第10話 Y028部隊 (7) Part-1
斑鳩を呼び出した無線の相手、それは思いもよらぬ人物。
壊滅した元Y035部隊の生き残りの一人である式梟――あの重症からまさかの復帰を遂げた、クリフ・リーランドであった。
彼はY028部隊を戦車隊着任の歓迎会へと誘う。
会場となる大食堂の片隅で、皆は久方ぶりに再会を果たす。
――日が落ちた13A.R.K.。
その兵舎内にある、式兵や職員たちが利用する大食堂。
夜半ともなれば数人の物好きな式兵たちが残り、食事や酒と、ひと時の休息や談話に花を咲かせるに留まる程度の閑散とする時間だが……この日は様子が違った。見慣れぬ制服に身を包む者たちにあふれ、机の上にはささやかながら普段提供されているものより幾分豪奢な食事が並ぶ。
催されているのは、アガルタより訪れた戦車部隊と正規式兵の着任を祝す歓迎会。
もちろん全ての式兵たちが参加しているわけではない。ある者は警戒任務の交代時間を利用して、ある者は職務を終え、帰宅までのわずかな時間に。正規式兵たちも訪れたのは全員ではない。すでに東西南北の大門に配備された戦車に座し、ここには顔を見せていないものもいる。
だがそれでも最前線である13A.R.K.にアガルタの式兵と交流する機会は稀少である。
手の開いた者からまたとない交流と参加し、料理をつまみながら久々に内地を知る者たちとの会話に精を出す。自分の故郷のA.R.K.の近況を聞きながら頷く者、戦闘様式についての語らいに熱く意見を交わす者、さまざまだ。
――そんな今まで体感したことのないある種の喧噪の中、Y028部隊は食堂の端の丸机に集まっていた。
そして、そこに加わっていたのは……用意された食堂の椅子ではなく、車椅子に座る、一人の男。
「……具合はいいのか、クリフ」
言いながら斑鳩は彼の前に空いたグラスに、アダプター1より持ち帰った万能ナッツの醸造酒を、底が隠れる程度に薄く注ぐ。
彼は頷き車椅子からやや身体を浮かすと、テーブルの中央に置かれたポットを手にとり琥珀色のグラス底へと自らの水を注ぎ入れる。つう、と注がれる水と斑鳩が注いだ僅かな醸造酒が混ざり合い、辺りへほのかに甘い香りを漂わせた。
「お陰様でね。 半月ほど前からの車椅子生活にも慣れたところだ」
ポットを静かにテーブルに置くと彼は静かに右手を伸ばし、グラスを手に取る。
クリフ・リーランド。
元Y035部隊――回収班付きの護衛隊に所属していた男。先のアダプター1で斑鳩たちが退けた戦車に寄生を果たした乙型壱種により、彼を残し部隊は全滅……そして唯一生き残った彼もまた、無事ではなかった。
ローレッタは車椅子の背もたれにぎしり、と身体を預けながらグラスを傾けるクリフの姿に改めて目を細める。
だらりと垂らされたままの左腕。ゆったりとしたズボンに隠れてはいるが、その右足の裾から覗く金属の支柱は、それが義足である事を語っている。そして失った左目を大きく隠す、眼帯。
乙型による突進と砲撃で潰された装甲車の中で、彼は左目を、左腕を、そして右足を失う瀕死の重傷を負いながらも生還を果たした。だが、彼は再び式梟として戦う事をその身で選んでいた。
作戦指令室に新たに設置された式梟用のコンソール。戦車部隊配属の折、13A.R.K.内に飛ばす無線中継用の木兎を扱う式梟としてクリフは自ら志願し、そして認められ、その椅子に座っていた。昼間、任務が明けた斑鳩への直通通信は、そこから送られたものだったのだ。
