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第10話 Y028部隊 (8)

突如、A.R.K.に向け侵攻を開始したタタリギ気配を感じ取ったアール――

彼女の言葉が確かなものと知るY028部隊一同は一縷の迷いなく、即座に動き出していた。


アガルタからの戦車と正規式兵を迎え入れる歓迎ムードに包まれた食堂を抜け、

この事態を伝える為に斑鳩とアールの二人は、指令室へと駆ける。

「――失礼します!」




 バン、とけたたましい音と共に勢い良く開かれる重厚な扉。

 作戦指令室の中――ティーカップを手にし資料が広げられた指令室中央の大きな作戦卓を囲むのはヴィルドレッド、キース、レジードの三人。そしてその奥、コンソール前にはクリフとヴィッダ。全員のやや面食らった表情が、扉を開けた主である斑鳩へと一斉に向けられる。


「何事だい? 君らしくもない登場だねえ」

「おぉ、斑鳩隊長じゃあないか? 丁度、君らの話をしていたところ……」


 手にしたティーカップを置きながらそう言うキースとレジードに軽く会釈をしつつ、斑鳩はカツカツと靴音を鳴らしながら作戦卓へと近づいていく。彼の後ろに音も無く続くのは、フードを肩に掛けたまま白い髪を揺らす、アールの姿。


「……丁度良かった、局長もここに」


 厳しい表情を浮かべたまま机を挟みヴィルドレッドと対峙する斑鳩に、クリフは「斑鳩……?」と彼の名を呼びながら車椅子をその場で回頭させる。


「……どうした、斑鳩。 何があった?」


 手にしたティーカップをそのまま、立ち上る湯気と香りの奥。

 ヴィルドレッドは一瞬アールに向けた視線を斑鳩へと鋭い視線をゆっくりと戻す。こちらの気配から何やら只ならぬものを察した様子の局長に対して、斑鳩は自分を落ち着かせるよう大きく息を吐き出すと――きっ、と眼光鋭くヴィルドレッドを真っ直ぐに見据え口を開いた。


「……タタリギです。 13A.R.K.に向け、現在複数のタタリギが侵攻しています。 数、型種、正確な距離共に定かではありませんが……局長、司令代行。 早急に防衛配備の展開を」

『――!?』


 彼の言葉に、一同は大きく目を見開く。


「防壁の上に常駐している式隼(みはり)たちからは何の連絡もありませんが……」


 いぶかし気にその顔をコンソール前のクリフとヴィッダに向けるキースに、二人は小さく左右に首を振って見せた。防壁の外を遠く監視する望遠モニターも、異常を知らせるアラートも、今は沈黙を続けている。


「斑鳩の言っていること、本当……です。 感じる数が、どんどん増えてる……大きい気配、小さい気配……まっすぐ、こっちに向かって来てる……急いで欲しい、です」

「! 君は……」


 たどたどしく斑鳩の横に並ぶとそう言葉を並べるアールに、レジードは驚いたようにさらに大きく目を見開いた。白銀、いや、白髪に大きな紅い瞳。昼間は目深に被ったフードで気付かなかったが、この少女はアガルタから出向した式兵……?しかし、この姿見は……。


 常人とかけ離れた彼女の姿と、纏う気配。改めて驚きを露にするレジードを後目に、ヴィルドレッドは静かに目を細めると、こちらを真っ直ぐ見据えるアールの紅い瞳に自らを映し、静かに手にしたカップを机へと置いた。


「……キース。 A.R.K.内の全ヤドリギを格納庫に緊急招集させ、通常装備で待機させろ。 ヴィッダは民間区画へ通達、女子供を優先的に兵舎へと非難させるのだ」

「ヴィルドレッド局長……!?」


 何かを悟ったようなヴィルドレッドの表情と、言葉。

 即座に驚きの声を上げたのは、レジードとクリフの二人のみだった。


「局長殿、これは一体……!? 配備されているであろう防衛網からの報告はおろか、見敵も索敵も出す前にA.R.K.全体を戦闘待機させる……とは……こ、この少女は一体?」

