表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
77/87

(56)脱出

「俺達を壊滅ねぇーー。おもしれえ事を言う兄ちゃんだ」

 唐突に洞窟内に響いた低い声に、三人は弾かれたように後ろを振り返った。


 部屋の入口に灯されたたいまつの火がゆらりと揺れ、暗がりの中から中年の男が明かりのもとにその姿を現した。

 威圧感のある面構えに残る傷跡が、これまでしてきた悪行を表象しているかのようだった。年頃から言っても、この一味の首領格の人間であるのだろう。

 ああ、と絶望に満ちたロメオの呻き声が耳に入る。

「だから、放っておいてくれと言ったのに」

 恨みがましそうに紡ぎ出された言葉には応えず、エイジャは打ちのめされたようにがっくりと顔を下に向けた。


「やけに簡単にここまで来れたと思ったら、そういう事か……」

 ルチアが呟く。その声に諦めの色が漂い、剣の柄に手を掛ける素振りもないのを見て、男はにやついた笑みを浮かべた。

「物わかりが良くて助かるねぇ。そうだよ、あの女を逃がして、そのまま放っておくと思うか?こっそり後をつけさせてた奴が、お前らとあの女が会ったのを見て、俺に報告しに先に戻ってきてたんだよ」

 さすがに犯罪集団を統率してきただけあって抜け目がない。男が肩越しに背後へ合図を送ると、部下達がけたたましく足音を立てて部屋に乗り込んできた。

「さっさと縛れ」

 首領の指図を受け、手に縄を持った男が近付く。抵抗する様子もなく、ルチアが男に手首を掴まれた、その時だった。


「エクス・パルク!」


 詠唱と同時に、通路の奥から、洞窟を揺るがすような重い爆発音が鳴り渡った。

 男達の喚き声と、バタバタと通路を走り回る足音が響き、首領と部下達も一瞬そちらに気を取られる。すぐにルチアに視線を戻したが、それはルチアが剣を抜くには十分な時間だった。

「うあ……っ!」

 一人、二人と目にも止まらない速さで仕留める。流れるように身をすくめたかと思うと、一気に歩を加速させて標的に向かい走りこんだ。

「ぐっ……!」

 キィン!と金属のぶつかり合う音が耳を劈く。咄嗟に剣を抜いた首領とつば迫り合いになったルチアを横目に、エイジャが牢の鍵を素早く開けて扉を開く。

 牢から出てきたロメオに、エイジャが小さく頭を下げた。

「ありがとうございます。助かりました」

「……こうなったら仕方が無いでしょう」


 詠唱の主はロメオだった。アジトに乗り込み、一味に捕まる前に入口に施しておいた爆発魔術の仕掛けを今、発動させたのだ。

「あなた方こそ、あれに気付いてたんでしょう。あんな、すっかり観念した振りなどして」

「はい。あなたは諦めてないんだって、あれで分かったんです」

 エイジャの笑顔に、ロメオは苦笑いを返す。

「諦めが悪くてお恥ずかしい」

「そうじゃなきゃ困ります。大事なキーラをまかせられません」


 一瞬、ロメオとエイジャの間に緊張が走る。ロメオの口が動く前に、エイジャが口を開いた。

「とりあえず、出ます。力を貸して下さい」

「攻撃魔法は苦手なんだが……」

「あといくつか仕掛けてきてあるでしょう?身を守りますから、順番に発動して下さい」

 エイジャはロメオに守りの術を施して走り出した。

「ルチアさんは!?」

「大丈夫です、彼一人なら出てこられます」

 エイジャは首領と刃を交えているルチアを一瞬振り返る。大丈夫。こういう時、心配しないで信じるって決めたんだから。


 通路に足を踏み入れると、先程の爆発に怯えた男達が我先にと出口へ向かっていた。狭い洞窟内での爆発は、地中に生き埋めになるという本能的恐怖を与えるのだ。こういった場面でパニックをいさめるはずの首領は、最奥部で抜き差しならない状況。一味は完全に統率を失っていた。

「仕掛けを発動する必要はなさそうですね」

「良かった、あまり爆発を起こすと本当に崩れますから。そうなるとルチアさんまで生き埋めにしてしまいますし」

 物騒な言葉にエイジャはぎくりとしてロメオの顔を見返した。

「大丈夫です。音と振動の割に破壊力の少ない仕掛けですから。私だってこんな地中で苦しい思いをしたくないですよ」

 エイジャは一瞬顔に浮かべた焦燥の色をほっと緩める。ロメオがそれを見て笑みを見せた。何だか、からかわれたような気がしてーーエイジャは少し憮然としながらも、ロメオの体をかばうように前に立った。

