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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
二日目 【異世界生活の始まり】
65/119

Act 23. 岸田家系図の修正要請

「絶対ヤダ」



 ベットの下から引きずりだされた私は、瞬時の判断でベットの足を掴む。

 だが、叔父は構わず私の足首を引っ張るものだから、体が空中に浮くような形になった。


 種も仕掛けもございません。叔父の腕の力のみです――って、違っ!



「ええやん、ちょっとぐらい」



 よくない!叔父さんのちょっとで、ちょっとだったことないじゃん!

 疲れてるんだから、寝かせてよ!


 大体、叔父さんが自分から来る時って大抵碌なことがない。

 寧ろ危険になったことのほうが多いぐらいだし。



「可愛い叔父さんの頼みやん」



 ずぅえん、ずぇん、可愛くない!可愛い叔父さんは、お年玉とお小遣いを余分にくれたり、実家に来るときはケーキやオヤツを買ってきてくれたりして、誕生日とかクリスマスのプレゼントを奮発してくれたりするんでしょうが!

 焦げ付かないフライパンも、最新型の電動泡だて器もいらないやい!


 間違っても血まみれの鉄パイプ片手に、怪我人引きずって家に放り込んで帰ったり、突然フラッとやってきて、海鮮餡かけチャーハン食べたいとか、材料を持って人に押し付けたりしないんだよ!しかもなんだよ!作ったら作ったでイカが硬いだと!自分で作れ自分で!この料理音痴が!少なくとも中学生の私に海鮮餡かけチャーハンはレベル高いわ!せめて母さんに頼め!



「嫌や。あの人に貸し作ったらどうなると思ってんねん」



 知るか!

 頼んで、母の心行くまで、奴隷のように扱き使われろ!


 浮いている足で、叔父の鼻っ柱に向かって蹴りを繰り出すがあっさりと避けられてしまった。

 


「せ、僭越ながら、イシュルス王」

「……よい。発言を許す」



 ジークが膝をついて頭を下げると、叔父は思い出したように、きりっ、と真面目な顔を作った。


 遅っ!叔父遅っ!


 絶対に野蛮な本性がばれているだろうが、大人なジークは――たぶん、ジークよりも年上な叔父よりも確実に大人だ――それを見て見ない振りをしているようで、敬いの姿勢を変えない。


 くっ!掴んでいる腕に蹴りを入れたら、瞬時に掴んでいる手とは逆の手で足首を掴みなおしやがった!

 こんな時ばかり、チート能力を発揮しやがってますよ。



「ミィコ殿は、午前中は城下に出向き、午後からは第二騎士団で鍛錬をされております。子供であるミィコ殿には、その疲労は計り知れないかと。ご考慮いただければ」



 ジ、ジーク!!お前はなんていい奴なんだ!

 

 子供言うたけど、超許す。

 さっきのお風呂の件で、きょとん顔したのも全然許す。いい人だ。


 私から言っても無駄なんて、いってやってくれ。

 責任はもたないけれど。



「笑止。我が血族に軟弱な者はおらぬ」



 笑止とかいいつつ、鼻で笑うなよ。



「ここにいるから!っつーか、岸田の家の人間が全員チートだと思ったら大間違いだし!極々平凡な一般人の私は惰弱だから!殺す気か!」

「あー…ミィたん。自分が思ってるより、頑丈やで」


 

 ミィたん言うな!私が頑丈にできたら人生苦労しないわい!!

 相手によって話し方変えてるの器用だな!叔父よ!


 しかも、蹴りが一発も当たらないのが腹立たしすぎる。


 

「で、ですが、イシュルス王―――」



 おお、それでも叔父(王様)反論するなんて、凄いなジーク。


 その背後から後光がさして見えるよ――部屋、暗いけど。

 きっと天使みたいに背中から、白い羽が生えているに違いない。



「異世界ではデザートに『ドーナツ』というのものがあるのだが……食べてみたくはないか?ジークホークよ」

「さ、ミィコ殿!王命です!厨房へ!」



 うぉおい!一気に堕天しやがった!!


 結局、ベットを掴んでいた手をジークに引き剥がされて、叔父に足首を掴まれたまま、廊下を移動することとなった。

 夜でよかった誰もいない――って、せめて普通に歩かせてよ!



「うむ、よい働きである。ひとつ恵んでやろう」

「はは、ありがたき幸せ」



 頭上では、悪代官と越後屋みたいな会話が繰り広げられていた。


 うん、でも作るの私なんですけども、この野郎と思ったら叔父は先回りして、テーブルの上のラバーブを人質―――いや物質ものじちにしやがりましたよ。


 やめて!振り回さないで!バットじゃないんだから!