「きょ、局長……斑鳩! 一体、何どういう事だ……!?」


 驚きアールへとまじまじと視線を向ける彼らに、ヴィルドレッドは大きく首を横に振ると目の前で厳しい表情を一切崩さぬ二人のヤドリギへと視線を向ける。


「済まないが、詳しい事情を説明している暇は無さそうだ。 ……だな? 斑鳩、アール」

「……ええ」

「タタリギ……アダプター1を避けながら、こっちに向かってきてる……急いで。 お願い」



 ――そこまで正確に分かるものなのか。



 これが報告書にもあった、彼女の"能力"……。


 焦りながら身振り手振りで語る彼女に、キースは鋭い視線を彼女に送っていた。

 式神……この2ヶ月の間、彼女はどれほど深過を遂げたのだろうか。これが報告にあった、タタリギの気配を探知する……深過共鳴(レゾナンス)を利用した感覚索敵――だったか。


 襲撃は本当なのだろう。だが、それと同等……いやそれ以上に、彼女という存在もまた……恐ろしい。


 しかしこのA.R.K.にとって彼女と――彼、斑鳩の部隊はある種のジョーカーであることは否定出来ない、するつもりも、今はない。Y028部隊は、単に高い戦闘能力を有すだけではなくその特異性においても"ヤドリギ"としての範疇をとうに越えている。


 局長は二人を信用している様だが……いや、彼らをヒトとして信用しているのは、自分も同じだ。だが、アールに……いや、今は斑鳩のその身にすら宿るのではなく、巣食うタタリギまでをも信じすぎてしまう事は、恐ろく、そして哀しい結末を呼ぶのではないか。


「どうしたキース、何か問題か」

「……いえいえ。 何しろ久々、ましてや唐突の拠点防衛戦ですからねえ。 恥ずかしながら身が固まってしまいまして。 直ぐに手配します、局長」


 ヴィルドレッドからの視線を受け流すと、キースはクリフたちのコンソールの横に設けられた通信設備に腰を下ろし、手慣れた様子で各種通信機器を起動させていく。


「斑鳩。 姿が見えないが、他の連中はどうした」


 ヴィッダへ向け二、三言葉を伝え、こちらに向き直ったヴィルドレッドに斑鳩は頷く。


「ギルバート、詩絵莉、ローレッタの三名はフリッツと共に格納庫へ向かっています。 独断ですが周囲にはそれと知られないよう先だって戦闘準備を。 Y028部隊の通常装備で待機予定です」

「誰か他の者に、この事は」

「いいえ、まだ部隊の者だけです。 格納庫(ハンガー)の兵站部には、兵装整備の確認と伝えるようにと」


 間髪入れず首を横に振る斑鳩に、ヴィルドレッドは大きく頷く。


 斑鳩たちY028部隊は、その戦果から今ではこの13A.R.K.内でもそれなりに名が知れた存在となっている。主要な戦力となる他の式兵、部隊が出払っている中……実力を伴う彼らがタタリギの襲撃を触れ回れば、大なり小なり混乱が起きていたことだろう。



 ――しかし、だ……。



 斑鳩 暁。タタリギの襲撃を前にしてもこの冷静な立ち振る舞い……それは式神という存在を側にしたが故の……共に死線を幾度も潜り抜けた自信の表れ、だろうか。


 いや、そのどちらも恐らく彼の本質ではない。


 この男は、恐らく今も全てを()と見ているのだろう。若さ故の勢いからも無縁なその様は、一抹の不安を感じさせる事もある。己が存在も、力も、恐らくはその命までも決して評価する事なく、事実をありのまま受け入れ、ただ行動に繋げる。


 しかしそれ故……いや、だからこそ。きっと、この男でなければならなかったのだ。

 ヴィルドレッドは一瞬彼に寄りそうよう側に立つアールを視界に入れ、僅かに目を細めた。


「――よし。 斑鳩、アールの両名は速やかに格納庫の隊員と合流しろ。 併せ()()()()兵装の継続使用を認可する。 ……そして、アール。 タタリギとの目視及び会敵まで、お前が得うる状況を逐一、式梟(木佐貫)を通し専用回線で報告を入れろ」

「「了解」」


 局長からの令が終わるや否や。

 斑鳩とアールは一瞬顔を見合わせ軽く頷くと同時、格納庫へ向け弾かれるように踵を返し駆け出していく。


「……ヴィッダ」


その2人の背中見送るヴィルドレッドの呼ぶ声に、彼女は大きなヘッドセットを片耳だけ外し、普段と変わらぬ冷静な視線を向け小さく頷いた。


挿絵(By みてみん)