「それにしても驚いたぜ。 指令室付きの梟がまさかあんただったとはな、クリフ」
「礼を言わせてくれ、ギルバート、それに斑鳩隊長。 ……あの日、二人があの装甲車から俺を引き摺りだしてくれたお陰さ」
ギルバートの正面に座るギルの言葉に、クリフは身体を傾け頭を下げる。
「よせよ。 俺ぁ深過してるモンだと思って撃牙も装填してたんだぜ。 なあ、イカルガ」
「ああ。 あの傷で深過せずこうして再び式兵として復帰したのは……クリフ。 ただただ、お前の強さ以外にないさ」
やれやれ、といった表情で首を横に振る二人に、クリフは少し笑うと再びグラスを傾ける。
そんな彼を見つめたまま、ローレッタはいつになく真剣な眼差しを彼に向ける。
「……それで、クリフ。 本当に式梟として……戦える、の?」
「…………」
様々な意図が宿った彼女の言葉にクリフは静かにグラスをテーブルに置くと、僅かに身体を捩らせながら右手で左手首を掴み、テーブルの上に置いてみせる。そしてすぐにその左手の指を、キーボードを打つ様を真似るよう、軽やかにテーブルを軽快に弾いてみせた。
「左腕を上げるのは難儀はするが、コンソールの上に載せてしまえば問題ない。 それに右手は無事だ……木兎一機程度を操作するには、今は差支えはないつもりだぜ」
じい、とその様をどこか鬼気迫る表情で見詰めるローレッタを、詩絵莉とアールは互いに目を見合す。
「――目は? 追えるの? 片目で」
「……こればかりは信じて貰えないかもしれない……が、何故かな。 自分でも驚くほど動体視力が上がっている。 あれなら教授が出した診断書を見てもらってもいい。 パーソナルデータは個人に向け公開しないものだが、あんたらになら見て貰っても構わない」
自信満々に頷くクリフに、ローレッタは僅かに眉をひそめる。
教授や司令代行が、伊達や酔狂でこの状態の彼を指令室のコンソールに座らせるとは到底思えない。特に司令代行……あのキースは、こういう面では完全に実力主義を貫くだろう。彼――クリフが、そこに座るに足る式梟だと認めたからに違いない。
「ま、こればっかりはあたしたちが疑ってもしょうがないわよ、ロール。 あの代行が彼を採用したって話なんでしょ? ――なら十分、証明されているわ」
「……うん。 いや、その、違うよ?! 疑ってるとかじゃあなくて……あー、もー!」
アールは頭を抱えるローレッタの背中を優しく撫でる。
彼女が言いたい事は何となく伝わってくる。式梟という兵種の特異さ……式狼や式隼に比べ身体能力が必要とされないと勘違いされがちの式梟だが、その実コンソールの前では脳だけでなく目も、腕も、指も、足も。五体全てを駆使していると言っても過言ではない。
2ヶ月前、アダプター1で僅かな時間だが式梟としてマルセルたちと時間を共にしたアールにも、それは十分に理解出来ていた。普通ならばこの状態の彼に、いかに戦闘観測用ではないとはいえ木兎を任せたりはしないだろう。だが、彼は事実――木兎を飛ばし、戦車隊を繋ぐ通信機体としての中継をつつがなくこなしてみせた。
……それでも、疑問は残る。
ローレッタは両手で机に肘をつき、手の平でむぎゅうと頬を支えながらクリフに視線を向ける。
複雑な情報が多量に表示されるあのコンソールを、彼のような――悪く言えば平々凡々の成績であった式梟が片目で追えるものだろうか、と。
「…………」
――まさか、"深過"の影響……?
