表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/137

第11話 別つ道の先へ (7) Part-3

13A.R.K.を出奔する事となる。


そう伝えられた斑鳩、ギル、詩絵莉、ローレッタの四人。

アガルタ――ヒューバルトらの手から逃れる方法として提示されたそれは、あまりに荒唐無稽なものだった。13A.R.K.、人類が生存を許された圏内、その先への逃亡。


それが意味するのは"死"そのもの。


しかしヴィルドレッドが用意した逃走経路であるなら、何か意味と理由があるはず。

そう信じる斑鳩にキースは口元を緩めると、ヴィルドレッドが用意した"皆が向かうべき道"を示し伝えるべく、胸元から一枚のメモを取り出すのだった。

「――これを」





「自分もつい数時間前、この場所の事を局長から聞かされたばかりなものでね。 さて、どう伝えたものか……」

「これは座標――ですか。 この場所が目的地……?」


 キースから手渡された一枚の小さなメモ。


 そこに記された地図上の座標と思しき数字を凝視したまま斑鳩に「ああ」と小さく応えると、キースは考え込むよう口元に手を充てがう。そしてしばしの沈黙の後――誰に向けるでもなく頷くと、斑鳩が手に持つメモを改めて見据え、口を開いた。


()()……。 侮蔑を込め、そう呼ばれる連中が居る事は知っているだろう?」

「ええ、勿論知っていますが……」


 予想外の問いに斑鳩だけでなく、その後ろで固唾を飲む三人の視線もキースへと向けられる。


「A.R.K.――ううん、アガルタの庇護から逃れて、非合法な活動を行う"元"ヤドリギと言う認識で、いい……んですよね?」


 言いながらおずおずと右手を胸の高さに上げるローレッタに、キースはゆっくりと頷く。


「ああ、その認識で問題ないよ。 今渡した座標は、その"野良"たちが拠点を構えている場所であり――その場所こそが、局長が指示した君らが目指す目的地だ」

『…………』


 変わらず口元へ右手を充てたままそう口にしたキースの言葉に、一同は思わず目を丸くする。


 非合法活動を行う野良たちが構える拠点、その場所が目的地――あまりに唐突で、荒唐無稽としてか思えないその発言。ローレッタは思わず頭を抱えると、大きく見開いた瞳を何度も瞬く。


「ちょ、ちょっと待ってください……その、ええとどこから何を聞けばいいのか……」

「……野良の連中が居る場所に逃げ込めってそりゃ……いくら何でも、冗談だろ……そもそ――」

「そうです! そもそも野良と呼ばれる人たちに拠点があるなんて初耳なんですがっ……!」


 斑鳩の隣、同じくあきれ果てた様子で言葉と同時大きくため息を吐くギルの言葉を制すよう、ローレッタはキースへと詰め寄った。


「――と言うか、どうしてそんな場所があるのに、問題視されてる"野良"を今まで放置に……ああ、いや違う違う問題はそこじゃくてっ……えぇっとその……!」


 果たして一体、何から突っ込んだらいいのか。

 そう言わんばかりに頭を抱える彼女を横目に、斑鳩はじっとキースが手渡したメモを見詰めていた。


 野良が構える拠点――そんなもの、噂にすら聞いた事は無い。


 そもそも野良と呼ばれる連中は組織だって行動している訳ではないはずだ。彼らが生業としているのは物資の盗難や略取、現在も放棄されたままとなっている旧世代の施設への侵入、無許可での物資回収。それらは全て個人、または多くとも数人で行われている行為だと聞いている。


 それら違法な行為もヤドリギでいる事で得られる庇護や保証から離れた彼らが、日々の糊口を凌ぐ為の行為に過ぎないのだろう。


 ――だからこそ、違和感がある。


 そんな者たちが徒党を組み、拠点を作る意味などない――いや、むしろそういった群れる行為を嫌い、アガルタが敷いた秩序から逃れるために野良へと下った者たちのはず。内地、比較的安全な地域での活動を主とする彼らが徒党を組むことで身を護る意味もないはずだ。