「――はい、局長」

「現時点で即時使用可能なデイケーダーの残弾数は?」

「大門の護衛任務用としてY028部隊に携帯させた2発のみ……。 本日明朝、北東区域展開中のY006部隊からY011部隊へ各2発、計12発分を補給として輸送しています。 現時点で13A.R.K.が保有する未解凍の残弾数は、5発です」

「使えるのは2発、か……」


 素早く手元の資料に目を通しながら状況を確認するヴィッダに、ヴィルドレッドはやや渋い顔を浮かべた。


 崩壊弾――デイケーダーはアガルタより搬入される際、極低温で保たれている。


 弾頭に満たされている薬液、九十三型コラプサー試薬……空気に触れる事により極短時間の間タタリギに対する特攻性を持つこの薬液は、そもそもが常温の保存にも適していない。作戦行動の際持ち運ぶ程度の時間ならば問題はないが、運搬~保管の期間は、その有効性を保つためにも温度管理が徹底されている。しかしいざ使用の際となると、今度は常温でなければ開封後薬液が上手く機能しないという側面も持っている。


 そのため、作戦行動の予定に合わせ普段は解凍処理が行われているのだが……。


 ヴィルドレッドは再び眉をひそめる。デイケーダーはおろか、主力部隊が対マシラの遠征に出払っている事をまるで知っているとでも言わんばかりに、まるで引く波の様に姿を消していたタタリギが今度は本陣を直接狙った侵攻……。

 

 それが他でもない、レジードたちの部隊と戦車隊が配備された夜に起こっている。

 まるでこの襲撃に対し、視えない存在から最低限抵抗するためのカードを配り与えられたような、不快な感覚。


 この感覚は、以前にも味わった事があった。数か月前、まるで"彼女"が居なければ討ち果たせなかったであろう純種……"白虎"が突如現れた、あの時の様に。直感と呼べる程のものではないが、このどこか意図されたような状況に、ヴィルドレッドの脳裏にあの男の存在がちらつく。



 ――ヒューバルト……ヤツをこの件に絡ませるには、強引過ぎるか? しかし……



 この数ヶ月、まったくその影を踏ませる事すらなかったヒューバルト。


 D.E.E.D.(ディード)などと云う忌まわしき実験に手を染めている暗部の連中ならばあるいは――タタリギを制御せしめる何かを握っていると考えるのは、突飛だろうか。


 だがもし。万が一その様な事が出来るのであれば人類は今ここまで追いやられる事もなかったはず。今は確かなものと認識出来る"暗部"があろうとも、ヒューバルトが所属する場所は、あのアガルタだ。


 式神という存在を肯定する訳ではないが、どうあれ既存の式兵……ヤドリギたちと同じく、人類がタタリギに対抗する()()()()()として生み出されたはず。


 であるなら、例え可能だったとしても守るべきヒトが住まう場所にタタリギを仕向ける事など……。



 ――どうあれ、今考えるべき事ではない……か。 どちらにせよラティーシャから何かしらの報告を得るまで、今は計る術はない……。



 ヴィルドレッドは知らずの内に閉じた瞳を開くと、口元に添えた手から息を漏らす。


「万が一に備えデイケーダーの解凍を急がせるのだ。 アガルタへの認可は、俺が事後承諾を取る」

「かしこまりました、急ぎ手配して参ります」


 ヴィッダは振り返り、クリフと二、三言葉を交わすといくつかの薄いファイルを手早くまとめ、それを片手に早足で指令室の扉へ向け靴音を鳴らす。その一瞬、すれ違いざま彼女から向けられた「頼みましたよ」とでも聞こえて来そうな視線にキースは頷くと、手元に用意した資料に目を落とした。


「……局長。 アールくんの話ではアダプター1を迂回するようにタタリギがこちらへ足を向けているとの事。 であるなら、マルセル隊長に打診して偵察部隊をお借りしても? 事情を知る彼ならば、事もスムーズに運ぶでしょう。 彼女の言葉を信じないわけではありませんが、まずはある程度の規模を把握したい」


 ぎ、と椅子の背もたれを軋ませ振り返るキースに、ヴィルドレッドは「ああ」と口にすると、あご髭に手を添える。


「――だが交戦はさせるな、見敵だけに留めさせろ。 月も無い闇夜だ、乙型(オツガタ)甲型(コウガタ)が稼働しているとは思えんが……決して無理はさせるな。 くれぐれも、だ」

