表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/137

第10話 閑話:宵闇に溶くは悪意と葛藤

 高台から見下ろす先、遠巻きに見える点々と灯る明かり。



 日も落ち暗闇に包まれる荒野で、頼りなくも確かに人の営みを感じさせる淡い光に、男は手にした双眼鏡をゆっくりと下ろしながら口元を歪めてみせる。


「13A.R.K.、か。 暫くぶり……だな」


 辺りの暗闇に紛れ溶けるような黒制服と、黒い頭髪。

 男は双眼鏡を静かに下すと胸元から黒ぶち眼鏡を取り出し、髪の毛を掻き上げ身に着け――同時に、背後に現れた気配へと眼鏡越しに瞳を向ける。

 視線の先に停車したアガルタのエンブレムが刻まれた装甲車。その下部より発せられる光を上げぬよう配慮された地面を淡く照らす照明から、細い影が男の方へとゆっくりと伸びる。


「ヒューバルト……大尉」


 振り返れば、タイトな黒制服に身を包んだ女性の姿。


 女は黒制服の男――ヒューバルトの背後からやや離れた位置で足を止める。立ち止まった女の顔には地面を照らす光は届かず、その表情はうかがい知る事は出来ない。だが彼は女に瞳を薄めると、手にした望遠鏡を彼女へと無造作に差し出した。


「教えて貰った通り中々いい眺めだな、この場所は……13A.R.K.を一望出来る。 どうだ、お前も覗いてみるか?」


 どこか皮肉めいた声色に、黒制服の女は不動のまま僅かに首を横に振った。


「……結構、です。 大尉こそそんなもので、何を」


 微かな迷いを感じさせる声。

 言葉を返す女にヒューバルトはつまらなそうに肩を竦めると、背中越し――遠く灯りを小さく灯す13A.R.K.へと向き直った。


「何を、か。 いやなに……改めて良い拠点だと思ってな。 長年積み上げられ補強されたあの防壁は、ある種の機能美と懐かしさを与えてくれる。 ……今のアガルタにはないものだ」

「――あの防壁と大門が、タタリギの侵攻を瀬戸際で食い止めているのです。 今回配備されたNTK七型戦車が機能すれば、その守りはさらに強固なものとなるでしょう。 ……しかしその物言い。 大尉はてっきり、13A.R.K.を嫌っておいでかと思っていましたが」

「……俺があの場所を嫌っている? ()()()だろう」


 そう言うと暗闇の中で表情を歪ませるヒューバルトに、女の背中にぞくりと冷たいものが駆け抜ける。

 浅からぬ憎悪と、侮蔑。一瞬ではあったが、込められたその感情はとても13A.R.K.だけに向けられた熱量ではないと容易に理解出来た。


 言葉と共にこちらを貫くように見据える、この闇夜においてなお薄れぬ事のない黒い意志を感じさせる、その瞳。


 今こうして対峙しているこの瞬間にも彼が放つ気配には、圧倒される"何か"を感じぜずにはいられない。一体、この男はその瞳で13A.R.K.に何を見ていたのだろうか。女は緊張を紛らわすように、夜風に揺れる髪の毛をかき上げる。


「しかしNTK七型戦車、か。 皮肉なものだな、あれがこの地に配備されるとは」

「……と、言いますと?」


 動揺を抑えるように静かに問い返す女に、ヒューバルトは「ふん」と鼻を鳴らす。


「NTKとは、Notorious Turtle Killer (ノトーリアス・タートル・キラー)の略称。 タタリギとヒトとの戦線が最も苛烈だった時代、前線では"玄武"と称された純種が存在していた……まさに、戦車寄生型の極致とも言えるタタリギだ」

「極地……」

「そうだ。  どこぞかの国の四神……だったか。 実際に、凄まじい戦闘能力を有していた。 単純にその質量だけでも脅威な上、内臓された火器を存分に振るう。 ……しかしヒトはその討つべき敵の名を拝す事で、兵たちの士気を上げようとした。 くだらん試みだが、効果はそれなりにあったらしい」