(それだけじゃない……アガルタ、A.R.K.からすれば"野良"となった者らは明確に人々の安全や権利を侵害する連中だ。 元ヤドリギであるなら尚の事、厳正に対応してきたはず……)


 その"野良"が構える拠点をあの局長が――いや、アガルタが放置する理由などないはずだ。


 そういぶかし気に眉間へしわを刻む斑鳩の横、彼が手にしたメモを肩越しに見詰めたまま今だ心ここにあらずだった詩絵莉の瞳に、ふいに色が戻る。


「――ッ!? ちょっと待っ……待って、()()……!!?」


 メモを携える斑鳩の右手首を掴むと、詩絵莉は自らの顔の前へと引き寄せた。

 ギルを押しのけるよう前のめりになる彼女の顔をローレッタが覗き込む。


「ど、どうしたのシェリーちゃん」

「嘘でしょ、何よこのデタラメな座標……ロール、気付かない? X566、Y985……!! これ、あのアダプター2よりもっと……もっと先じゃない!」

「!? ――ちょ、ちょっと見せて!」


 詩絵莉が声を荒げながら掴む斑鳩の右腕を、今度はローレッタが自らの方へと引き寄せる。


 暗闇の中、僅かに届く明かりに浮かぶ座標を前に彼女は口を開けたまま何度も大きな瞳を瞬く。確かに斑鳩が手にする小さなメモに書かれた座標は、この13A.R.K.からかなりの距離にあるあのアダプター2よりも、さらに先を示すものだった。


「……野良以前の問題だ、話にならねえ」


 言いながらため息交じりそう呟くギルの手前、斑鳩はキースの顔をじっと見つめる。

 理由を、と、急かすような視線にキースはやや困り顔で一つ息を吐くと一度周囲を伺うように視線を巡らせた後、再び口元へ手を添えた。


「皆の混乱はもっともだ……この事を伝える自分でさえ正直、これを君らに託すと話した局長の真剣な面持ちを見ていなかったら、ね」


 そう言うと、再度キースはため息交じりに顔を伏せる。


 だが再び挙げられた彼の表情には、このメモに記された座標……そして野良との合流の件が伊達や酔狂のものではない事を如実に語っていた。


「……その場所にあるのはA.R.K.じゃあない――けれどそこには確かに、()()()()()()()()があるそうなんだ、局長が言うには――ね。 もっとも、どうやってそんな僻地で……タタリギに支配され既に放棄されたはずの圏内で暮らせているのかまでは聞くことが出来なかったけれど――ただ」

「……ただ?」


 キースは言葉に詰まると皆に向けた視線を暗がりへとそらすと、何かを考えるように数秒黙り込む。彼自身も今、局長から斑鳩たちへ言付かったこの"目的地"に関して明言出来ない事を口惜しんでいた。


「局長は何か……何かをずっと、隠し通してきたようなんだ。 この場所そのものの事なのか、それともここに住まう誰かを、なのか。 それこそアガルタ――いや、自分たちも含めた全てから、ね」

「…………」


 斑鳩たちもまた、言葉に詰まっていた。


 この状況で局長が自分たちに示した答え……本来、疑うべきではないかもしれないが、それでも理解が追い付かない。ここ第13A.R.K.は人類が住まう場所と、タタリギに支配された世界のいわば境界線。それこそヤドリギとなる前、幼少の頃より誰もが知る、この世界の確かな事実だ。


 そう――アガルタすらも把握していない場所にヒトが住んでいるなど、簡単に受け入れられる事ではない。


 最前線を守るヤドリギとして、Y028部隊の皆はその目で実際にこれまで見てきた光景が浮かぶからこそ――キースが、局長が示した場所だとしても、疑わずにはいられなかった。


 過去、タタリギに対する武力行使により崩壊した街道。

 その先にあるのは今や崩壊し瓦礫の山を晒すだけの街々。


 さらに先にあるのは、変異した異形の植物がうねる暗い森。

 そこに跋扈するはタタリギに支配された旧世代の兵器や、かつてヒトだった者たちだけだ。


「……タイチョー、どう思う?」


 斑鳩は顔を横から覗き込んできたローレッタへ一瞬視線を向けると、再び手にしたメモへと視線を落とす。


「――キース令代行。 局長の意図は理解しました。 この場所へ向かえ……それはつまり、局長はここに居る誰かと今も音信があるという事でしょう。 しかし一体どうやってそんな場所の人間と連絡を取り合っていたと。 ……アダプター2の通信中継設備でさえ、復旧したのはつい数ヵ月内の話です」

