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第9話 体操服は紺色ブルマ

「おはよう奏ちゃん」

「おはよう……」

 もうというべきか、まだというべきか女子高生生活も3日目。ピンクの可愛いパジャマ姿の奏多が起きてくる。ちなみに、花音はいつもの如くまだ寝ている。

 冷たい水で目を覚ました後に花音を起こすのはいつもの日常。

 部屋に戻ってパジャマを脱ぐと、そこには下着姿の少女の姿があった。

「すっかり忘れてた……」

 寝ぼけてたのか奏多は自分の姿に一瞬混乱してしまった。が、すぐに昨日の出来事を思い出した。その姿でいるのも恥ずかしいので、さっさと学校の制服に着替える事にした。

 手慣れたように女子制服姿が完成した。そもそも、恥ずかしいから着替えても結局は女の子の服なので意味はないのだった。

 朝食を済ませ学校へ向かう奏多と花音。

「あのさぁ花音……」

「なにお兄ちゃん?」

「なんかその、すごく落ち着かないんだけど……」

「何が?」

「その…………し、下着が」

 昨日までは女装姿とはいえ下着は全部男物を着ていたのだが、今日からは下着も女物を着て登校している。

 布面積の問題もあってトランクスよりショーツの方がよりスースーするのもあるが、なによりも唯一「男」としての存在であったものが何も無くなってしまった事が大きい。

 女装しているとはいえ下着が男物である限りはまだ逃げ場があるようで、心のどこかで自分は男だと納得出来る所があるのだが、頭から足下まで今の奏多は全て女物。つまり、外を歩いている今の自分が「男」だと主張出来る所が何もない不安さがあった。

 今までは補助輪を付けていた自転車だったのが、補助輪を外されてしまった時の感覚とも言えるだろうか、なにより不安しかなくなる。助け船が何もない状態だった。

「女の子はみんなそうなんだから、気にしなくてもいいでしょ」

「僕、男なんだけど」

「全然そう見えないよ?」

「うぐ……」

 誰が見ても双子姉妹に見える二人。スカートに注意しながら学校へ向かう奏多。電車では自然に足を揃えて座るようになったし、階段では後ろを気にしながら登るようになった。そのせいか、見た目だけでなく仕草までだんだんと女の子っぽくなってきているが、その事にまだ本人は気がついていなかった。


 午前中の授業は最初という事もあって、先生の紹介と毎回の自己紹介。さすがにどれもこれも未体験な事ばかりなので気分的に新鮮であった。

 そして迎えた午後、体育の時間。

 男子更衣室は何かの準備室だったのか、こじんまりとした部屋があてがわれていた。奏多、凜、そして啓太の3人は体操服の入った袋を持ってその中にいた。

 現実逃避するために今の今まで試着すらした事ないし、出来れば着る事を避けたい、むしろ女装難易度が一気に上昇する。

 ブルマ。

 それはかつて女子生徒の体操服の王道として、女の子であればほぼ全員が着ていたものだったが、今の時代になってもうそれを見かける事はなくなった。そんな過去の遺物ともいえるブルマが残るアンジェリカ学園。そして、それを着て体育を受けるという恥辱を受ける男子生徒三人。