「言われずとも」


 そう――通常ならば大型のタタリギは夜間、敵性行動を取る事はまず無い。


 植物の様に日光をエネルギーとして糧とするタタリギ、それも無機物へ対する寄生型であるならば、その行動は日中に限られている。となれば、必然的に今回の襲撃は夜間稼働出来るタイプのタタリギ……つまり人型となる(ヘイ)丁型(テイガタ)……加えてあの特異種、マシラである可能性が高いだろう。



 ――そう、普通ならば……ね。



 ヴィルドレッドに背を向けたまま、キースは厳しい表情を浮かべる。

 純種の出現から始まり、ここに来て新たな可能性として現れた、外部から食事という形でエネルギーを摂取する特異種、マシラの存在。もし、あれらの特性が他のタタリギに伝播したら……?


 考えたくも無い、という風に首を横に振ると、彼はアダプター1へ状況を繋ぐべく普段ヴィッダが扱うやや古風な大型通信機前の椅子へと腰を落とし、迷うことなく複雑な機器を操作していく。


 その仕事の速さに残された片目を見開いていたのは、未だ状況の把握に手一杯といった風のクリフだ。


 リハビリもひと段落ついた頃、病室でミルワード指令代行……いや、ラティーシャ指令代行の代行として自己紹介を受けたときの感想と言えば、実戦から遠く離れ、今では飄々とした何ともつかみどころのない人物だった。あの美しくも厳格な彼女に変わり、何故この様な人がと肩の力が抜ける思いだったが……今、自分を挟み的確に戦闘へ向けプロセスを積み重ねていく彼の様子は、まるで別人である。


 現役から遠く離れていたと聞いたが……その手慣れた様子は、まるで幾年もこの指令室で務めていたようにすら感じる。



 ――この人は、一体どういう経歴を……。



 クリフはふと手を止め彼の姿を追う自分に気付くと、小さく首を横に振る。


 本来いち式兵であるはずの斑鳩とアールのたった一言で、局長をはじめ、キース代行、そしてヴィッダ補佐官は未だ確認もされていないタタリギに対し堰を切ったように動き始めた。その理由は未だ理解出来はしないが……。



 ――いや、どこかで分かっていた……そうだ、Y028部隊が普通の部隊ではない事くらい。



 病室で意識を取り戻し、初めて彼女の姿を見たとき感じたあの感覚――あるいは死神か、あるいは天使か。いち式兵から、いやヒトからは決して感じるものではない、"何か"。そして、その彼女と共にあるY028部隊に見た直感は……やはり、正しかったのだ。


 彼女は、そして彼らはやはり……いや、きっと。何かしら大きなものを背負っているに違いない。


 それが一体何なのか……運命なのか、それとも、もっと別の……形を成さない"何か"なのか。だが、不思議とクリフは彼らが背負っているであろう"何か"に対して興味を感じる事はなかった。その代わり、ふつふつと湧き上がるのは、明確な闘志と――それと同じ熱量の感謝だけ、だった。


 自分は彼らに二度、救われたのだ。


 一つはあの時、確かにこの身体から零れ落ちる様を感じた命を。

 そしてもう一つは……再び、"覚悟と誇り"をドーヴィン隊長に示せる、この式梟としての命を、だ。


 今この瞬間こそ、彼らが何者だろうがさしたる問題ではない。

 そして共に戦場に立つのであれば、それがどの様な場所であれ、立場であれ、全うする仕事の重さに差などないとドーヴィン隊長は教えてくれた。


 誰も彼もが内に抱く命に覚悟と誇りを乗せ、戦っている。運命などという言葉とは無縁に、ただ等しく命を賭している。ならば斑鳩たちが戦うのであれば、自らも再び彼らの様にただ戦おう――。


 それこそが……ドーヴィン隊長がいつも笑いながら魅せてくれた、式兵としての矜持なのだから。


 クリフはぐっ一人頷くと、改めて自らが繰る特別性大型ドローンの状態をコンソールを通じてチェックしていく。ヴィルドレッドの、キースの一声でいつでも稼働し、これから始まるであろう防衛戦の中継を担うべく――。



 そこまで黙り込み、あの生還者が指揮する空間に身を置いていたレジードは、身を弾きハッと我に返る。

 

