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第7話 この力、誰が為に。(4) part-1

侵攻作戦前夜を過ごした彼ら。

いよいよ始まる作戦の朝。彼らは、ロビーコンテナに集まりブリーフィングに入る―。


「いよいよ、か……」





 ――翌朝、ロビーコンテナ内。


 大きな作戦机の上に広げられた地図を囲むように、Y028部隊と、マルセルはそこに居た。


 準備を終え、アダプター2へと出撃する彼ら一同を前に、マルセルはそう言うと真剣な面持ちで彼らを見詰める。


「本部……ヴィルドレッド局長とミルワード司令代行からも言葉が届いている。 今作戦はアダプター2への侵攻、及び奪還……確かに第13A.R.K.にとって悲願だが、君らと引き換えに、とは考えていないとな。 ……それは当然、自分……いや、我々の部隊員も全員同じ気持ちさ」

「……ああ、心得ておく」


 斑鳩はマルセルの言葉に少し苦笑しながらそう答える。


 第13A.R.K.、その局長と司令代行である二人の言葉。それは月並みとも言える内容だったが、決して薄く事務的なものではないだろう。

 彼と彼女の事だ。ここに並ぶ面々……斑鳩、ギル、ローレッタに詩絵莉……そして、アールとフリッツもまた、素直にその言葉を受け入れられた。


 数日とはいえ、作戦を共にし、夜を明かした彼らY036部隊。その甲斐甲斐しいとも言える自分たちに対する尽力。優秀ながら気さくでもある部隊長、マルセル、そして常に明るく貢献してくれた五葉つかさをはじめ、大人数の家族の中で過ごしたような感覚に、斑鳩たちは心から感謝していた。


「俺たちY036部隊は一応、今回のアダプター2侵攻支援の為の仮設部隊だが……もしこの作戦の結果が上々なら、本格的にこの面子で支援部隊としてやって行ける様に申告を出したく思っていてね。 その為にも、お前さん方には無事に任務を終えて欲しく思うよ」


 マルセルは整えられた自慢のあごひげを撫でながら、はにかんで見せる。


「あら、それじゃ何としてでも成果を挙げて無事に帰還しなきゃだね、(アキラ)

「ああ……そうだな」


 詩絵莉は少し笑いながら腕組みをしつつ、斑鳩を見上げる。


「アダプター2を囲む防御壁は高く厚い。 通信塔が破壊されているあの場所は、幾年か前の調査の時のままならば内部から外部への相互通信は難しいかもしれない……突入後は連絡が取れない可能性もある」


 表情を引き締め、そう言う斑鳩にローレッタは頷いてみせた。


木兎(ミミズク)を介した部隊間の通信は問題ないけれど、タイチョーの言う通り突入した後はアダプター1との通信は無理かも……。 でも幸い、アダプター2は山間をダムの様に防御壁で仕切ったもので、天井はないから……もし、万が一の場合は……信号弾を打ち上げるつもりだよ」

「信号弾、か……」


 ローレッタの言葉にマルセルは目を閉じると、深いため息をつく。


 信号弾。それはヤドリギの部隊にとって作戦失敗……そして救護不要の合図として打ち上げられるものだ。

 当然だが、ここに居る、という合図としても機能するそれは裏を返せば周囲に潜むタタリギからの猛攻に晒される危険もある。こうした侵攻作戦、特に周囲……アダプター2のさらに南東側の状況が不明な今、只の連絡用途として打ち上げる事は出来ない。


 こういった状況下での信号弾は、彼らの間では暗黙の了解として通信が途絶した状況下でのまさしく"部隊の全壊"を意味するものとされていた。


「……今まで俺たちY028部隊は、この面子で攻略可能な()()()()()()()()を見極め任務を受け、そして遂行してきた。 だが今回ばかりはそうも行かない。 何しろまさしく現状、未知の領域……幾年か前の状況との差異も大きい、見極めは困難だ」


 斑鳩の言葉に、傍らでアールは静かに目を閉じる。


「だが決して、何があそこで待っていたとしても……死にに行くつもりは俺たちに、無い」

「ああ……その通りだぜ」


 彼の言葉に呼応するように、ギルは両拳を胸の前で力強く合わせる。


「なぁーに、今回はそのギリギリのライン、ってやつの見極めを()()()()()ってだけだろ。 なあ?」


 自信満々といった風のギルの横で、やや寝不足なのか。 少々やつれた顔のフリッツが驚きと呆れ、両方を孕んだ表情を彼に向ける。


「ギ、ギルバート……強気だなあ……君は」

「当たり前だろ? ……何しろ、ちっと前までの俺たちとは違うんだぜ? なあ、イカルガ」

「ああ、ギルの言う通りだ」


 斑鳩はギルの言葉に苦笑を浮かべながら振り返ると、アールとフリッツを交互に視線を送る。


「信頼出来る新しい仲間に加えて、心強い新たな兵装が今の俺たちにはあるからな」

「斑鳩……」


 やはり、どこか思い詰めた様子だったアールだが……その言葉に目をゆっくりと開いて彼を見詰め。フリッツは「な、なんだか照れるね……」と頬をぽりぽりと掻いてみせる。そんな二人の背中を、ばん、と力強く叩き詩絵莉ははにかんだ。