同時にローレッタと同じ思考を巡らせていたアールもまた、クリフに残された右目をじっと見つめていた。
瀕死に追い込まれたヤドリギの体中に宿るA.M.R.T.が変質し、その身体を、性質を、急速にタタリギへと寄せ、堕としていく。だが重症にも関わらず、彼には運よくその症状が現れなかった。もちろん、全てのヤドリギが瀕死の重傷を負ったからといって等しく深過するとは限らない、が。
一度死の淵へと足を掛けた彼のA.M.R.T.が変化し、なんらかの作用をその瞳に与えた……という可能性は、無いとは言い切れない。
「……アール、久しぶりだ。 お前の問い掛けのお陰であの時、俺は自分に託された遺志を確認する事が出来た……"何故ああなるまで戦えたのか"、という問いだ。 ……覚えているかい」
「……覚えてる」
視線に気付きこちらへと振り返りそう言う彼に、アールは正面からその右目を見つめながらゆっくりと頷く。
目深に被ったフードからの覗く紅い瞳に、クリフの背に冷たい感覚が奔る。
以前、あの病室で見た彼女とはまるで別物に感じられるその視線。Y028部隊の活躍は、峰雲からリハビリのたびに聞いてはいた。だとしても、ほんの数か月でこれほどまでに変わるものなのか。
無垢と感じたあの紅い瞳は今……深く、深く。
あらゆる感情を孕んだような……それでいて静かな迫力を纏っているようにクリフには感じられた。
「クリフ。 あのとき教えてくれたこと。 ……いろんなことがあったけど、今は……その意味が前よりもずっと、わかった気がする」
「……そう、か」
クリフはごくりと唾を飲み込むと、改めてY028部隊の面々に視線を巡らせる。
以前乙型を退けた時の彼にすら、ある種凄みのようなものを感じていた。だが、今ひしひしと感じられるこの圧力はなんだろうか。
「ここにいる皆が何を超えてきたのか。 大まかな経緯は峰雲教授から聞いてはいるが……きっと、それだけじゃあないんだろうな」
――当然、彼は知らない。
戦果のみは教授から伝え聞いているのだろう。しかし式神、D.E.E.D.といった情報は、依然その一切がこの13A.R.K.内でも秘匿とされている。
だが指令室付きの式梟として今後あの場所に常駐するのならば、いずれ彼も知ることになるだろう。
それでも局長や指令代行が彼に伝えていない以上、部隊に何があったのか――彼に説明する訳にもいかない。そう悩む一同に、クリフはふっと笑みを浮かべると小さくその首を横に振った。
「気にしないでくれ、別に詮索しようって訳じゃあない。 だが何かあったと勘ぐるのは許してくれよ。 そもそもY028部隊の戦闘ログの詳細は閲覧が禁止されているんだぜ。 他部隊のログを確認しようとうする物好きも、まあそうそう居ないからか騒ぎにはなっていないようだが。 かくいう俺も、ベッドの上での退屈な生活が無ければ知らなかった事だ」
他部隊の戦闘ログ……。
言いながら笑う彼の言葉に、ローレッタは僅かに眉をひそめる。
確かに、そもそもログの提出先は局長と司令代行充て。そしてその上――アガルタへと提出するものだ。
だが式兵であるならば、申請し許可が下りれば誰でも閲覧が可能なものでもある。ローレッタ自身も以前、A.R.K.に長く滞在する際は他部隊のログに目を通していた。戦闘規模、展開された戦術、使用された備品、そして式兵すべてが装着する首輪をビーコンとした各式兵の動線。
元来そういった学習が好きな彼女にとって、それらは式梟としての知識と経験を得る絶好のチャンスでもあった。
