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第11話 別つ道の先へ (5) Part-1

――過度の深過傾向にある斑鳩とアールを拘束、移送する。


アガルタ本拠点からの命として訪れたヒューバルトとラティーシャ二人から、ヴィルドレッドは8時間の猶予を宣言する。アガルタからの正式な移送要請の前、13A.R.K.が権限を持てる僅かな時間……。


斑鳩とアールが峰雲のラボへ搬送される中――

残された面々、ギル、詩絵莉、ローレッタもまた深過の疑いありとして身柄を拘束され、古びた病棟を改修した、斑鳩もその身を置いたあの隔離部屋へと収容されていたのだった。

「全く、何がどうなってんだろうな……」





 窓一つ無い、古びた病室。


 頑丈そうな石壁に残る染みがこの部屋で過去何があったのかを嫌でも想像させる。簡素な椅子、年代物のベッド、その脇には小さな机。


 深過傾向有りと判定された者が隔離されるための、古病棟の一室。


 以前斑鳩が14A.R.K.から帰還した際にも使用されたその部屋で、ギルは座ったままアルミ皿の上にかじりかけのパンを置くと、天井に吊るされた心許ない小さな電球を見上げ眉間にしわを刻んでいた。


「いいから黙って食べないさいよ。 そのパン、いらないんならあたしが貰うわよ、それ」

「い、いや食うって! ただよ、シエリも見ただろ? あの司令代行が何だってアガルタの制服着てるんだ、っつう話だよ」


 隣で同じく冷えたパンを口に押し込みながら、詩絵莉は天井を見上げるギルにジト目を送る。

 彼女の言葉に慌てて再びかじりかけのパンへと手を伸ばしながらギルは肩を竦めてみせた。


「"元"司令代行、ね。 ……知ンないわよ」


 詩絵莉は一瞬考えるように視線を泳がせると、手元のパンを小さく千切りながら再び口へと放り込む。


 タタリギへと遂げた戦車との戦闘が終わった直後。再度兵装を整え出撃しようとしていた詩絵莉、ギル、そして装甲車の中のローレッタとフリッツが目撃したのはあのヒューバルト大尉と……数か月前まで共に戦っていたはずのラティーシャ・ミルワード元司令代行だった。


 何故彼女があの曰く付きの大尉と行動を共にしているのか――当然、知る由はない。


「……まあ、今俺らに出来る事は食って休む事くらいしかねえけどよ」


 言いながら、ギルはアルミ皿の上に積まれた万能ナッツの素焼きに手を伸ばす。

 食事と言えば聞こえはいいが、何とも味気ない。しかし出された食事はこれと、同じく万能ナッツの挽粉で作られたパンだけだ。しかし身の上を考えれば食べれるだけマシだとギルは自分に言い聞かせ、それを口へと放り込む。


「にしても、随分聞き分けよく投降したもんだなシエリ……お前格納庫から狙撃しようとしてただろ? ヒューバルトをよ」

「……そんな訳ないでしょ。 目を使うのに銃身があった方が慣れてるから構えてただけよ。 それに――」


 何とも言えない顔でナッツを飲み込み、水が注がれたマグカップを煽ったギルが口にした言葉に、詩絵莉は同じくマグカップを手にしながら虚空を見詰める。


(確かにあの時、あたしは銃口をヒューバルトへ向けていた。 当然、暁たちに何かあれば――狙撃も(いと)わないつもりで)


 だが隼の目で見詰める先のあの男――ヒューバルトとあの瞬間、()()()()()()()


 あの男との距離は200m程だっただろうか。位置的に逆光となっていたあの格納庫の中、それも半開きになった扉から向けたその銃口に……あるいは漏れた殺気に気付いたとでも言うのか。


(――とにかく、あいつはあたしに気付いていた。 それは確信出来る……でも、普通の人間が気付ける距離じゃない。 あの男は一体……)


