は何味にする?」
壁に書いてある文字を見ていると、大勢の女性が不思議な顔で徒労に視線を向ける。
てっきり文句の一つでもいいかねないとハラハラしていたが――。
「……私は離れておこう。ダリス、お前だけ食べてくれ」
「ん? なんでだ?」
「どうやら、私が食べるものではないとわかったからだ」
周りはみんな若そうだった。
ハッ、そんなこと気にしてるのか。
やっぱ乙女だな。
「何言ってんだ。きっと似合うぜ」
「……何の話だ?」
「誰よりも可愛いからな、徒労は」
これは事実だ。
それから少し悩んで、徒労は「……ストリベリー」と静かに答えた。
購入したものの、その場では食べたくなかったらしく、噴水に戻って一緒に食べ始める。
人気なだけあって、果実の甘味と酸味のバランスがよく美味しい。
「……美味いな」
「おお、そうか。良かったぜ」
「それに――先ほどまではわからなかったが、噴水とやらも綺麗だ。さっきまでは気づかなかったが」
「ははっ、そう思ってくれてよかった」
食べ終わった後、徒労が――。
「今日は楽しかった。アイスキャンディもそうだが、ダリス、お前と共に歩けたことを光栄に思う」
「ただ観光しただけだが」
「私にとっては初めての事だ。男と二人で街を歩くなんてな。それに、山と違う所も良いとわかった。色々とすまぬな」
初めはどうなる事やらと思ったが、徒労はやっぱりいい奴だ。
もし俺が彼女の立場なら、もっと頭が固かっただろう。
流石蛮族の王と言われるだけある。
「俺も楽しかったぜ。さて帰るか」
「そうだな。それにダリスの求婚、承った。今宵、子作りするか」
「え? 何の話?」
「知っておるぞ。これはでぇとというやつだろう? 我も突然に誘われ驚いたが、やぶさかではない。子供を作れば絆もより強固となるはずだ。だが私は初めだ。優しく頼むぞ」
「あ、いや今日はその……ただの観光で……」
「我を……弄んだというのか?」
「いや、そううわけじゃ!? ま、まだ知り合って間もないだろ? ま、まだこれからだぜ?」
よくわからないが、とにかく他に答えようがなかった。
徒労は少し考え込むと、わかった。そうしようと言った。
納得が早く手助かる。
てか、そういえば――。
「徒労って、何歳なんだ?」
「私か? この世に生を受けてからは十七年くらいだな」
「……え? じゅうなな?」
「いや、もうすぐ十八か? 十六だったか?」
「子作りとか、もう二度と言っちゃだめだぜ」
俺は速足で帰ろうとする。
まさかのJK(ジャイアントマウンテンの孤高)だったとは……。
捕まっちまうぜ。
「なぜだ? 子作りはいいことだろう――」
「ダメです徒労ちゃん。君はまだ未成年です」
こういう素直な所は、徒労のいいところだ。
ユベラ、ケアル、エヴィアンもそうだが、人は表面だけではわからないことが多い。
だがそのとき、返事が返ってきていないことに気づく。
ノリでちゃんづけなんてしてしまったが、まさか怒って――。
「……ちゃん付けなど始めだ。……ふふふ、存外嬉しいものだな」
前言撤回、めちゃくちゃ笑顔だった。