「……私も気になります。 何らかの方法で通信を行っていた……としても、短距離――それこそ私たちが普段使うようなドローンを介したものでもなければ、アガルタは傍受しているはずです……」


 斑鳩とローレッタの言葉に、キースはその通りだと言わんばかりに深く頷いた。


「――()()()さ」

「……でんしょ、ばと?」


 キースが口にした聞きなれない"方法"を復唱し首を傾げるギルの横、詩絵莉はぽんと手のひらを打つ。


「――あたし漫画で読んだ事があるわ。 鳥……鳩に手紙を託して、やり取りするっていう……旧世代よりも、もっともっと昔にあった遠距離連絡手段……でしょ?」

「そうだね。 盲点だったよ……自分がまだ現役だった頃から、それとは知らず"見て"はいたんだ――恐らく、君らも、局長が使っていた伝書鳩をね」

「あたしたちも……?」


 疑問に首を捻る詩絵莉に、キースは言葉を続ける。


「積み木街の上を飛ぶ鳩――それが、局長とその地に住む"有識者"との唯一の連絡方法だったそうだ。 そうだと聞かされたのはついさっき、だけどね。 数ヵ月ごと相互に連絡を取っていたらしい。 そんな方法でやり取りしていただなんて、流石に誰も知る由が無い訳だよ」


 そう答えると、やれやれとばかりに肩を竦めるキースに対し、ギルは思わず握った拳を口元へ添え、何かを思い出すように目を閉じていた。


「待てよ……鳩……そう言えば……」

「ギルやん、何か知ってるの?」


 意外な場面で何かを思い出したように呟くギルを、ローレッタは振り返り見上げる。

 彼はしばらく目を閉じたまま暗い格納庫の天井を仰いでいたが、確信を得たよう目を開くとローレッタに視線を合わせ、深く頷く。


「……リアの奴だよ」

「え……コーデリア? ギルの妹の……」

「他に居ねえだろ。 ……とにかくよ、あいつ絵描くのが好きだろ。 それでいつだったか……あいつが描いた鳥の絵を見てたら教えてくれたんだよ。 これは"鳩"っていう鳥だ、つってな」

「あっ……」


 ローレッタはギルを見上げたまま彼の言葉に思わず目を見開く。


 確かにコーデリアが描く木炭のイラストの中、何枚か鳥を描いたものがあった。そして彼女自身もいつだったか……その鳥が鳩だと口にした事を思い出す。


「知っての通り、今の通信網……特に長距離通信網となればそれら全てはアガルタが管理している。 とにかく局長はアガルタに隠して、この場所にいるされる人物と定期的に文を交わしていたそうなんだ……何年も昔から、今に至るまで。 どんな話を誰としていたのか……そこまで詳しくは聞けなかったけどね」


「……このA.R.K.を出奔し、その"有識者"に会え……それが俺たちの道だと、局長は示している。 何者なんですか、その人物は」

「…………」


 斑鳩の言葉に、キースは再び一瞬、皆から視線を外す。


(有識者――局長が彼らと合わせたいとする"人物"。 その話を局長が口した瞬間、隣に居たヴィッダさんの表情が変わったように見えたが……二人が知る人物なのか?)