「……どうした?」


 僅かに首を傾げこちらの言葉を待つギルに、小さくため息をつくと詩絵莉は数度、首を横に振る。


「ううん、なんでもない。 ……それよりもあんたこそ冷静だったじゃない? てっきり飛び出して行くんじゃないかと思ってたケド」

「状況も分からねえまま飛び出すようなマネはしねえ、とカッコ付けたいところだけどな。 局長が出てったっつうのに邪魔するワケにもいかねえだろ、流石に」


 返される言葉にギルは大げさに肩を竦めてみせた。


「あの後も事情はキサヌキから聞けてたしな。 ヒューバルトの部隊に拘束されるよりも前に、レジード大尉の部隊に拘束されろ、ってアレだ」

「クリフがロールへ直前に通達してくれてたお陰ね。 彼にも感謝しなきゃ。 お陰で少し、冷静になる事が出来たもの」


 局長とヒューバルトらの殺気立った()()()()の後。

 何も聞かされてなければすぐにでも格納庫を飛び出し斑鳩とアールの元へと駆けていた事だろう。だが事前にクリフから伝えられれた司令室からの指示。



 ――ヒューバルトの部隊との接触を避け、トゥエルフシルト、レジード大尉の部隊に合流、拘束される事。 四人を確保する為の部隊を格納庫へと向かわせている。




 脳と視界を酷使する式梟(シキキョウ)特有の、戦闘後に現れる反動により満身創痍となりながら――装甲車から転がり落ちるように詩絵莉とギルの元へ姿を現したロールが伝えた言葉が、今にも飛び出そうと昂っていた二人を抑えたのだ。


「キサヌキ……まだ起きる様子はねえな」


 食事を終えたギルは支えるパイプ部分に錆が浮かぶ古いベッドの中央、静かに横たわったままのローレッタを覗き込み――その姿に一筋、冷や汗を流す。


「し、死んでねえよなコイ……」



 ――しぱぁっんっ!!



「ッつぇ!!?」

「縁起でもない事言うんじゃないっ!」


 思わずと口に出た言葉に即座、後頭部に放たれる一撃。

 詩絵莉はやれやれ、と手にしたアルミ皿をベッド脇の小さな机の上に静かに置くと、もう一度小さく息を吐く。


電池(セル)切れよ。 ……最近、ここまで深く眠り込む事は無かったけどね」

「無理もねえか……あんだけの木兎を動かしたんだもんな。 見てたぜ、あの盾型のヤツ」


 ギルの言葉に詩絵莉はゆっくり静かに、大きく頷いた。


 遮蔽物の無い平地での戦闘で、木兎(ミミズク)を移動する遮蔽物として運用する。

 先の戦闘で初投入された、狙撃に対するタタリギからのカウンターを防ぐ為にフリッツとローレッタが生み出した大型ドローン。


「ロールとフリッツが私の為に考えてくれた四号機。 ……うん、凄かった――本当に。 二人がいなかったらとてもあそこまで食い下がれなかった」


 眠るローレッタを見詰めたまま、ギルは僅かに瞳を細める。


「ついに四機目、飛ばしやがったな……キサヌキ」

「……うん」


 ローレッタは元々通常仕様の木兎四機を操る才覚を持っていた。

 だがY028部隊より前に所属していた部隊で起こしてしまった、不慮の事故――それは彼女の心に、精神に、見えない傷となって残ってしまった。


 それからずっと――式梟(シキキョウ)として復帰しY028部隊へ編入した当時から今に掛けて、彼女は四機目を扱おうとはしなかった。斑鳩も、誰もがそれを求めなかったという事もあっただろう。だが、ローレッタは誰に求められる訳でなく、自ら再び、自らの力へと手を伸ばした。


 詩絵莉はそっとローレッタの手を握ろうと伸ばした手を、直前――彼女の手元のシーツへとそっと置く。何よりも、彼女が護ってくれたからこそ戦えた。あの刹那、確かに一緒に戦場を駆ける事が出来たのだ。傷を乗り越えてまでそうしてくれた彼女に、詩絵莉は静かに瞳を閉じる。


