Act 35. 一日の終わり
「いきなり牢屋って、おかしいじゃん!!」
案内いたします、と下へ降りて、降りて、降りる。
複数の王宮騎士に囲まれ、辿り着いたのは、非常にボロボロの地下の牢屋であった。
辛うじて、清掃はされているかな程度で、王宮の地下牢獄なので光も差さないし、ジメジメしてる。
松明が殆ど消えてて、2つしかついてない。
かび臭いー。
暗いー。
一室に区切りがあるだけで、トイレが一緒って……最悪。
当然だけど、水洗じゃないし、ぼっとんでもないし、おまる的なものがおいてあるだけだし……あー、もうやだ。
宰相の野郎!許すまじ!!
「本当に最悪!!肉体的にも精神的にもよくないわ、こんなところ!」
「まぁ、牢屋が快適だったら、犯罪者増えると思うが……」
いや、そーだけど、そーゆー意味でいったんじゃないよ、姉は。
さすがに姉は大いに反抗的だったが、自由を奪われなかっただけましだ、と兄。
十分に自由を奪われない?ねえってば?
驚いた両親と姉を宥めて、彼らの言うとおりにしようと兄は、相手に対して譲歩の姿勢を見せた。
彼らにもそれなりの理由がある、と。
誠実であるといえば、そうだが、納得はいかない。
もしかして明日、死刑とかいわれたらどうすんのさ。
逃げとかなくていいんだろうか?
自分、鍵開けのスキルゲットしておりますけど、開けちゃう?開けちゃう??
弟王子はぽやや~ん、としてるけど、ちゃんとしてたので、王様もマトモだと思ってたけど、実は暴君か、暗君の治める、荒れに荒れた都市だったのだろうか??
だから、宰相も極悪人だった、とか?
でも、町は夜だから人がいないだけで、不審な点はなかった…ような気がする。
ぶーぶー。
とりあえず、不満たらたらなんですけどー。
ゴブリンが襲来すると分かれば、解放されると兄はいっているが、王子と騎士を助けて、尚且つこれから大変だよ、準備して、と親切に言ったにもかかわらず、理不尽。
相手からすれば、不審者かもしんないけどさ。
兄、超頑張ったんだから、褒美をもらってもいいくらいじゃない??
ぶち切れかけて、魔石投げつけたろうかと思ったが、その兄に素気無く制された。
ああいう輩は、1回痛い目見たほうがいい。
「よし、暇になったから、岸田家集合ー」
ぱんぱん、とマイペースに兄が手を叩いて、家族の集合をかける。
「集合も何も、全員牢屋じゃないの」
「そうだが、いつもやってることだから、とりあえず」
姉の突っ込みにめげない兄。
いや、隣の牢屋だけど、兄の姿はちらちらとしか見えないので、わかんないけど。
皆仲良く、牢屋から顔を出してる家族って……微妙。
「じゃ、第57回岸田首脳会議を始めるぞー」
ただの家族会議だけどね。
このわりと緊急事態に、ちょっと遅いぐらいじゃない?
なんかもう、騎士たち助けところあたりで、会議しててもよかった気がするけど。
「大体察してると思うけど、よくわからんが、うっかり皆で仲良く異世界に来た、というのはいいな」
「あら~…やっぱり、ドッキリじゃなかったのねぇ」
「母さん、この城はセットじゃあ作れないぞ。父さん、西洋建築は専門外だが――」
「それで、なに?」
父の長くなりそうな説明を黙殺する姉。
うん、もういいよ。この城が優れた建築物で、異世界っぽいんだよね。
わーった。わーった。
よし、黙れ父。
それにドッキリのためのエキストラにしたって、日本語ぺらぺらの外人を集めて、よく分からん異世界設定を覚えさせるのは難しくない?
もし、これがドッキリなら城を建てたことも含めて億単位の金が動いている??
しかし、それをタレントでもない一介の家族にするメリットは?