 しかしそれを伝えたところで今、何かが分かるわけでもない――。

 キースは言葉を飲み込むと、再び四人に顔を向けると、局長が断片的に話した内容をそのまま伝える事を選んだ。


「……元、アガルタ化学部門の権威――ヤドリギを生み出す計画の中心に居た人物……だそうだ」

「! ヤドリギを……それはつまりA.M.R.T.の開発に携わっていた人物という事、ですか」

「ああ……局長とはかなり古い縁らしい。 あの人は……その"有識者"と、君らを引き合わせたいそうなんだ。 きっと何かしらの意図があるんだろうが――ともかく、局長は少し考えた後こう伝えてくれと言ったよ」


 するとキースは背後、暗闇の中で息を潜めるように佇む装甲車のキャビンを視界に入れ、口を開く。


「奴ならきっと、お前たち……そして彼女――アールの力になってくれるはずだ、とね」

「アルちゃんの……!?」


 驚くローレッタの声と同時に、斑鳩は再びメモに描かれた座標へと視線を落とす。


 アガルタの元、研究者――そんな人物が、人知れずタタリギに支配されたはずの地に居る。おそらく何年、いやあるいは何十年と局長が何者にも知られる事なく秘匿していたであろう場所。


 これは現状からの逃走ではない。そこへ向かうべき理由があるのだろうと斑鳩は頷いていた。現状13A.R.K.の施設では解明する事の出来ない、式神による深過共鳴(レゾナンス)現象。そして"彼女"……アールの力になってくれる、という言葉。


(ヤドリギ……A.M.R.T.開発に携わった者。 となれば――まさか、D.E.E.D.計画に関しても何かを知っている人物、と言うことなのか……?)


 斑鳩は心の中で沸いた疑問を否定するよう無意識に首を小さく横に振る。


 D.E.E.D.計画自体、局長は知らなかったはず。隠しているような素振りなど一切なかったはず。だが、だとすればそもそも何故――今の今まで、局長は"その地"の事を秘匿としてきたのだろうか。


 それが野良の拠点とされる場所だから、野良として無法に身を置き活動している者だから――では、明らかに理由が弱いだろう。むしろこれは問題視されていないと見るべきだ。


 しかし、危険を承知で前司令代行……ラティーシャ・ミルワードをアガルタへと送らなければならない程、こちら側にはヒューバルトたちの意向が掴めていない状況だったはず。斑鳩はローレッタと詩絵莉の質問に答えるキースをちらりと横眼で視界に入れる。


(この座標の場所に関してはキース司令代行まったく、知らなかった。 ……この状況でこちらに(くみ)してくれる元アガルタの研究者……何故こんな(カード)を局長は今まで切らなかった?)


 そうだ――と、斑鳩は瞳を細める。


(切らなかったのではない、切れなかった――そう考えるのが自然だ。 それほどまでに局長はかの地……そしてその"有識者"の存在を隠しておきたかったに違いない)


 ――()()()? 自らの問いに自ら、斑鳩は答える。


(当然、アガルタからだ。 俺たちが動けば追手が放たれる可能性は十二分にある。 そうすればあるいはその"有識者"の事もヒューバルトらに露見するかもしれない。 ……だが、例え()()()()()()()()()と、局長は判断した……)


 だとするなら状況は、今想定している以上に芳しくないのかもしれない。


 あるいはあのアガルタの制服に身を包み我々の前に姿を現したラティーシャ前司令代行、彼女が局長と接触し、何かしらを伝えた……いやむしろその逆、彼女が本当にあちら側についてしまった、つかなければならない"何か"があった事を、局長は知ってしまった――。


「……斑鳩君」

「!」


 思考に耽っていた斑鳩の意識を、キースの声が呼び戻す。


「この地で待つ人物に会えば、あるいは斑鳩君……今の君の状態や、アール君に起こっている異常、そして深過共鳴(レゾナンス)の先で見た光景と"少女"について、何か分かるかもしれない。 局長は……そう考えているんだろう」

「――ええ」

「何故今になって局長がこのカードを切ったのか。 その事については君が今、考えている通りだと思うよ。 あの人は何かを出し惜しみするような性格じゃあない。 必要に応じて、必要な手段を選ぶ……君らの処遇しかり、さ」


 少しだけ表情を緩めるキースにつられるよう、斑鳩も口元を緩めた。


(アルちゃんに起きてる……異常……?)