「……ありがとね」


 自然と口を付いて出た、隣に立つギルにも聞こえない程の小さな感謝の言葉。

 シーツに添えた手をしまうと傍ら、この部屋に一つしかないベッド脇の椅子へと腰を下ろす。


「どれくらいで目を覚ますもんなんだ? つうか、起こして飯食わせとかなくてもいいのか。 まあ、たいして美味かねえけどよ」


 ギルは詩絵莉と対角線上――古びたこの部屋には似つかない、頑丈な鋼鉄製の扉入口横の壁へともたれ掛かる。


「普段なら、2~3時間くらいで目を覚ますケド……今回は――分からない。 食事は起きてからね。 こうなったらロール、起こして起きるものじゃあないもの」

「……しかしもう少し寝床は何とかならねえのか。 マットレスもだいぶとくたびれてるぜ、これ」

「同感。 ケドまあ贅沢は言えないわね……ホントならこの部屋に居なきゃいけないって事実だけで、気が滅入ってそれどころじゃないと思うし」


(深過が疑われてる身――あの時の(あきら)と一緒……か)


 14A.R.K.から帰還した斑鳩とギルが過ごした部屋……。


 壁にもたれ天井をしかめっ面で見上げるギルをちらりと視界に入れながら詩絵莉は小さくため息を吐く。撃牙を携えたまま、もしもに備えこの場所に留まった彼は一体どんな気持ちで、暁と時間を過ごしたのだろう。


 そして暁もまた、どんな気持ちでこの天井を見上げていたのだろうか……。

 詩絵莉は椅子の上で膝を抱えるように座り直すとローレッタを見詰めたまま静かに口を開く。


「暁……アールと一緒に担架で運ばれてたけど、大丈夫かな。 意識、無かったようにも見えたけど」

「ラボでの検査は別々だったからなぁ……けどまあ心配する事ぁねえだろ。 なんつったって、あいつはイカルガなんだからよ」


 ぽつりと呟いた、不安から漏れた出た言葉。

 だが天井を見上げたまま事も無げにそう答えたギルに、詩絵莉は一瞬きょとんと真顔になると次の瞬間、思わず「ぷっ」と吹き出していた。


「なによそれ」

「……あいつは俺とは違うんだとずっと思ってたんだ。 度胸もあるし頭も回る、もちろん腕も立つ。 ああいうヤツがこの世界で生き残ってくんだろうなってな」


 言うと、ギルは少し考え込むように俯く。


「……だがいつだったか、気付いちまったんだよ。 まあ、長い間横で一緒に戦ってりゃ見えてくるモンもあるっつうかな。 あいつは……死ぬ場所を見つけようとしてんだろうなってな」

「――!」


挿絵(By みてみん)


 静かに言い放たれたその台詞に、詩絵莉は大きく瞳を見開いた。

 以前斑鳩にあった、刹那的で……どこか脆く、危うい気配。死に近い、死を常に隣にあるものとしていたような彼の姿。言うまでも無く、ギルが感じていたその姿には……見覚えがあった。


「ただな……最近は違う。 上手く言えねえんだけどよ。 今のあいつは間違いなく生きるために戦ってるんだと思うぜ。 それこそ前と逆……生き残る為には何でもしてやるっつう気迫ってのか? 感じるんだよ」


 続くギルの言葉に詩絵莉は静かに頷く。


「――そう、かもね。 前の暁だったら……戦車の砲弾を撃ち返すなんて作戦、絶対しなかったと思う」

「だろ? もちろんアールが居てこそってのはあるかもしれねえけど……アレはそういう計算で出した結論じゃなかったぜ。 俺らならやれる、っつう、あいつと最も遠いところにありそうな根性論だぜ、きっと」


 ギルの言葉に詩絵莉は少し笑うと膝を抱えたまま、同じく天井を見上げる。


「あんなワケわかんねぇ作戦を、あのイカルガが大真面目にローレッタと練ったんだぜ? 全員が生き残るために、大真面目にな。 そんな今のあいつが簡単にくたばっちまうわけねーよ」