「ええ、暁の言う通りね。 ……それにこの作戦は南東区域攻略の第一歩に過ぎないわ。 まだ目と鼻の先……とまでは言わないけれど、あのアダプター2の攻略程度に足踏みしてたら、先が思いやられる……そうでしょ?」


 詩絵莉はそう言うと、変わって真剣な眼差しで一同を眺めると、その視線を斑鳩で止めた。

 彼女の視線を正面から受け止め、斑鳩は「同感だ」深く頷くと、改めて作戦机の上に広げられた地図に視線を落とす。


「……現状、第13A.R.K.の戦力が別方向……改めて説明するまでもないが、陥落した第14A.R.K.鎮圧へと向いているこの状況下でのこの作戦の意味は、いわば防御が手薄になるこちら側……南東区域のタタリギに対する制圧、そして勢力調査でもある」

「加えて、あわよくば拠点として……ここ。 アダプター1よりも堅牢な造りの、アダプター2再利用に向けての奪還……だな」


 マルセルの言葉に、斑鳩は軽く頷く。


「詩絵莉の言う通り、まさに今作戦は今後の展開に続く第一歩……。 第13A.R.K.、いや……前作戦で意地と誇りを注いでくれたY035部隊の為にも、ここ……アダプター1に再びタタリギを闊歩させる訳にはいかない。 その為には、何としてでもアダプター2の奪還が必要だ」


 ふう、とため息をつくと斑鳩は机に置いた手をそのまま、改めて神妙な面持ちで一同を見回す。


「だが、言えば現状このアダプター1は南東区域の守りの要でもある。 つまり今作戦の失敗は、このアダプター1の再陥落だ」

「確かに……」


 ローレッタはそう呟くと、地図に視線を落す。


「じゃあつまりタイチョー、アダプター2奪還は当然第一目標とするけど……それに囚われず、まずはここを守る為に、私たちは戦うんだね」

「そうだ。 この攻めは、同時に守りでもある。 ……つまり、俺たちに全滅は許されない、何があろうともな」

「全滅は、()()()()()……」


 斑鳩の言葉を、呟く様に復唱するアールに斑鳩は再び、深く頷く。

 それに続く様に一同、彼の言葉を飲み込むようにそれぞれ頷いた。


「お前さんらが出撃している間……ここのお(もり)は任せてくれ。 本部からの物資、設営物の搬入は本日より一時的に止めてある。 我々はY028部隊がここへ帰還するまでの間、総員で防衛に当たらせて貰うつもりだ」

「ああ、くれぐれも……宜しく頼む」


 マルセルは、あの一桁部隊に在籍していた優秀な式兵……ヤドリギだ。その彼、そして彼が率いるY036部隊が総員で防衛に当たる。

 斑鳩は心強さを感じながら、右手を差し出した。マルセルは、それまで浮かべていた真剣な表情を崩しながら、その手を握り返す。


「部隊をこうして直接見送る経験は初めて……だな。 ()()()だが、言わせてくれるか。 ……武運を、斑鳩隊長……そしてY028部隊の皆。 五葉に昨晩よりさらに旨い物を用意させて、お前さんらの帰還を待っているよ」

「……ありがたい。 マルセル隊長……本当にあんた達とこの作戦を共に出来てよかったと思っている。 無事に、果たして見せるさ」


 握り返された手をしっかりと結ぶと、両隊長は互いに決意を秘めた表情で頷きあった。


「……そうだ。 ええと……泉妻(いずのめ)、さん」


 出撃前の宣誓とも言えるそれを見届け、やり取りの段落を見たフリッツはおずおずと詩絵莉に声を掛けた。


「…詩絵莉でいいわよ、何度も言わせんじゃないわよ、もう」

「じょ、女性を下の名前で呼び捨てにするのにはやっぱり、まだ抵抗が……って、そんな事はいいんだ。 そうじゃなくて、君に謝らないといけない事が……実は君のマスケットに組み込みたい追加兵装……まだ、もう少し調整に時間が掛かりそうなんだ」


 くたびれた眼鏡を外しながら申し訳なさそうにそう言う彼に、詩絵莉は両手をやれやれ、といった風に腰に当てる。


「気にしないでいいわよ。 まだどんなモノかも聞いてないし、今回の作戦に組み込む予定も立ててないしね。 それに、さっきチェックしたけど……その、マスケット自体の整備は見事だった。 あれなら、当面その追加兵装?が無くても問題ないわよ」


 詩絵莉の言う通り、フリッツの整備は目を見張るものがあった。

 彼女から短いヒアリングを受けただけで、あとはフリッツ自らがマスケットを分解整備したのだが…疲弊した場所やトリガーの重さ、細部にわたるまで銃の状態から彼女のクセを把握した彼は、彼女をして完璧と言わざるを得ない調整を施してみせた。