しかし反して、それらから学ぼうとする式梟は少ない。自らの部隊と整合性が取れていれば必須、といえるものではないからだ。思えば斑鳩たちと組む以前所属していた部隊では皆の顔色を伺い、声を張る事もなかった。だがその代わりに"部隊の式兵たち"のどんな動きにも対応出来る知識こそが必要だった――だからこそ、学び得た知識だったのかもしれない。
だからこそ思う……ローレッタが知る目の前のクリフの成績は、世辞にも"抜けた"式梟ではない。
しかしあの事件の後――彼もまた、再起に向けて多大な努力を積んだに違いない。仲間を失い、自らの身体も心も傷付きながら、それでも彼は再起を果たすため、知識や経験をログを追う事で得ようとした。その事を思うと、ローレッタは心より彼に同じ式梟として強い尊敬の念を抱く。
――クリフ。 貴方はやっぱり……強い。 あの時も……首輪の起動、仲間の最期を選べた。 本当に……凄いよ。
やや肩を竦め斑鳩に向き直るクリフに、彼はゆっくり頷いて見せる。
「察しの通り、と今は言っておく。 もっとも、どこから話したものか……許可があったとしても悩むところだが」
斑鳩はそう言いながら醸造酒の入ったボトルの口をクリフへと向ける。
出撃を控えた――または任務を控えた式兵たちに好まれる、ごくごく薄い水割り、リカー・ロウ。香りだけを楽しみ、景気付けとする13A.R.K.ならではの飲み方。酔う程の度数ではないそれだが、彼はグラスを持ったままボトルの口を制した。
「この後も指令室のコンソールに戻るつもりなんだ、このくらいにしておく。 それでも、久々に酒の香りを楽しめた……いつ以来かな、ここで酒を口にしたのは」
少し寂しそうに残された右目を細めるクリフ。
尊敬する上司でもあったY035部隊長、ドーヴィン。今は喧噪に包まれるこの食堂は、彼と任務開けに飲み交わした場所でもある。
「……あんたは立派よ、クリフ。 部隊長の遺志を立派に継いでいる――なんて、わかったような口を利くつもりはないケド。 それでも局長や代行に認められてるのは間違いないわ。 あの時も言ったケド……あんたは立派に、今こそY035部隊を守ってる」
広間を振り返る彼の横顔にそう言い放つと、詩絵莉はぎしり、と椅子の背もたれに身体を預ける。
「式梟の余剰人員は少ない、だからこそ俺に白羽の矢が立った……と言いたいところだが、そんな事でじゃあ部隊長にまた背中をど突かれてしまう。 ……今は、隊長の言葉通り。 どんな戦いにも差はない、そう思って全力を尽くすつもりだ」
こちらへと向き直り力強く頷く彼に、斑鳩は腕組みを解くと彼に向けてその右手を差し出す。
「戦車部隊の配属、その連携を担う今後のA.R.K.にとってまさしく重要な役割だ。 ドーヴィン隊長の言葉を借りるが……どんな戦いにも差などないと、俺も思う。 いや、ここにいる皆がその事を理解しているはずだ。 責務は重いと思うが……守りは頼むぞ、クリフ」
「ああ。 任せてくれ、斑鳩……と、大見得を切ったてみたくもなるが、あんたらの働きに対して胸を張れるほどの事は、まだ出来ていないけどな」
そう言って少し情けなく笑ってみせる彼は、紛れもない素の姿なのだろう。
彼の笑顔につられ、皆にも笑顔が浮かぶ。失いながらも、それでも前へと進む彼はY028部隊の皆にとっても眩しくあり、ヤドリギとしての矜持を見た――そんな気がしていた。
「つれない事を言いますね、クリフ。 これから僕ら戦車隊を繋ぐために活躍してくれるんでしょう?」
「!」
背後からの唐突な声に、クリフは身を捩って振り返る。
するとそこには、あの戦車隊の制服に身を包んだセヴリンと、少し疲れが見えるものの笑顔を浮かべるフリッツ――そして、見慣れないアガルタ式制服に身を包んだ式兵と思しき二人の男女が、喧噪を掻き分け現れる。
