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記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました  作者: 冬野月子
第五章 令嬢は真実を知る

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05

「どういう事だ、シア」

階段の途中に殿下が立っていた。


殿下は階段を駆け上がると、私の腕を取った。

「来年だと?何故そんな早くに」

「パトリックがそうしたいと…」

私は殿下を見上げた。

「…私も、それを望みました」



「私以外のものになるのか」

「…はい」

私の返事に、殿下の手に力が入った。


「———シア…君は本当に、全て忘れてしまったのか」


「…申し訳ありません」

私は顔を伏せた。

記憶をなくす前の私がどれだけ殿下の事を好きだったのか…それは分からない。

けれど今の私は…殿下よりも、誰よりも。


「私は…パトリックが好きです。彼との結婚を望んでいます。ですから…殿下も、どうかブリジット様の事を大切になさって下さい」

殿下がどんな顔をしているのか…この長い沈黙が怖い。





「レオポルド様」

ブリジットの声が聞こえた。


「彼女はもう昔のアレクシアさんではありませんのよ」

顔を上げると、殿下の側にブリジットが立っていた。


「どんなにレオポルド様がアレクシアさんの姿を追いかけても、彼女はレオポルド様を振り返りませんわ。もういい加減に…」

「君にそんな事を言われる筋合いはないよ」



「———私はレオポルド様の婚約者ですわ」

ブリジットは殿下の腕を取った。


「レオポルド様の伴侶となるのは私です。この先ずっとお側にいるのは…」

「私はそんな事を望んではいない」

「レオポルド様っ」

手を振り解こうとした殿下の腕を、さらにしっかりとブリジットは掴んだ。


「いい加減現実を受け入れて…」

「離せ!」

殿下が掴まれた腕を振り上げた。

その拍子にブリジットの身体が大きくぐらつく。

倒れた先にあるのは…


「危ない!」

身体が動いていた。


階段へと落ちそうになったブリジットの身体を掴む。

そして…視界が大きく回り———

身体が宙に浮く感覚。



「シア!」


遠くで叫ぶ殿下の声が聞こえた。






『約束だよ、シア』

『ええ』


『私はこのネックレスにかけて、永遠にシアだけを愛する事を誓おう』

『私も…何があってもレオだけを愛する事を誓います』


『破ったら許さないよ』

『ふふ、私もよ』




ああ、これは罰だ。

———心変わりした私への。

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