 ローレッタはキースの言葉に怪訝そうな表情を浮かべていた。

 思えば部隊の――いや、自分たち自身の今後を決める事となるであろうこの大事な場面に、出奔のための準備、その作業を行っているというフリッツはともかく、装甲車の中で休んでいるというアール……彼女を置いて、話を進めるという違和感。


(――アルちゃん、何かあったの? まさか、()()()()()()()――……)


 アダプター2の純種戦の後、冷たく横たわった彼女を脳裏に浮かべ青ざめるローレッタ。

 その様子に気付いたのか、キースは彼女を制するよう右手をゆっくりと掲げる。


「――さて、目的地は伝えた。 あとは、()()()()()()()()を解決しようか、斑鳩君」

「……待てよ、司令代行さんよ。 ンなあるかどうかも分からねぇ僻地に向かうなんざ、俺は納得出来ねえ。 してねえぞ」


 言葉ながら、装甲車へ振り返ろうとするキースへ向けて、ギルは鋭く低い声を放つ。


「ちょ……あほギル! そりゃ気持ちは分かるケドさ、他に方法が無い以上――」

「そう言う問題じゃねえんだッ……!」


 キースへの態度にギルの臀部を平手打ちする詩絵莉だったが、感情を押し殺す様、声を荒げぬよう歯を食いしばり漏らした彼の言葉に、思わず肩をびくんと震わせる。


「――わかってンだろ。 俺にはリアが……コーデリアの奴が居るんだ。 ホイホイとこの場所から逃げだせと言われて、はいそうですかと納得するワケにはいかねえんだよ……俺が居なくなっちまったら、あいつは……」


(そうか、ギルが渋っていたのは……)


 詩絵莉は彼の言葉にはっと胸の前で拳を握り込んだ。


 幼い頃家族を亡くし孤児となった、斑鳩。内地のA.R.K.に母親を残したローレッタ。フリッツもまた、家族はもう居ないと話していた。そして家出当然の様に13A.R.K.へたどり着き、両親と一切連絡を取り合っていない詩絵莉(じぶん)


(あたしたちの中で唯一、ギルはこのA.R.K.に家族が……コーデリアが居る。 だから……)


「――先に言っておくけどな、お前らと行くのが嫌だとか……この状況を軽く見てるとかじゃねえっつうか……ああいや、なんだその、違ぇんだよ。 そういう簡単な話じゃねえ! けどよ司令代行さんよ、俺が、やってもいねえ罪状でA.R.K.(この場所)から逃げ出したなんてあいつに知られたら……いや、俺の家族だってだけで、あいつは――!」

「ギルやん……待って――!」


 言いながら、ローレッタの制止を振り切りキースの胸倉を掴むギルに、斑鳩が動いたその瞬間だった。


「斑鳩さんたちの前で、そんな情けない顔しないで欲しいな――お兄ちゃん」


 暗闇の中、停車されハッチが開いたままの装甲車。

 その中から確かに聞こえた聞き覚えのあるその声に――ギルはキースの胸倉を掴んでいた指から力が抜けるのを感じていた。


「――ッ!?」


 暗闇の中タラップ降りる靴音、そして現れた一人の小柄な少女の影に、ギルはびくんとその身体を震わせる。そして、極々薄く届く格納庫入口からの照明に照らされ浮かび上がるその姿に――ギルは、いや、斑鳩とキース以外の全員の口が、それこそ地面に落ちるほど開け放たれた。


「お兄ちゃん、我儘言わないで。 私だってもう子供じゃない――どこでお兄ちゃんの帰りを待つか、私はそれを……自分で、決めるから」


 きっちりと着込んだ、ここ13A.R.K.の式制服。

 胸元に医療班のタグを揺らし姿を現したのは、紛れもないギルの唯一の家族。


「な……なんでお前が……なんでお前がここにっ……いる、んだよッ!?!」


挿絵(By みてみん)


 乾いた声、混乱しているのか妙に甲高い声で。

 ギルが指した震える指先、確かにそこに居たのは……見まごうことのない、この場所に居るはずのない――いやギルからすれば、こんな場所に、この場面に居てはならないはずの――"コーデリア・ガターリッジ"。


 妹の姿が――そこにはあった。




 ……――第11話 別つ道の先へ (8) へと続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