「あれ、どうしたの二人とも着替えないの?」

 すでに制服を脱ぎながら不思議そうにしている凜。訂正、恥辱を受ける男子はあくまで二人だった。

 凜がブラウスを脱ぐと当然のようにそこにはブラがあった。

「おい、ちょっと待て、お前下着までそんなのつけてんのかっ」

 驚きの声をあげる有栖川啓太。

 その大きな声にびっくりした凜は、思わず後ろずさりしてしまった。

「凜、あぶないっ」

「うわぁぁぁ」

 奏多はそのまま後ろ向きに倒れそうになっている凜を助けようと、とっさに手を伸ばしたが一瞬遅かった。二人ともそのまま倒れ込んでしまった。

「……あいててて」

「おい、大丈夫か二人とも……って、お前もかよっ!」

「え、何が……」

 凜の上に覆い被さるように倒れた奏多は、お尻を啓太の方に向けて倒れていた。後ろを振り返った奏多は、啓太の視線に気がついた。それはスカートの中。

「え、あ、ちょ、み、みないでぇ……」

 男同士とはいえパンツを見られ、咄嗟にスカートで隠す。女の子がパンツを見られて恥ずかしいってこういう事なのか。いや、むしろ男だから恥ずかしいのか。

「お前ら正気かよ……。入学式の時から思ってたんだが、その格好はもしかして好きでやってるのか? 俺はばあさんの無茶苦茶な言い付けでこうなったのによ、くっそふざけんなって言うんだよ。自分の作った学校に行かせたいからって普通孫にこんな事するかよ? まぁそれで、一応男が3人いるって聞いたもんだから少しは期待してたんだけどよ、蓋を開けたらこれだよ。マジで意味がわかんねぇよ。ほとんど女と変わらねぇしよ、結局男は俺だけじゃねーか」

 有栖川啓太とまともに話すのはこれが初めてだった。無口だと思ったけど、結構饒舌に喋る。

「いやぁ、僕も男なんだけどぉ……」

「凜も男の子だよ?」

 全く説得力のない台詞。

「僕だって嫌々この格好してるんだよ、有栖川君と同じだよ」

「凜はこの制服可愛くて好き♪」

 ウィッグやメイクまで可愛くコーディネートし、さらに一人は思いっきり肯定までしてますます説得力はない。

「そっちのはともかく、お前は嫌って割にすげぇ女になってるじゃねーかよ?」

 啓太は奏多の方だけに噛みついてきた。

「これは、その……中途半端に女の子の制服着てると恥ずかしいから、外歩いても恥ずかしくないようにウィッグ被ったりしてるだけだし……」

「ほほう……」

「男だとバレなければ恥ずかしくないかなーって、あははっ」

 床で女の子座りをしながら可愛いポーズの奏多。一方、誰がどうみても男以外の何にも見えない啓太。

「有栖川君も恥ずかしいなら、反対の発想で女の子みたいにすれば……」

 何度も言うが、有栖川啓太はどうみても男だ。

 頑張って女装させたとしても、それは女の子の服を着たガタイの良い男だ。

「おうおう、俺に更に女装しろと、そう言うんだな……?」

「ひぃぃぃぃ」

「男ならもっと男らしく振る舞えよ、このカマ野郎がよ!」

「か、カマ野郎って……僕は全然そんな事ないし酷いよ、うっうっ」

「……くっ、こいつ」

 女の子座りして瞳を潤わせながら、上目遣いで泣きそうな顔になっている奏多を見て、啓太は少し怯んでしまった。本当に女の子に泣かれそうになっているようで、どうしていいかわからないのだった。

「ねぇ、二人とも早く着替えないと授業始まっちゃうよ~」

「あ、うん……って!」

 そこにはもう着替え終わった凜が立っていた。袖と首回りがエンジ色の半袖体操服に紺色のブルマ。上着はブルマの外に軽く出していた。その姿は想像以上に可愛いと同時に、制服女装とは全然違うその格好にドキドキしていた。

「どうしたの奏多君?」

「あ、いや、あまりに似合ってたから……」

「ホントに! 凜、ブルマ始めて穿いたから褒められると嬉しいな~」

 喜び勇みながらクルっと後ろを向くと、ブルマに包まれたお尻はその丸さが強調されておりさらに女の子的なルックスを強調しているのだった。

 さっきまで奏多と言い合っていた啓太も、同じ男子生徒とは思えない結城凜を見て言葉を失っていた。

「奏多君も早く~」

「あ、うん……」

 ブルマ姿になっても女の子に見える凜に急かされるまま、奏多はまず上着を取る。

「とりあえず上は大丈夫として」

 ブレザーとカーデを脱ぎ、次にブラウスのボタンを外す。

 ブラウスを脱ぐとおろしたてのブラジャー姿になった。

あまりブラ姿で長くいたくなかったので、ブラウスを脱いですぐに上着を被る。

「さて、次は……」

 ブルマを手に取りしばし躊躇。

「このタグが付いてる方が前、だよね」

 とりあえず前と後ろを確かめる。

(見た感じパンツだよなぁ……。

 スカートを穿いたままブルマを穿けばいいのかなぁ?)