「――セヴリン! なんだ、聞いていたのか? 立ち聞きとは趣味が悪いな」
「ふふ、聞こえただけ、ですよ。 斑鳩隊長、それに皆さんもおそろいで」
小さく会釈をする横から、フリッツは斑鳩へとファイルを手渡す。
「隊長、例の独自兵装の報告書は提出してきたよ。 同時に整備手続きも彼の……セヴリンさんのお陰もあって滞りなく受理してもらった。 これで今まで以上に予備パーツや整備機材を回して貰えそうだ。 あ、これはその受領書ね」
そのファイルを何度か頷きながら目を通すと、斑鳩はフリッツに頭を下げる。
「雑用を押し付けるような真似をしてすまなかった、フリッツ。 確かに、確認したよ」
「なあに、この程度お安い五……ご用さ! むしろこれこそ僕の領分だ、気にしないでくれ」
胸を張りながらそう答えるフリッツに、詩絵莉は壁に立て掛けてあった折り畳み式の椅子を手渡しながら「色々助かってるわ、フリッツ」と笑顔で労う。
「それにしても、フリッツとセヴリンに交流があったとは知らなかったわ。 セヴリン、手伝ってくれてありがとう、あんたも忙しいでしょうに」
「いや、彼とは初対面ですよ」
セヴリンはそう言いながら詩絵莉から渡された椅子を手に、フリッツと頷き合う。
ローレッタは「そうなの?」と意外そうに目を丸くすると、座ったまま二人の顔を交互に見上げる。
「整備士として、彼とは一度話をしてみたかったのもありました。 僕もひと時とは言え、あなた方の担当だった……当時の整備・調整を記した資料も引き継いでおきたかったですし」
「そうなんだよ、凄く助かる資料だった! 隊長とギルの撃牙の調整差異に加えて、詩絵莉のマスケットの調整に日夜格闘した涙が滲む履歴……どれもデータとして貴重でね! 今後の調整方針に、大いに手助けになるよ!」
「涙が滲むぅ……?!」
「あっ、ああ……いや、あはは、あはは……」
詰め寄る詩絵莉に、思わず口走ってしまったとばかりに口を覆うクリフはセヴリンと顔を見合わせて互いにひきつった笑顔で誤魔化すように笑う。
けれど詩絵莉はその二人――いや、フリッツの姿に、ふっと笑みを一瞬浮かべた。
あの暗い地下室で一人閉じこもっていた姿は、様々な過酷な状況にも音を上げず、そして遊撃部隊として各地を奔走した2ヶ月の間危険を顧みず部隊に同行し、兵装の整備だけに留まらず生活面や精神面において、様々な意味で皆を助けてくれた。
その彼がこうして他の整備士と意気投合している。数か月前の彼からは想像が出来ない姿だ。
それは素直に、詩絵莉だけでなく他の皆にも喜ばしく思える事だった。
「無理ねーよ、シエリの銃はかなりピーキーな調整らしいじゃねーか? 本人に似て扱い辛……いッてぇ!!」
腕組みしたまま、目を閉じ笑いながら言葉を挟むギルの頭を、詩絵莉はアールから手渡された丸いお盆で容赦なく一撃を見舞う。頭部を打つスコーン、と鳴った軽快な音に、ギルはたまらずテーブルに伏せ頭を抱える。
「なーいす、アール」
「ん」
満足そうにフードを揺らし頷くアールに、斑鳩とローレッタは思わず吹き出す。
「アルちゃん、シェリーちゃんともすっかり息ぴったりだね!」
「まかせて。 ……2ヶ月間の、これが成果」
言いながら拳を合わせるアールと詩絵莉。
彼女の言葉とその光景に笑う皆を一歩離れた場所から見つめる二人の正規式兵に、セヴリンは振り返ると慌てて「ごめんなさい!」と頭を下げる。
「すみません、お二人のご紹介も前なのに……」
「いや……気にしないで下さい。 なんというか……うーむ。 Y028部隊の噂は聞いてはいましたが、まさかこんな感じの方々とは思ってもみなかったので……」