「そう――だね」


 ギルはどこか嬉しそうにそう言うと、壁を背にしたまま床へと腰を下ろした。

 少しだけ不安が晴れたように口元を緩める詩絵莉だったが、タタリギとの戦いの最後――斑鳩がアールの元へと駆ける後姿を思い出すと、表情を曇らせる。


「あの時……アールはアダプター2で純種を倒したときと同じ事をしようとしてたはずよ……式神のチカラ、深過共鳴(レゾナンス)でね」

「……存在だか意識だかを同調させて、自滅に引きずり込むっていうアレだよな」

「でも今回も、アールは戻ってきた。 ……暁と一緒にね」


 死を共有する、式神の最後の手段。


 それと分かったからこそ、斑鳩はあの時アールの元へと向かったのだろう。当然、彼にしか理解出来ない、実行出来ない方法でしか、アールを救う事が出来ないと判断したからだ。


「そうだな……」


 あの局面、それはまさしく一か八かの勝負だったに違いない。

 ギルはふと、斑鳩の頭髪――アールと同じ白髪を揺らす彼の姿を思い出していた。以前と同じようにアールがタタリギを仕留め、戻ってくる確証などどこにもない……となれば、今のあいつなら行くだろう。


 あの白髪が、式神というアールと同じ領域に足を踏み入れたものだとするなら、あいつなら――。


「暁は……暁があの時、何をしたのか分からない。 でも、アールを連れて帰ってきた……あのデカブツを灰にしてね。 何があったのかは、今度ゆっくり皆で……そうだ、コーデリアお手製の、あのパイでも食べながら聞かせてもらおう」

「……んだな」


 背を伸ばしながらどこか寂しそうに笑う詩絵莉に、ギルはゆっくりと頷く。


「正直、いろんな事が起きすぎて今は整理が追い付かねえぜ」

「元々あたしたちは考えるの担当じゃあないしね」


 そう言って肩を竦めて見せた詩絵莉にギルは「違いねえ」と笑うと、改めてこの古びた病室の一面をぐるりと見渡した。


「にしても殺風景な部屋だよな。 時計くらい用意してくれてもいいのによ。 窓もねえ、時計もねえじゃ時間感覚がおかしくなっちまうぜ」


 ギルにつられるよう、詩絵莉も身体を伸ばしながら部屋へと視線を巡らせる。

 空調は効いているようで息苦しさや蒸し暑さなどを感じる事は無いが、流石にこう殺風景な壁に囲まれたこの部屋では自然と陰鬱な考えが沸いてしまうような気分になるというものだ。


「……あれから、どれくらい経つのかな」

「拘束されてからか? 2時間は経ってると思うが……立哨(みはり)のヤツに聞いてみるか」


 親指を鋼鉄の扉に向けるギルに、詩絵莉は静かに首を横に振る。


「――やめときましょ。 ヒューバルトの部隊のヤツでしょ、立哨(りっしょう)の二人。 ……不気味なのよ、あいつら」

「奴らが例の……F30(フェブラリーサーティ)なんだろ?」

「……多分、ね。 あんただって感じてるでしょ。 あいつら、普通じゃないって」


 怪訝そうな表情を浮かべる彼女に、ギルはやや声を潜めると「お前もか」と小さく呟いた。


「何だろうな……あいつらが近くに居るとこう、眉間のあたりがチリつくっつうか。 とにかく普通じゃねえのは確かだぜ」

D.E.E.D.(ディード)計画、なんてワケわかんない事企むヤツらの私兵でしょ? まともな気がしないわ。 "存在しない日"なんて二つ名が付くのも、アール……式神みたいに隠された存在だった――そんな風にすら思える、今ならね」

「同感だな」


 ヒューバルトの部隊から立哨が二人……そしてこの病室がある通路入口に、13A.R.K.の立哨が一人。

 この部屋に連れて来られる際に見た、フルフェイスのマスクを装備したおそらく式兵の二人。兵装から兵種は判断出来なかったが、ギルと詩絵莉は並び歩くだけでじっとりと汗が滲みそうな異様な気配を二人の兵に感じていた。