「行きましょう。俺についてきて下さい」

 出口に向かって進み始めた途端、横の部屋から出てきた男とかち合った。

「!……お前っ、」

 男はロメオの顔を見て咄嗟に小剣を抜いた。

「ガルディアス・ダーガ!」

「フィアマ・エスト!」

 エイジャの魔術が振り下ろされた剣を弾き、跳ね返された勢いでたたらを踏んだ男を、ロメオの放った炎が襲った。

「うわあぁっ!」

 炎をまとって倒れた男を後にして、エイジャとロメオは先へ向かって走る。


「攻撃魔法、いけるじゃないですか」

「あれくらいなら使えますよ。俺だって」

「じゃあ次は防御もして下さい」

「防御は苦手なんです」

「ほんとですか?」

「本当ですよ。ああ、俺の守りはいいですから、自分の身を守って下さい」

「大丈夫です。ロメオさんに怪我なんて負わせて帰ったら、キーラを泣かせてしまいますから」

「……そんなわけ、」

 自嘲するように低く笑ったロメオに、エイジャはキッと強い視線を向けた。

「そんなわけ、あるんです!ロメオさん、もっとちゃんとキーラの事を見てあげて下さい!キーラの事を大事に思ってらっしゃるなら、同じだけ自分の身を大事にして下さい!」

 初めて目にするエイジャの剣幕に、ロメオは少し驚いたように目を見開いた。


「……よしよし、そう怒るな。お前だって人の事言えないんだからな」

 ふいに背後から伸びてきた手の平に頭を引き寄せられ、エイジャは思わず後ろ向きによろけた。

「悪い、思ったより手こずった」

「ルチア!」

 ルチアはエイジャの体を軽く受け止めると、素早く周囲を見回す。

「皆外に出たのか。すぐに後を追おう」

「全員捕まえるんだよね?散り散りに逃げちゃってないかな」

「ああいう輩は巣を追われた所で、自分の判断で遠くに逃げるなんてできないはずだ。そのへんでウロウロしてるだろ。一気に片を付けるぞ」



 階段を駆け上がり外へと足を踏み出した瞬間、入口を覗き込むようにして立っていた男が驚愕の表情を浮かべ、腰の短刀に手を添えて後ずさった。

「うわっ、なんだてめえっ……!?」

 ルチアは勢いのままに切り掛かってきた男をひらりとかわして峰打ちで沈め、剣の汚れを払うように振り下ろすと辺りを見回した。

 ルチアが予想した通り、アジトから脱出した男達は遠くへ逃げる事はなく入口の周囲で様子を伺っていたらしい。突然現れた敵らしき剣士に狼狽しながらもどうすれば良いのか分からずに、互いに顔を見合わせるようにして立ち往生している。


「て、てめえ、なんだっ!?今の爆発はてめえの仕業か!?」

 一人の男が口を開いた。

「そうだ。このアジトは間もなく崩落する。お前達の首領はもういない。大人しく俺の指示に従えば命までは取らないが、どうする?」

 ルチアの言葉に、男達が一斉にざわつく。

「首領はどうしたってんだっ!」

「俺が斬った。奴はこれからアジトと一緒に葬られるだろう。ボスと同じようにこの剣の錆になりたい者がいれば名乗りでろ、相手になるぞ」


 後から階段を上がってきたエイジャとロメオはこのやりとりを固唾を呑んで見守っていた。ルチアにしてはやけに傾いた口上だが、この男達には随分と効果があったらしく、皆一様にざわつくばかりでルチアに斬り掛かろうとする者はいない。

 エイジャがほっと息をつきかけたその時だった。


「お前達……勝手な口をきいてんじゃねえぞ」

 聞き覚えのある低い声が背後から聞こえたかと思うと、突然太い腕に首を掴まれ、エイジャは後方へ一気に引き倒された。

「エイジャ!」

「エイジャさん!」

 エイジャを羽交い締めにした男の姿に、ルチアとロメオはその場に凍り付いた。

2ヶ月ぶりの更新になってしまい、大変申し訳ありません……。

根気良く待っていて下さる方々に感謝しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ランキングクリックして下さった方、どうもありがとうございました!

皆様の↓クリックから執筆のモチベーションを頂いておりますのでよろしくお願いします。

◆◇◆◇◆◇◆【 NEWVEL 】ランキングクリック◆◇◆◇◆◇◆

今月もよろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