 この鬼!悪魔!人でなし!


 いつか、あの髭全部抜いてくれるわ!叔父め、覚えてろ!!





   +  +  +





 厨房はなぜか晩御飯が終わったはずなのに、まだ料理人がいた。

 明日の仕込みだろうか?


 しかも、マヨネーズ臭が凄いのなんのって……この人たちはどれだけマヨネーズを作り続けていたのだろう?卵、残ってるんだろうか?


 なぜか目が血走ってて怖いけど、叔父が顔を出したとわかると全員が膝をついて頭を下げて、水戸のご老公が!という状態になってしまった。


 料理人の力添えがあって、さほど時間をかけずに出来上がった揚げたてのドーナツ。   


 手伝ってくれてありがとうの気持ちで、一人一個ずつ置いてきた。


 大量に作ったので、皿の上に山盛りになっている。それとお茶セットを乗せたカートをジークが押している。

 


 そして、叔父に背負われている私。

 なんでやねん。


 

 さっきみたいに頭に血が上らなくて、いいけどさ。


 どう考えても、自室へは向かっていないような気がする。

 いくら足首掴まれて光景が逆さとはいえ、通っている場所が違うのはわかるぞ。ちなみに、厨房までの道のりも覚えたので、夜食が食べたくなったらあそこだな。


 料理長直々に『好きに使ってください』とドーナツを齧り、泣きながら言われた。

 威勢のいい赤毛のおねー様に、ドーナツレシピを教えたので、いつの日か食卓に並ぶであろう。


 

『アタイは必ず、このオーナツで――』



 いや、ドーナツだから。


 なんで、伝わったり、伝わらなかったりなんだろうか?

 

 メラメラと闘志の燃える赤毛のおねー様は自分の世界に入っちゃって、聞いてなかったけど。他の料理人に謝罪された。いや、別にどうでもいいんですけども。

 


「叔父さん……もう、眠たいんだけど」



 背負われているせいで、揺れ心地が絶妙だ。

 ドーナツを頬張りながら、うとうとしているのだが、まだ行ったことのない廊下を歩いている。広すぎるだろ王城よ。

 


「もうちょい、起きとき」



 自然現象だから、しょうがないじゃん。

 トイレ行きたいとか、お腹すいたとかと、一緒で…我慢できな……



「あかんよ」



 と、眠りかけた私の耳に叔父の声が届いて―――気がつくと、メリーゴーランドDXを食らったことを明記しておこう。


 眠る前に永眠するって!


 いつか絶対髭抜く、と私は飛んだ眠気と共にダメージを受け、心に強く決意した。

 ピンセットで一本ずつ、じわじわ抜いてくれるわい!


 その前に、吐くかもしれないけど。


 後ろからドーナツ頬張りながらジークは、微笑ましい笑顔で私たちを眺めていた。

 ジーク……頼むから、叔父止めて。





 +  +  +





 なんやかんやで、叔父はどこぞの部屋をノックしていた。

  



「入れ」




 上からの高圧的な女の声が聞こえると同時に、叔父は部屋の扉を開けていた。


 室内はごちゃごちゃとしていて薄暗く、微妙な臭いがする。

 

 床に積み重なった古そうな本に、天井まで届きそうな本棚。

 ビーカーやら三角フラスコが火にかけられたりして、微妙な色の液体がぐつぐついっている。

 ビー球のようなものが入った試験管が並び、自分勝手に地球儀が回っている。だがその地球儀の大陸の形が私の記憶と異なることから、異世界球儀とでも呼んだほうがよいのだろうか。


 なんか、どことなくマッドサイエンスの香り漂う。


 

「イベイベ、生きとるかいな」

「……私を、イベイベと呼ぶな。殺すぞ」



 叔父の言葉に答えたのは、三十台前半ほどの女性だった。

 姉と母で美人は見慣れている私であるが、それでも『イベイベ』は美貌と呼べるだろう。


 金髪碧眼でフランス人形のように精巧に整った面立ち。

 

 肉体は『ぼん、きゅ、ぼん』で、ハリウッドの女優のような体つきである。

 出るところはでて、細いところは細い。その体は、体にぴったりとフィットしたシンプルなドレスを纏っているのだが、それは一層女の魅力を高めていた。


 ただ座っているだけなのに、気品があり、強烈な印象を植え付けた。


 あまり豊かではないらしい表情が冷たい印象を与え、鋭い碧眼だけがギラギラしていた。後半は叔父の渾名に対する殺意なのかもしれないが。


 睨みつけられた叔父は気にした様子もない。

 叔父が渾名をつけている事から、親しい間柄なのだろう。


 はっ!ま、まさか!ここにきて、まさかの奥さん!叔父さんのお嫁さんなの!?だから、私をつれて……いや、でも奥さん渾名って。

 

 城に滞在してから、一度も会ってないから気になるけど。

 まぁ、いつか紹介されるだろう。


 しかも、叔父の嫁がこんな美人だったら、びっくりだよ。いや、叔父に嫁がいることだけで十分にびっくりだけどさ。


 怖くて誰も聞けないし。


 

 王様である叔父を殺害宣言して許されるぐらいだから、多分偉い人なのだろう。

 一介の研究者って感じではない。


 才女って空気は醸されているけど……流行のクーデレか?