 加えるならこの薄暗い病棟の通路に二人で立哨しているにも関わらず、私語の一言も口にする事のないその気配もまた、異様さを助長させている。


「……そう言えばフリッツのヤツ、どうしてんだろうな。 教授んところのラボで検査あったときは一緒にいたよな」

「どうかしらね……あたしたちと同じように血液検査と問診はされてたみたいだケド。 局長たちの事情聴取でも受けてるんじゃないかしら。 任務報告も兼ねて、ね」


 ローレッタが眠る今、会話をしていなければ襲ってくる不安と、過ぎる時間への憔悴。

 それも尽き、しばしの沈黙が病室内に流れる。


「……あたしたち、どうなっちゃうのかな。 Y028部隊、解散させられるってホントかな」


 再びぽつり、と言葉を呟いたのは詩絵莉だった。

 彼女は床に置かれた万能ナッツの素焼きをぼうっと見つめながら、瞳を伏せる。


「もし――そうなっちゃったら、さ。 どうする、ギル?」

「…………さてな」


 随分溜めて放たれた返事に、詩絵莉は顔を上げギルを見据えた。


「……助けたくないの? 二人の事」

「お、おいおい事はそう簡単じゃねえだろ……落ち着けよ、シエリ」


 心許ない照明の光を写す、まるで戦いの最中魅せるような爛々とした瞳の輝きを放つ詩絵莉に、ギルは数度首を横に振る。その姿に抗議の色を表情に浮かべ、彼女は不満そうに視線を壁へと移した。


「意外。 あんたなら二人を助けに行くぞー、って言ってくれると思ってたんだけどな」

「あのなあ……俺もそこまで単純馬鹿じゃねえよ」


 ギルは少し疲れた様子でながらあぐらをかくと、そっぽを向く詩絵莉を真っ直ぐと見据える。


「当然、このままじゃいられねえ。 何とかしてえとは思ってるぜ。 ……けどな」


 以前顔を壁に向けたまま、ギルの言葉に詩絵莉は視線だけを彼へと向ける。


「アガルタの連中から二人を解放してその後どうするってんだ? んな事すりゃあ奴らはもちろん、下手すりゃこの13A.R.K.を敵に回す事にもなるかもしれねえんだぜ。 そうなったら俺らにその先――いや、俺らがあの二人に何をしてやれるってんだよ」

「…………」


 ――()()()


 万が一……ヒューバルトの思惑通りに事が運び、二人が移送されるとなった時。

 この部屋から脱出し、装備を整え、あの不気味な部隊を従える連中から二人をよしんば取り戻したとしても――その先、一体何があると言うのか。移送対象は深過を遂げた式兵二人。私情で式兵としての力と兵装を使い、アガルタの正規兵と対峙する?


 暁の容態も分からない、アールに至っては今どういう状態にあるのかも判断も理解出来ない状態だ。

 そんな二人を助け出して――その後、どうする?


「俺だって今の状況を良しとしてるワケじゃねえ。 だがよ……ああクソ上手く言えねえな! イカルガのヤツならこういう時上手く……言ってやれるだろうけどよ」


(分かってる……分かってるよ、ギル。 でもあたしは……あたしは……)


 詩絵莉は俯き、唇を強く噛む。


 斑鳩が――暁が居なくなるかもしれない。そんな事は、考えた事もなかった。

 最期のその時が訪れるまで、手にした銃と弾丸で彼を支え、傍に居よう。そう信じて疑わなかった未来が、命をやりとりする戦いとは別……銃と弾丸が届くはずの無い外側から切り離されてしまうかもしれない。


(嫌だ。 またあたしの居場所がなくなってしまう。 ……それだけは、嫌だ。 ()()()()……()()!)


 倫理と私情に沸き揺れる感情に――詩絵莉は強く強く瞳を閉じる。


 その時だった。

 そっと右手に触れる暖かで柔らかな感触に、詩絵莉は跳ねるように身を起こし瞳を見開く。


「……シェリーちゃん、だいじょぶだよ」

「ッロール……!」


 見開いた視界に映っていたのは、横になったまま柔らかな眼差しをこちらへ向け、自らの右手を優しく握るローレッタの姿だった。





 ……――第11話 別つ道の先へ (5) Part-2 へと続く。

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