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記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました  作者: 冬野月子
第三章 令嬢はゲームに巻き込まれる

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03

「いらっしゃい、アレクシア」

「本日はお招きありがとうございます」

出迎えたアドルナート公爵夫人に私はドレスの裾をつまんでカーテシーをした。


「そんなに改まらなくていいのよ」

優雅な笑みを浮かべて夫人は言った。

「あなたがこの家に来るのを楽しみにしていたの」

「…ありがとうございます」

「ゆっくりしていってね。よかったら後でお茶でも…」


「母上」


夫人の言葉を遮るように大きな声を出すと、パトリックは私の肩へ手を回して自分へと引き寄せた。

「今日はそのような時間はありませんから」


「あら、まあ。仲の良いこと」

私達を見て夫人はふふと笑った。

「ではアレクシア、また今度改めてお茶会に招くわね」

「は、はい」

「行こうシア」

私の肩を抱いたままパトリックは歩き出した。




今日は初めてパトリックの家を訪れた。


生徒会長であるパトリックは学園では忙しく、なかなか会う機会はない。

だから二人でゆっくり過ごしたいと家に招待されたのだ。

テオドーロは私が家の者も連れずに一人で行く事に反対していたけれど…婚約者だし、公爵家からの誘いを断れるはずもない。



パトリックに手を繋がれて、長い外廊下を歩く。

さすが筆頭貴族の公爵家、王宮ほどではないけれど我が家よりはるかに広い。



「ここは離れだ。来客用に使っている」


美しく手入れされた見事な庭園を通り抜け、着いた建物の前でパトリックは立ち止まった。

「結婚したらここに住もうと思っているのだが。狭いだろうか?」

狭い?

「…いえ…十分です…」

確かに我が家よりは小さいけれど…それでも私の感覚からするととても大きなお屋敷だ。


「しばらくは二人きりで過ごしたいからな」

少しはにかんだような顔でそう言うと、パトリックは中へと私を促した。




一通り家の中を案内され、大きな窓が嵌められよく日差しの入るティールームへと通された。

中では既にお茶の準備が進んでいる。

ソファに並んで座った私達の前のティーカップにお茶を注ぐと、侍女達は部屋を出て行った。


…あれ、完全に二人きり?


婚約中とはいえ、二人きりになるのはあまり良くないと聞いたような…



「そう心配しなくても大丈夫。邪な事はしないよ」

顔に出ていたのか、パトリックが言った。

邪な事って…?!


「どうしても二人きりで過ごしたかったんだ。さ、今日は母が菓子とお茶を用意したんだ」

「お母様が?」

「どうしても君を構いたいと言うんだけど、そんな事をしていたら時間がなくなってしまうからね、これで我慢してもらったんだ」

そう言ってテーブルの上を指し示す。


「…婚約してから一度も君を家に連れてこない事を気にかけていたからね」

「それは…ごめんなさい」

「だからこれからはどんどん家に来て欲しい」

「…はい」

頷くと、パトリックは嬉しそうに頬を緩めた。




並べられたお菓子はどれも綺麗で上品な見た目をしていた。

味も甘すぎず、とても美味しい。

お茶も香りが良くて心地良くなる。


「学園はどう?クラスには慣れた?」

「はい、皆さんよくしてくれます」

記憶喪失で一つ年上という私とは接しにくいだろうと思っていたけれど、入学式の次の日にレベッカという友人が出来たおかげか、クラスにもすぐ馴染む事ができた。

他の級友も私に対して普通に接してくれる。

———それは彼女達がテオドーロに近付こうとするのを私が止めないからかもしれない。

やはり女子の友情は大切だ。


女子達とは普通に話せるけれど、男子達とは必要最低限しか会話をした事がない。

レベッカ曰く、私に話しかけようとする男子をテオドーロが牽制しているそうだ。

私には婚約者がいるのだし、そこまで警戒しなくてもいいとは思うのだけれど…

それに私なんかより、レベッカの方がよほど可愛いから気をつけた方がいいのに。

そう言ったら「分かってない!」と怒られた。

私は庇護欲をそそるタイプなのだそうだ。


そのあたりが良く分からないと返したら、とにかく身内以外の男性には近づかないよう言われてしまった。

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