少しの危機
あれから西垣は最初の格好であるパーカーとスラックスに戻り、落ち着きを取り戻していた。 それでも半ば無理矢理買わされたと言っても過言ではない様に、洋服の入った紙袋は持っていたが。
「すみません。 少々お手洗いに。」
「分かった。 隣の店で見てるから終わったら戻っておいで。」
そう言って西垣はお手洗いに行く。 その間に俺達は雑貨屋で適当に見回っていた。
「そろそろイヤホン代えようかな? でもヘッドフォンの方が音楽としてはいい音が聞こえるしなぁ。」
今の出力でも悪くはないが、音楽を嗜むなら良いものを使うのが本望なのだろうか。 誕生日でもないのに金をかけたくないのは本音だが。
「・・・遅いな・・・」
女子のお手洗いについて文句を言うつもりは無いが、15分経っても顔すら見せないのは流石に気になってくる。
「様子を見に行くか?」
一応母さん達を目視確認した上で店を出てみる。 お手洗いはそう遠くなかったのでその近くまで行ってみると西垣の姿が見えた。 見えたのだが声をかける前に違和感があった。
西垣は反対側から来たであろう男子2人に話をしているように見えるのだが、西垣の様子は明らかに困惑している。 そして近付くにつれて会話の内容が聞こえてくる。
「私は待たせてる人達がいるんです。」
「いいじゃんそう言わずにさぁ。」
「ちょっとくらい待たせたって大丈夫だって。 俺達と遊んでいこうよ。」
「そんな風に言われても私は行きませんから。」
どうやらお手洗いから出たタイミングで声をかけられて捕まったらしい。 ああ見る辺りそこそこしつこくされているようだ。
「いいじゃんかよぉ。 俺達と遊ぶくらいさぁ。」
「いやっ!」
そう言って男の1人が西垣の腕を掴んだが、力を込める前に西垣が振り払い、その後で俺が割って入る。
「そんなにしつこく迫らなくてもいいじゃないですか。 彼女、嫌がってるでしょ。」
「あ? なんだお前?」
暴力沙汰になるのは御免だが、話しぶりからするに穏便には済みそうもない。 西垣を守るように男達の前に立ちはだかる。
「すっこんでなガキ。 俺達はそっちに話しかけてんだよ。」
「あんた達だって俺と大差無いだろ。 嫌がってる女子に声をかけ続けるなんて、そんなことをしたら相手がどう思うかも分からないのかあんたらは。」
「あんだとてめぇ!」
キレたのか俺の胸ぐらを掴んでくる。 後先を考えてない人間の典型的な例かもしれない。
「生意気なガキだな・・・いっぺんシめた方がいいよなぁ?」
「おかしいな。 私の生徒に暴力で問題解決を図る者はいないと思っていたのだが?」
「あ? ・・・なんで積和がいるんだ・・・?」
声の主である姉は少し怒気を纏った声をしていた。
「なんだよ。 積和には関係無いだろ?」
「自分の弟とその友人に手を出そうとしている生徒がいるのでは無関係ではない筈だが? その手を離してそれ以上なにもしないのならば見なかった事にしてやる。」
「・・・チッ。 分かったよ。 俺らも生徒会に反抗する程馬鹿じゃねえからな。」
「一応警告しておくが、学校で同じことをすれば反省文を書かせるからな。」
「・・・行こうぜ。」
そう言って男子達は離れていった。 ホッとしつつ姉さんを見ると、すぐに元の場所に戻るように歩き始めた。
「彼女と共に戻ってくる事だ。 今度は目が届く場所にいるとは限らないからな。」
それもそうだなと西垣に声をかけようとして手を伸ばしたら、西垣の方から手を掴んで俺をお手洗いの方に引き込んだ。
「西が・・・」
「後で姉貴に感謝しておきな。 オレが出てくる前に止めてくれたことによ。」