 どこか吐き捨てるようにそう言う彼の背中。


 旧時代、まだヤドリギが戦線に現れる前の話だ。

 並みいる最新鋭の戦車はタタリギへと飲まれ、瞬く間に地上を制圧していった。深過を遂げたそれらは地面だけでなく、その躯体から溢れ出た様な黒い蔦根を駆使し壁を、地下を、縦横無尽に蹂躙したという。女はいつぞや()の手帳に記された項目を思い出す。


 ――しかし、と女はふと疑問を感じる。


 ヒューバルトの物言いは、まるでその光景を見てきたかの様な語り口調だ。タタリギに追いやられ後退した人類は、今純種と邂逅する機会も久しくなかった。アダプター2に現れたものでさえ、人類に、ヤドリギたちにとって十数年ぶりの会敵だったはず。


 この男は、一体……?


「…………」


 僅かに戸惑う表情を浮かべる女にも構わず、ヒューバルトは続ける。


「ここら一体の荒野は、その玄武と名打たれたタタリギどもが更地にしてみせたのだ。 その地に、奴らの名を冠した戦車の後継機が配備されるとは……なんとも不吉で愉快じゃあないか」

「愉快――ですか。 ……私には、とても」


 明らかに普段よりも饒舌に語る彼に対して視線を逸らしたその瞬間、不意に一歩間を詰めるヒューバルトに女は身体を強張らせる。間近となった射抜く様な視線と僅かに歪んだ口元に、女は自然と身構える自分に気付く。


「そう固くなるな……これでも俺は、お前を気に入っている。 経歴も、能力も、頭脳も……そしてその容姿も、だ」


 にい、と嗤う目の前の男に、背中に再び冷たいものが奔る。

 女は詰め寄ったヒューバルトに対して言葉を吐こうと唇を僅かに開いた瞬間――背後に感じた不吉な気配に、思わず振り返った。


「――ッ!?」


 背後――暗闇の中から音もなく現れたのは、顔の半分を隠す様に覆う深く広い襟元が特徴的な式制服に身を包んだ、長身の男。

 加えて、頭部をすっぽりと覆ったガスマスクのような兵装がよりいっそう不気味さを引き立てている。当然その表情も視線も伺い知る事は出来ないが、その男は身構える女に一瞥をするわけでも、気に掛ける様子も一切見せず真横を通り過ぎると、ヒューバルトの前へ膝を着いた。


 頬を流れる冷たい汗を感じながら、身を屈め膝を着いた式兵が右腕に装着する一風変わった撃牙へと女は視線を向け、僅かに目を細める。


 夜に紛れるような漆黒のそれは、アガルタ正規式兵が使うものとも、A.R.K.に一般的に配備されているものとも大きくかけ離れたシルエットだ。無骨かつ鋭い杭が地面を照らす明かりにぬらりと輝くその様は、良く知る兵装とはまるで別の物のようにも感じられる。



 ――F30(フェブラリー・サーティ)……。



 女は自然と身体をわずかに強張らせる。

 このマスクの男こそ、恐らくヒューバルトが抱える極少数精鋭特殊部隊の一人……。


 膝を着いた彼の背中から感じられる気配は、アガルタで見た手練れの式兵とも比べ物にならない程の実力を容易に伺わせる。確かにそこにいるはずなのに、気配すら希薄に感じさせる……形容しがたい異様さ。"存在しない日"と称される彼ら……こうして目の前にすれば、そう呼ばれる所以も理解出来る。


 しかし今回の遠征において同行する彼らに関して、ヒューバルトは何一つ語ろうとしなかった。

 自らもこの膝を着く男がF30と呼ばれる存在だと確認した訳ではない。


 だがそれでも女は確信を以て、目の前のこの男こそがそうなのだろうと肌で感じ取っていた。


 今まで見てきたどの式兵とも違う……いや、果たして"式兵"と呼べる存在……なのだろうか。

 そう緊張の面持ちを浮かべる女に一切の気を払う様子もなく、膝を着いた男は左手に持ったファイルを無言でヒューバルトへと差し出した。


「…………」

「御苦労」


 ファイルを受け取ると同時、そう言い放つ彼にマスクの式兵は音もなく立ち上がるとそのまま後方へと立去っていく。女は闇へ霧散するよう消えゆく気配に寒気を感じながらも、自らを落ち着かせるよう一息吐き出しヒューバルトへと向き直る。