「なんのようだ。疫病神」



 うわー…その言動から察するに、うちの叔父が毎度、大変なご迷惑をおかけしております。


 喋り方が高圧的だが、それまたクーデレのクール感を漂わせてるよ。

 


「カルムどうなっとるんか様子見に来たんや」

「元より呪術など畑違いだ。最初の報告書からは進展しておらん。明日にでも、アドルフに引き渡す―――戯言はいい、本題はなんだ」

「相変わらずのツンツンやなぁ」



 つーか本当に誰だ?国の偉い人か?


 一緒に部屋に入ったジークを振り返ると『宮廷魔術師のイヴェール様です。カルム王子の呪いの関係かと』と耳打ちしてきた。

 その顔は聊か青ざめているような気がしなくもない。


 宮廷魔術師かぁ。


 てっきり、白髪の長い髭と髪のお爺さんが出てくると思ったが、無駄なまでに美人が配置されているな。


 カルム――…王子と呪いということだから、あの熊王子か。

 名前じゃ、ぴんとこないな。


 あれも従兄弟なんだよなぁ……熊が従兄弟か。熊が。私的には、むしろ人よりも熊の方がいいけど。


 宮廷魔術師は魔法使いだから、呪い解けませんか?という形で預けられたのだろう。



「それになんだ、その背負っている奴は」

「ミィたんや。兄貴の所の子やで」

「……貴様の、兄だと?」



 金髪美女は眉根を寄せて、私の顔をじっと見つめている。


 いや、私、叔父の悪事とは無関係なんで、お構いなく―――っつーか、ミィたん言うのやめろ。




「血は繋がらないとはいえ、私の甥か」




 そうそう、私はただの一般人―――ん?なんか幻聴が聞こえたような?



 私の頬が引き攣る。



 イベイベは優雅に立ち上がると、叔父は私を背中から下ろした。


 差し出された手に私は大いに戸惑った。

 叔父に視線を送ると、叔父は頷いて促したので、その白く細い手を握り締める。


 近くに来ると、物凄くいい匂いがした。



「私の名前はイヴェール。イヴェール=アヴェ=ラカヴァ=ナイトヘルツォーク=ヴェルクスタ公爵夫人だ。旧姓はイヴェール=フォン=イシュルス」

 


 長っ!イベイベ長いよ!

 

 だが、彼女の名前に驚いて、手を握ったまま固まってしまった。

 つ、と私の額から汗が流れたような気がする。


 この時、私はどんな顔をしていたのか想像できないが、後にジークに『珍しく驚いた顔をされていましたね』と言われた。



「職業は王宮魔術師だ。不本意ながら、この疫病神の義理の妹でもある」



 叔父の時とは対応が変わり、私に柔らかい微笑を浮かべた。

 だが、頭の中はそれどころではない。


 宮廷魔術師はいい。



 叔父の義理の妹―――つまり、叔父の嫁さんの妹=イシュルスのお姫様=私の叔母??



 まだ嫁さんにも会ったことないのに、叔母が登場したよ!

 ってか、イベイベ叔母さんと呼ぶのも、気が引けるような若くて美人だな、どうしよう!


 それに最初の公爵夫人のファミリーネームどっかで聞いたことあるよ。たぶん、いや、もう本当ここ数日で。


 




「それから、第一騎士団ヴェルクスタの妻をしている」






 え、えええええええええ!!!!やっぱりですかい!!


 熊を素手で殴る第一騎士団長の!食べるのが凄く遅い第一騎士団の!?

 嫁美人!嫁凄い美女!あの人もたぶん人だから、嫁の一人や二人いてもおかしくないけどさ!?


 え、ええ?じゃ、あの人も、実はお、お―――駄目だ!脳が拒絶するよ!私の中で岸田家の家系図を作り直すことを俄然拒否しているよ!!

 

 つーか、姪ですから!イベイベ叔母様!



 ああもう!これがテレビなら、CMでお願いします!!


=== 真実子は混乱している。


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