 決して実戦から遠のいていたつもりではない。が……やはり本物の瀬戸際、言えば"最前線を担う場"を前にして想うのは、久しい緊張感と、それを久しいと思ってしまう自分への不甲斐なさだった。


 レジードはアガルタのエンブレムがあしらわれた黒制服の襟元を開くと、ヴィルドレッドへ改めて向き直る。そしてキース、クリフと共に戦闘準備を推し進める彼の横へ一歩強く踏み出すと、想いを示すよう自らの胸をドンと右こぶしで打ちならした。


「……ヴィルドレッド・マーカス局長殿! 僭越(せんえつ)ながら我が部隊を、防衛作戦の一翼として動員して頂きたい! 各式兵、戦車護衛隊に向けての戦闘配備通達の許可を!」

「痛み入る、レジード大尉……いや、レジード・ゴードウィン大尉。 元よりそのつもりだ。 今宵くらいは客人としてもてなしたかったが……だが、あの二人が言うのであればタタリギは必ず、ここへ来るだろう。 主力部隊が軒並み出払っているこの状況……A.R.K.を護る一人として、貴殿たちの力を借りたい」


 真っ直ぐとこちらを見据える老齢の瞳――

 だが、感じられる意志の強さと覚悟の量は、決して他の誰にも劣ることなど無いと断言出来る、その風格。


「ええ、お任せください。 我が部隊"トゥエルフ・シルト"の本懐は主要都市防衛こそにあると言っても過言ではありませんぞ! 早速このA.R.K.の見取り図を……ああいや、その前にキース代行! 適切な連携を執る為にも、現在A.R.K.で出撃可能な各兵種の練度と規模が知りたいのだが……!」


 キースは必要以上の熱視線をこちらに向けるレジードに片手を上げ、各部署へ通達を行ないながらも目を細めた。


 ――トゥエルフ・シルト。


 アガルタにおいて12番目に設立された防衛専門の部隊、だったか。


 以前の職場、内地で苦情処理を行なっていた頃にも幾度となくその噂は聞いていた。戦線を潜り抜け、内地に入り込んだタタリギの排除に高い功績を示してきた部隊だ。主要拠点である番号が割り振られたA.R.K.以外にも多数存在する小さな中継拠点などからの要請にも応え出撃し、任務を果たす彼らは部隊の名が示すとおりの、まさしく内地を護る(シルト)である。


 一桁部隊が南東・北東へ出向している今、彼らの力が借りられる事はなにより助けになる。



 ――だが、やはり……いくらなんでも、()()()()()()()



 キースはレジードと作戦について言葉を交わしながら、ちらりとその視線をヴィルドレッドへと向ける。

 局長とはヤドリギであった時代よりも前からの長い付き合いだ。彼が何かしら憂慮している事は、肌で感じ取れる。凛と指揮を執りながらも、彼から僅かに漏れるのはこの事態に対する浅からぬ憂慮。


 彼も、理解しているのだ。恐らくこれが、単なるタタリギからの襲撃などでは決してない、という事を。


 部隊間連携などの打ち合わせが一区切り着き、戦車部隊の初動について事柄を共有するためアダプター1と通信を行っていたコンソール前のクリフの元へレジードが向かったのを確認すると、キースはいつになく真剣な表情でヴィルドレッドの横に並ぶ。


「……局長、念の為――大尉から預かったトランク・コンソールの起動を提言します。 いつ、何が起きても良い様に」

「…………」


 小さくそう呟いたキースの言葉に、ヴィルドレッドは迷いなく無言で胸元からプレート・キーを静かに抜き出す。


 戦車と戦車部隊の全てを担う独立型コンソールを起動するその鍵は、指令室に灯る天井の灯りや明滅する各種コンソールやモニターの光を複雑に湛え、眩しく反射させていた。


「杞憂だと、いいのだがな」

「……ええ」


 そう呟くヴィルドレッドの厳しい横顔は、いつになく迷いを感じさせる。それは、ラティーシャを想うキースもまた、同じだった。彼はヴィルドレッドが手にしたプレート・キーが放つ光の反射に、目を細める。


「相手がタタリギであるならば、無心で戦える。 だからこそ今は、心から……タタリギ()()が我々の敵であればと願っています」

「……同感だ」


 言うとヴィルドレッドとキースの二人は振り返り――

 広い作戦卓の脇に置かれたトランク・コンソールへと静かに視線を送るのだった。




……――第10話 Y028部隊 (9)へと続く。

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