「シール、まさかこんな、って言い方は失礼でしょーが! ……あ、皆さん誤解しないでください、彼、悪気があるわけじゃーないんです」
未だ少し驚いたような表情を浮かべるのは、シールと呼ばれた男性の式兵。
年の頃はマルセルと同じ三十手前ほどだろうか。がっしりとした筋肉質な体つきに、高い身長。7:3に分けた黒髪がよく似合っている。
一方、ぱたぱたと両手をせわしなく振って見せるのは女性の式兵の方だ。こちらは斑鳩たちと同年代といったところか。赤毛に近い明るい頭髪を短く結ったポニーテールと、意志の強そうな大きな瞳が魅力的に映る。
「意外だったでしょう? Y028部隊の雰囲気は他の部隊とはちょっと違うんです。 あ、もちろん良い意味で、ですよ!」
彼らと斑鳩の間に立つセヴリンがうんうんと頷く様子に、シールは「ふうむ」とあごを撫でる。
「レジード大尉からも聞かされていましたが、良い部隊なんでしょうな……見ていればわかります。 なあ、リケルト」
「リッケルトです。 ……こほん。 ご挨拶が遅れました、斑鳩隊長。 私、西方大門を担当するNTK七型戦車の砲手を担当する式隼、リッケルト・クランスタと申します。 隣の大きいのが操縦を担当する式梟、シール・ランディッシュ・フォード。 以後、お見知りおきくださいな」
呼ばれた名を訂正した後、咳払い一つと背筋をピンと伸ばし、右手を差し出すリッケルトに、シールが続く。斑鳩は二人が差し出す手をそれぞれ握り返した。
「Y028部隊の斑鳩 暁だ。 ご存知の通り、部隊の長を預かっている。 セヴリン、この二人が?」
握手を終えテーブルに座る皆ともそれぞれ会釈を交わし、短い自己紹介を受けるシールとリッケルトに頷きながら、セヴリンは斑鳩へと向き直る。
「ええ、僕と戦車へと同乗して頂くアガルタ正規式兵のお二人です。 早速基本的な戦車内での仕事を教えて頂きまして。 ひと段落したところ、フリッツさんと合流しここへ」
「……そうか、早速もう動き出してんだなぁ。 まあ、立ち話もなんだろ? 座って飯でも囲もうぜ! 色々話も聞かせて欲しいしよ」
言いながら椅子を用意し始めるギルに、リッケルトはシールと顔を見合わせる。
少しだけ悩む様子を見せたが、彼女は「折角なので、少しだけ」と頷くと、彼から手渡された椅子を開き、テーブルの前に座った。
「まずは歓迎させて貰いたい。 あなた方とひと時とは言え行動を共にする彼……セヴリンとは俺たちとも付き合いが長い。 無知を披露するようで恐縮だが、その彼が搭乗する戦車の事――良ければ、色々話を伺わせて貰っても?」
「……俺からも是非お願いしたい」
真剣な眼差しを向ける斑鳩にクリフも車椅子を器用に彼らへ向けて反転させると、身を乗り出す。
「今後、このA.R.K.の戦車隊の中継を預かる身として是非、俺も話を聞かせて欲しい。 明日改めて指導の場があるとは聞いているが……こうして直に正規式兵の話が聞ける機会は、逃したくない」
リッケルトはきょとん、とした表情を浮かべ隣に座るシールを見上げる。
真後ろ、戦車護衛隊の正規式兵と13A.R.K.の所属員が談笑に華を咲かせる中、彼らの目線は一味違う。てっきり、アガルタや内地の話をするものとばかり思っていた彼女に、シールは静かに頷く。
「……コホン。 さて、この後予定もあるのであまり多くは時間を取れませんが、それでもよければ――と、その前に」
彼女は言いながら隣に窮屈そうに座るシールと共に、ギルが目の前に置いたグラスを左手に取ると、目線の高さまでゆっくりとそれを掲げ皆を見渡すと、ふ、と笑みを浮かべる。
「まずは正規式兵の流儀に沿って。 ……出会いを祝して乾杯でも?」
……――第10話 Y028部隊 (7) Part-2 へと続く。