「……それは?」


 ヒューバルトは暗闇の中、足元を照らす明かりにしゃがみ込みながらパラパラとその資料を眺めたまま、口を開く。


「お前も知っての通り、本来我々の管理下にあるべき式兵の一人を局長ヴィルドレッドは事もあろうに私物化している。 本部にも記録が残る、()()()()()()()()()()()()()……()

「……"彼女たち"の回収……それが今回の目的、という事は理解しております……が」


 姿勢を正し答える女に、ヒューバルトは目を細目口角を上げる。


「さて、その通りだが……事態はどうにもそれだけではないようだぞ? 13A.R.K.へ訪れたあのレジード大尉。 彼がアガルタとその市民に牙剥く"雑草"の連中と通じている可能性がある、と……本部直々の報告だ」

「……!」


 口元を歪めながらファイルに視線を落とす彼に、女は思わず目を大きく見開いた。


 レジード大尉……彼と直接の面識こそないが、アガルタでは遠巻きにその姿を見た。

 部下に慕われ裏表無さそうに笑う彼は、まさしくアガルタに……いや、人々に尽くす軍人といった様子の人物だった。その彼が野良、雑草呼ばれる者たちと繋がっている嫌疑を掛けられているなど……。女はヒューバルトの言葉に違和感を感じながらも、差し出したファイルを手に取り僅かな明かりを頼りに並ぶ文字を読み進める。


 調査報告書の様式は、間違いなくアガルタから発行されたものだ。A.R.K.で使用されている再生紙とは手触りもまるで違う。女は要点だけかいつまんで目を通すが、確かに上層部よりレジードに対し嫌疑が掛けられている事が見て取れる。


 そして、報告書の最後はこう締め括られていた。



『13A.R.K.へ出向したレジード・ゴードウィン現大尉が、何かしらの反逆行為を企んでいる可能性は否定出来ない』



「これ、は……?」

「改めて説明する必要もないとは思うが……過激派を謳い自らを雑草などと呼ぶ"首輪無し"連中の噂は聞いた事があるだろう? 各拠点間を結ぶ物資運搬車両への襲撃、物資の強奪……それらを鎮圧するのがレジード大尉の特務だったはずだが……さて、何か甘い蜜でも与えられたか。 この報告書によると、何とも恐ろしい一文が記されているな」


 ……レジード大尉は内地に精通している人物だ。各拠点を結ぶセーフティラインの整備やそれに関する護衛貢献などは記憶に新しい。その上でヤドリギ、加えて一般人からも認知があり、人気もあろう彼が……一体、何故?女は眉間を僅かにしかめるが、この調査書はアガルタの管轄において発行ものに間違いはない。


 女は複雑な表情を浮かべ、ファイルを握る手の力を強める。

 果たしてあのレジード大尉がA.R.K.に対し、危険をもたらすような行為を行うだろうか……わからない、わからない――が。今はこの報告書と、何より目の前の男の言葉に従うしか他は無い。


「だからこそ、お前を連れてきたのだ。 お前ならばこの二つの憂慮すべき状況に、真剣に向き合ってくれるだろう? 他の()よりも……だ」

「…………」

「もし事が起これば、我々はアガルタの名に置いてレジード大尉を拘束せねばならないだろう。 同僚としてこの上なく嘆かわしい事、だがな」


 言葉とは裏腹に、どこかそれを望んでいる――いや、予見しているような彼の声色に、女は瞳を静かに閉じる。


 その彼女の様子をヒューバルトは顔を覆った右手の平の隙間から伺っていた。強い戸惑いを感じさせながらも、それ以上言葉を吐くわけでもなく――無言で暗闇に佇む彼女に、ヒューバルトは右手で覆った口元を歪め静かに嗤うと、その手を口元へと添える。