「……そのお詫びと言っては何なんだけど、例のアガルタからの支援兵装の中にあった特殊な弾丸モジュールを作業の片手間に複製しておいたんだ」


 そう言うと、彼は傍らに置かれた一抱え程する鞄を彼女に渡す。

 ずっしりと重いその鞄の口を開くと、そこには3つケース。それぞれに違った弾薬が収められている様だった。


「この三つの弾薬……数もそう多く用意出来なかったし、アガルタ製のものと比べると幾分精度は落ちると思うけれど……十分に実戦で使えると思う。 後で、用途を説明するよ」

「ん……わかったわ、ありがと、フリッツ」


 興味深そうに鞄を覗き込みながら彼女は何度か頷くと、鞄を抱え直す。


「あ、そうだフリフリ」

「……ふ、()()()()?」


 その様子を傍らで見ていたローレッタは、奇妙なあだ名で彼を呼ぶ。


「そのシェリーちゃんに渡した弾薬だけど……もし作戦に組み込めそうなものなら私も聞いておきたいなって」

「ぼ、僕の事か……。 ああうん、そうだね。 確かに三種類ともこの弾薬は、面白く機能するかもしれない……時間は取らせないから皆にも聞いて貰ってもいいかな、隊長?」

「確かにそうだな。 宜しく頼む、フリッツ」


 斑鳩もその会話に振り向くと、ローレッタに賛同した。

 フリッツは斑鳩に頷くと同時に、少し申し訳なさそうに俯く。


「僕も、君らと同行したい気持ちはあるんだけど……もしもの時、足手まといになりそうだしね……いいんだ、これくらいの事はさせてくれ」

「だいじょうぶだよ、フリッツ。 整備の腕、本当にすごいと思う。 戦うのは……わたしたちに任せて」

「アールの言う通りだぜ。 人にはそれぞれ領分ってモンがあるからよ。 なに、螺旋撃牙もそうだが、あんたの腕は皆認めてんだ、フリッツ。 もう少し胸を張れよ」


 アールとギルはそう言うと、フリッツに笑みを返した。


「ふ、二人とも……ありがとう。 じゃあ僕は引き続きここに残って、作業を続けるよ。 その……詩絵莉。 次の作戦には、今手掛けている兵装……必ず間に合わせてみせる。 だからどうか、皆無事で」

「……ま、対して期待しないでおくわ」


 詩絵莉は言葉とは裏腹に、いたずらっぽい表情を浮かべるとフリッツの腰を強く叩いてみせた。


「彼の事は任せてくれ。 なに、フリッツ君には我々も大いに助けられているんだ。 五葉が言ってたぞ?炊事場や風呂場のボイラーも診てくれたそうじゃないか。 おかげで火力も上がって、使いやすくなったってね」

「へえ、そんな事まで……器用ねえ」


 マルセルの言葉に、詩絵莉は目を丸くする。

 フリッツは少し照れながら、片手を謙遜するように目の前で振って見せた。


「……元々、機械いじりが好きなんだ。 ただの息抜きだよ……大した事じゃあない」


 その様子に、斑鳩も小さく笑みを浮かべて彼を見ると、改めてマルセルに向き直る。


「ああ、彼の事……宜しく頼むよ、マルセル隊長。 暇そうにしてたらどんどん使ってやってくれ、彼も喜ぶ」

「了解だ。 そうだな、折を見てこのアダプター1に設営されてる機材全般の管轄も、彼に頼むとするか」

「そ、それは構わないけど……し、詩絵莉の兵装も仕上げておきたいし……まいったな、寝てる場合じゃあなさそうだ」


 むむむ、と困った様に腕組みをする彼に、一同は笑いを誘われる。


「……さて」


 マルセルは、ちらりと視線をロビーコンテナの壁面に掛けられた時計へと目を向けた。

 その様子に、斑鳩も同じく時計に視線を向けると、表情を引き締める。


「……そろそろ、装甲車に必要なものの搬入も終わった頃だろう」

「そうだな……」


 二人が交わす言葉に、一同にもやや緊迫した空気が流れた。


「しつこいかもしれんが……くれぐれも無事でな、Y028部隊。 ……頼んだぞ」

「ああ、鬼が出るか蛇が出るか……まさに出たとこ勝負だが、俺たちが()()()()()()()()、計るいい機会さ」


 やや不敵な笑みを浮かべて見せる斑鳩に、彼は再びあごひげを撫でつつ「なるほど」と一言。

 ほんの一瞬だが何とも言えない表情浮かべた様に見えた彼だが、すぐに小さく頷くと表情を引き締め……凛とした声を放つ。


「では、現時刻より正式に作戦行動開始としよう。 ……Y028部隊、式梟(シキキョウ)。 状況確認を今一度頼む」

「…了解!」

 


 アダプター2侵攻作戦。

 ついにその幕が、今。 いよいよ、開ける――。





 ……――第7話 この力、誰が為に。(4) Part-2 へと続く。

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