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第十九話:裸の会議

 蛮族の戦いを終えた俺たちは、大勢を引き連れて入口に戻っていた。

 ブック×100は流石に疲れたので、徒労(・・)の部下、デカいヴェルドスにおんぶしてもらっていた。ちょっと怖い。


「わ、悪いな……」

「気にするな。強き者が正義だ」

 

 それを見て、徒労が笑う。


「ダリス、お前はどんな修行をしたんだ? 私の部下は、毎日血反吐を吐きながら己を虐め抜いている。それも素質のある奴らがだ。それを簡単に倒すとはな」

「……い、色々ですよ」


 思わずうわづった声になってしまったが、ここで「目覚めたら強くて」なんて言えない。

 エヴィアンの傷は、既にユベラが回復させていた。

 だが一番申し訳なさそうにしていたのは、ケアルだ。


 心苦しかったのだろう。

 それに気づいたエヴィが、頬を撫でる。


「ありがとう。私のために」

「……いえ、信じていましたから」


 以前、俺たちが村人を助けた際、ユベラが一人で捕虜を尋問した。

 だがその後、隠れて見た書類上では、敵兵はいなかったと書かれてる。


 俺だってわかっている。

 だがそれを問い詰めることはない。


 ケアルも俺よりもっと苦労しているはずだ。

 もっと、もっと頑張らないとな。


「ここらへんで大丈夫だ。ありがとうヴェルドス」

「御意」


 もうすぐ出るところだ。

 一般兵士の俺が担がれてたら訳が分からないだろう。


 降りようとすると、エヴィが手を引いてくれた。


「まるで俺がお嬢様だな」

「ふふふ、あなたのおかげですからね」

「最後に決めたのは君だ」

「どうでしょうか。ねえ、徒労さん」

「どちらもだな。力は貸す。しかし約束をたがえるなよ」


 力を貸す? とはなんだろうか。

 道を借りる話ではなかったのか?


「はい。一緒に頑張りましょうね」

「……どういうことだ? エヴィ」

「共闘することになりました。お互いに利益がありますからね」

「そういうことだ。我らは敵を倒し、その山をもらう。それも、全部だ。悪くない」


 ……流石、転んでもただでは起きない女帝。


 とはいえ作戦は大成功か。

 山を越えると敵国もすぐ近くだ。


 今までは準備段階だ。


 まだ序章、しかし大きなプロローグか。

 

 入口では、大勢が待機していた。

 エヴィアンが手を振ると、兵士が声を上げる。


「ダリス、ここからまた忙しくなります。頼りにしていますよ」

「ああ、だが今日はゆっくり休むぜ」

「ふふふ、お任せくださいね」

「……どういう意味だ?」


   ◇


 アントラーズの王城には、特別な浴室がある。

 いつもは軍専用の湯に浸かっているのだが、今日は特別に入室を許可された。


 脱衣室で裸になり、タオルを持って中に入ると、湯気いっぱいの温かい空気が肌に触れる。


「すげえ……最高だ」


 西洋風の彫刻がいたるところに飾られており、デカい浴槽が真ん中にひとつ。

 小さな浴槽もあるが、おそらく水風呂だろう。


 近くの洗い場でササッと身体を清めたあと、ゆっくりと浸かる。


 あまりの気持ちよさに声が籠れ出た。


「毎日入りたい……」


 軍用の風呂は人数が多い上に狭い。

 けたたましい声が響くので、こうやってのんびりできるのは貴重だ。


 今日は特別疲れたなと考えていると、脱衣室から声がした。


「あらユベラ、大きくなりましたか?」

「そうかもしれませんね。魔力が強くなったからでしょうか」

「みんな凄い……ぐすん」

「泣くな。我らの基準でいえば、みな小さいぞ」


 明らかに聞き覚えのある声だ。

 ガラリと扉が開く。


 そこには、エヴィアン、ユベラ、ケアル、徒労が横並びでいた。

 エヴィアンとケアルはタオルで姿を隠しているものの、ユベラはそのまま。

 徒労にいたっては仁王立ちだ。


 あまりのプロポーションの良さに突然のことに立ち尽くしていると、ケアルが声を上げる。


「ダダダダダダダ、ダリス、お前なぜここに!?」

「え、いあ、あいや!?」

「ケアル、私がお呼びしたのですよ。お疲れですからね。今日はみんなで労ってあげましょう」

「うふふ、ダリスさんは思っていたよりも立派なのねえ」

「そうか? 我らの基準でいえば、まだまだだぞ」


 その言葉で気づき、急いでブックを発動させ息子を隠す。

 こんな使い方もあるのかと新たな知見に驚く。宴会でも使えそうだ。

 いや、それより――。


「で、出ます!」

「ダメよ。これから作戦会議ですよ」

「大国を相手にするんだから、ゆっくり話さないとねえ」

「ダリス、その代わり……あんまりこっちを見るなよ」

「我らを倒した男が、こんなにウブだとはな。どうだ? 今宵、男にしてやろうか?」

「え、ええ!?」


 俺の反応に満足したのか、徒労が裸のまま歩いてくる。


「どうだ? 我は本気だぞ。床でも強いところをみせてみろ」

「……ダリス、お前、そんな邪な目で友国の王を見るな」


 だがそこで強く制止したのは、ケアルだ。

 しかし目に涙を浮かべている。


 なんでこいつはこんなに情緒不安定なんだ。


「……ぐすん」

「泣かないで、ケアル大丈夫ですよ」

「うふふ、皆で一緒にしますか?」

「我はそれでもいいぞ。ダリス、どうする?」


 事実は小説より奇なりというが、どんな物語でも、こんな場面はなかった気がする。


 ちなみにこの後、めちゃくちゃ裸で会議した。


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