 純種の顕現、そして予期せぬタタリギ、マシラの出現。


 それでも彼ら――いや、"R"……No,8はそれを乗り越え、そして今、さらなる奇跡を生んだ。あるいは、我々が長年望み続けていた成果足りえるかもしれない、()()()


 ヒューバルトは13A.R.K.へと振り向くと、満足そうに瞳を細める。


 この数ヶ月の間、アガルタの表層に腐った苔のようにへばりつく穏健派の連中への根回しは終えた。少しばかり派手に立ち回ったとしても、表層部の連中にはあの若造が良い盾と目くらましになる。


 No,8。D.E.E.D.検体として現状維持のままの回収……当初はどう穏便に連れ戻すか悩まされたものだが……。


 初の純種戦を終え、"死"を深過共鳴(レゾナンス)させてなお朽ち果てる事のなかった初の検体。思えばあの時、あれの回収に至れなかったのはまさしく運命だったのだろう。あのヴィルドレッドとの無線を通じた攻防が基点となり、結果Rを泳がせる事になったが……それこそが、D.E.E.D.(ディード)の研究シークエンスを優に十余年は跨がせたのだ。


 ――まさか、()()が本当に至るとはな。 あの女……どこまで正気か分かったものではないが、狂人(クロエ)の話も聞いてみるものだ。


 夜風に13A.R.K.を見つめる男の含み嗤いが微かに流れゆく。


 D.E.E.D.の完成……その真なる目的とは、単一個体による強戦力の獲得などではない。


 確かに"式神"としての戦闘能力は素晴らしい――が、力を行使する都度ヒトとタタリギの優位性が逆転していくその様は、欠陥品のそれでしかない。あのRこそ不可解なまでに特別だが……ある者は一度戦うだけで。ある者は深過共鳴を行っただけで、灰と霧散していった。


 そんな不安定な存在が、人類の切り札であろうはずがない。よしんば大量生産出来たとしても戦線への投入はあらゆる意味で困難だろう。あれらは、紛い也にもヒトの形をしている……となれば、扱いにも困るというものだ。


 しかし、No,8……。


 今やあの個体は、数値だけで見るならばヒトの姿を保てる限界を超えた深過を遂げている。

 一体何があれを繋ぎ止めているのか。それも知りたいところではあるが、どちらにせよ残された時間は少ないだろう。体内に宿すタタリギが暴走し、一帯を飲み込む黒い樹と果てるか……または、負荷に耐え切れず塵に還るか……そうなれば、再び実験は振り出しに戻る……それだけは、避けねばならない。


 アガルタでの数え切れぬ実験の果て――どれだけの屍を積み上げても、どれだけタタリギの灰を積み上げても、あれには届かなかった。今やあれと、あの男の存在は我々にとってかけがえのない希望そのものなのだ。


 タタリギの出現、そして淘汰された人類は討つべく存在をも糧に、A.M.R.T.を得て抗う術を手に入れた。

 ……だがまだ"完全"ではない。ヤドリギとは、ヒトでもなければタタリギでもない、おぞましい失敗作なのだ。


 ――式神。


 一般的には周知されていないが……タタリギという存在は、単なる個の生命体ではない。

 単一別個に見える個体は全て、繋がっているのだ。物理的な繋がりも、言葉すら必要とせずその意識下で存在を共有している。それら不可視の共有感覚を利用したのが、共鳴現象だ。タタリギに意図的にアクセスする事で、同一存在だと誤認させ、死をも共有させる。


 胎児期よりタタリギと融合せしめたD.E.E.D.検体は、その共鳴現象を行使出来る……が、タタリギを有しているとはいえ末端も末端……それは小さなまがい物に過ぎない。共鳴出来る死の容量など、式神一体で精々相対したタタリギいち個体を滅する事が関の山だ。