 奏多は思い切って、そのブルマに足を通した。

 またひとつ、男を失った。

 両足にブルマを通すと、スカートのまますーっと上まで上げた。

 パンツの上に重ね履きしてるみたいでヘンな感じがした。

 ブルマを上げただけでは気持ち悪いので、指を使ってくいくいっとパンツに合わせて位置を直していく。

(女の子がよくブルマを直す仕草をしてたのはこのせいか……)

 ひょんな事から謎が解けた。

 ぱちん。

 最後にお尻の位置を直した。

「ああ、遂にブルマを穿いてしまった……」

 スカートが邪魔をしてまだ自分で自分のブルマ姿は見えてないが、禁断の地に踏み込んだようだった。

 最後に、覚悟を決めてスカートを脱ぐ。

 紺色のブルマを穿いた自分の姿が露わになった。

「こ、これは恥ずかしすぎる……」

 鏡に映ったブルマ姿の自分を見る。

 女の子が穿くのとは違って、ブルマの前の方が微妙に目立ってしまうのが、更に恥ずかしさを倍増させていた。

 ちらりと凜の方を見る。

「奏多君、可愛いよ!」

 待ってましたとばかりにはしゃいでいた。

 女の子にしか見えない凜のブルマも、良く見るとやっぱり男の子だった。気にしてみないと気がつかないかもしれないけど、確かに凜も男の子。

「やっぱり男がブルマというのは無理があるんじゃないかな……」

 とほほ顔の奏多。

「これどーすんだよ」

 向こうでブルマを持った啓太が叫んでいた。

「有栖川君、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、これパンツの上から穿けねぇじゃねーかよ」

 スカートを脱いでいる啓太はトランクス姿。

 確かに、トランクスの上にブルマはどうしても穿けない。形状が違い過ぎる。

 ある意味、女の子の下着を穿いてきたのは正解だった。

「トランクス脱いでそのまま穿くしかないんじゃないかな?」

「ぶ、ブルマだけを穿く……だと……?」

「有栖川君も体育の時は気をつけないとね……」

 床に手をついて絶望していた。


「うわぁ~お兄ちゃん、ブルマ似合ってる! 可愛い!」

 ブルマ姿の女子の中にブルマ姿で混ざっている恥辱。

 本当に女子はいつもこんな姿で体育の授業受けてたのかと問いたい。

 それほどに、ブルマ姿で校庭に立つのは辛かった。

 あーだからブルマは廃止されたのか……。

「凜ちゃんも可愛い可愛い!」

「えへへ、そうかな~」

 相変わらず凜は楽しそうだった。

 奏多は出来る限り上着でブルマを隠そうと上着を引っ張って着ていたが、逆にチラっと見えるブルマが余計恥ずかしい。

 そう思って、今度はブルマが出るようにブルマの中に上着を入れるも、ブルマ全開で恥ずかしい。

 ブルマ姿である限り、どうやっても恥ずかしいのには変わらなかった。

「落ち着かねぇ……なんなんだコレは……」

 女子の中に混じって一人だけブルマ姿の男子がいた。いや、奏多と凜も男子なんだがここまで来ると女子の中でも違和感はない。

 残る男子はブルマ直履き、さらに露わになっている太ももも筋肉質のごついものだった。

 そのインパクトは絶大。

 とりあえず、誰が見ても変態男にしか見えない情けない姿だった。

「なんでお前らそんなに自然に女子に混じってるんだよ」

「そんな事言われても……」

「こんな姿、絶対誰にも見せられねぇ、おい見るなよ! あっち行け!」

 啓太を見ながらヒソヒソと話していた女子達を怒鳴りつける。確かに、ブルマ姿の啓太の違和感は一緒に体育を受けたいとは思わないものだった。

「有栖川君も大変だね」

「そうだね、さすがにあれは可哀想よねぇ」

 奏多と花音はそう言いながら啓太に同情していた。

 そんな奏多は、自分がブルマ女装しているという事を忘れているようだった。


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