 そう……最初から式神という存在は、対タタリギの切り札などではない。

 あくまでそれは副次的、表向きの能力。D.E.E.D.計画本来の目的は……。


 その時ふと、ヒューバルトの脳裏に一人の女が叫ぶ姿が浮かぶ。


『これが、このありさまが、タタリギに打ち克つために必要な事だとでも言うのか?! 私はお前たちを認めない……認めないぞ、ヒューバルト。 神に背く事もしよう、地獄に堕ちる事もしよう……だがそれは人の為なればだッ! お前たちの欲望の為ではないッ!!』


 ……そう言って焼け死んだ女の名は、なんと言ったか。


 あの女が生み出したA.M.R.T.(アムリタ)から至る全ては、クロエの手を経て今――実を結ぼうとしている。

 A.M.R.T.を越える、S.O.M.A.(ソーマ)と名打つに相応しい全てを凌駕する答えとして。


 そうだ……ヒトは求めねばならない。

 この無慈悲な世界においてこそ、この世の何者にも、全ての困難にも、神ですら侵すことの出来ない次元へと到達せねばならないのだ。


 ……その光明が、あの場所で待っている。



 ――斑鳩……斑鳩。 お前こそ我々が焦がれ求め続けてきた一つの成果だ……。



 その成果の為ならば。大義の為ならば……これから起こる悲劇など、取るに足らない些事に過ぎない。

 あれと斑鳩の回収さえ成れば、あとはどうとでもなる……。


「……この光景も見納めだ」


 ヒューバルトは遠く見える13A.R.K.の明かりに小さく呟くと、目を細める。


 回収と同時に、13A.R.K.には少々大人しくしておいて貰わねばならない。

 A.R.K.はA.R.K.、本来の役割に徹して貰う必要がある。人類を守る為、最前線をタタリギの侵攻から守るという、本来の目的に……だ。どちらにせよこちらに目を向ける余裕など、今夜を境にそれも無くなることだろう。


 しかしアガルタの上っ面からの評価が高いヴィルドレッドの処遇は迷うところだが……今夜起こる不慮の危機に対しての責任追及を口実につつけば、どうとでもなる。その後釜には、後ろに控えるこの女を使ってもいい……澄ましたあの小僧の顔が苦悶に歪む様を見れるならば、それは何より面白い。


 そしてアガルタの虚栄にへばりつき、小煩い理想を掲げるあのレジードも……。


「大尉。 いかがなされましたか。 急に……押し黙られて」

「……気にするな。 なあに、良い夜だと思ってな……本当に、良い、夜だ」


 一歩一歩、前へと踏み出す靴音と言葉。

 ヒューバルトは黒ぶち眼鏡を正しながら女の傍へとゆっくりと歩を進める。


「レジード大尉がもし報告通りの危険な思想の持主であるならば……我々はそれを見極める必要がある。 動くのはそれからだ……――それに」

「…………」


 女の目の前、踵を鳴らし足を止めたヒューバルトは、彼女のあごを右手人差し指で僅かに上へと跳ね上げる。暗闇にも慣れてきたか、無表情のままこちらを見据える瞳にヒューバルトは、にい、と口許を歪めた。


「深過の疑いがあるままの式兵について、もう少しお前にも聞きたい事がある。 しかし思い違いして欲しくないのだが……俺とて双方、手荒に扱うつもりなどない。 出立前に伝えただろう? あの壁の内側で放し飼いとなっているRと斑鳩……あの二人を確保出来ねば、どちらにせよ13A.R.K.に()()()()()……それがどういう意味か、聡明なお前ならもう理解しているな?」


 言うと彼は、ぴ、と彼女の顎を僅かに弾く。

 そしてヒューバルトは改めて眼鏡越しのどす黒い視線をゆっくりと――背後の13A.R.K.へ向け、振り返る。




「なあ、ミルワード……いや、ラティーシャ? 精々お前が良い部下である事を祈るぞ……他の誰の為でもない、彼らの為に……な」



「…………」


挿絵(By みてみん)


 ヒューバルトの背にゆっくりと瞳を閉じると。


 女――ミルワード・ラティーシャはヒューバルトの言葉に、吹き荒ぶ風に舞う紅い髪をそのまま……後ろ手に隠した拳を強く、強く握り締めるのだった。







……――次話へと続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