ない。あるわけない。
なにかの復讐にしたって、もうちょっと億単位の金は、違う使い道があるだろう。
叔父は兄並みに恐ろしい人だが、悪戯を仕掛けてくることは滅多にない。
めんどくさがりなところもあるから、自分から動かない。
こう、ついでに悪戯みたいなのはあるけど。
後は、兄のやんちゃのせいで、報復されたことはあったが、短絡的なものだった。
お礼参りとか、待ち伏せとか、闇討ちとか、誘拐とか――主に、被害が私に――された場合は、兄がさらに三倍返しというホワイトデー並みの報復をするので、最近は殆どない。
とりあえず、全員が異世界に来たことは認識してる。
意外な事に一番暴れそうな姉が、冷静であることが救いである。
絶対に最後まで信じないと思ったんだけどなー。
「んん、普通なら召還された場合ってのはいくつかパターンがあるんだが。何か使命的なものが存在するんだが、誰かに何してくれ、ってお願いされた人――」
無論、誰も声を上げない。
てっきり、一番冷静かつ、ちゃきちゃき仕事?してる兄かと思ってたけど。
チート兄も違うらしい。
「――は、いないか。となると、殆どの可能性が消えて、現時点で考えられるのは偶発的な要素できちゃったということになる」
「…はぁ?偶然ってこと?」
「そうなる」
それにしても、イベント目一杯って感じだし…悪意っつーか、作為を感じます、はい。
後は、異世界突っ込んでおけば、兄がどうかするんじゃね?とか、そんな大雑把――……まさか、イシュタル神とかじゃないよね。
神託しか見てないけど、やばい感じの軽さだったよ?
判断材料がないから、推測でしかないけど――そうだったら、ものすっっごくヤだな。
「ちょっとまってよ!だったら、帰る方法とか!」
姉の言葉に兄は数秒沈黙したが、すぐに声を上げた。
「今のところは、な。だが俺たちが召還する方法があるってことは、また逆もあるってことだ――限りなく可能性は低いけどな」
「ど、どどど、どーすんのよ!私っ」
滅茶苦茶動揺した声を上げる姉に、泣くのかと身構えた。
姉の泣いたところなんて、小学生以来見ていないが、異世界、帰れそうにない、となると、泣き出してもなんら不思議はない。
がしゃん、と姉が乱暴に鉄柵を叩くか蹴ったような音がする。
「月9のドラマ、録画してないのよ!来週、最終回なのに!!」
ってか、心残りが月9かよ!!
残してきた患者を気にしろよ、ナース!
「…………うん、そうだな……月9、な」
顔が見えてたら、兄はきっと遠い眼してるよね。
多分、私も同じような感じだけど。
「あら…糠漬け、もってきてよかったわぁ」
え、えぇ~~この期に及んで、漬物ですか、母。
確かに自分で一から糠床につけてるから、長期間混ぜないと傷んじゃうけどさ――って、どこに入れたの??車のどこ入れたの!私の鞄の近くじゃないよね??
糠臭い服は勘弁して!
「うーん、父さんも、再来週から仕事入れちゃったんだけどなぁ」
なんか普通。
姉と母の後に聞くと、父って常識人だな。
母と建築物さえ関わらなければ。
そうだよね、私も学校があるし、あふぉだから、授業についてけなくなるんですけどー。
「俺もそんなに長期間休みなんてとれないんだが……うーむ。とりあえず、第一希望は、日本に皆で帰るぞーで、いいか?」
「さんせー」
「いいわよ、勿論。リアルタイムで愛と陰謀の月9の最終回よ」
「母さんは、おいしいものがあるところー」
たしかにここは、ホットサンドで感動する王子がいるくらいだから、なんか期待できないね。
「うーん、父さんは、母さんがいれば、どこでもいいけどな」
「もう、お父さんったらー」
はい、そこ、子供の前でいちゃいちゃしない!あ、横か。どうでもいいけど。
なんだかな―…緊張感ない。
結局、一番テンパッってたのって、私…なんだろうなぁ。
きっと一人だったら泣いてたし。
あんまり関係ないけど、ゆるいっていうのか、いつもどおりっていうか。
突然、異世界にきてゴブリンと轢いて、兄はゴブリンと戦って、ワゴン車で王子と騎士と熊と相乗りして、一国の宰相にあって、牢屋に突っ込まれてー、私にいたっては甲冑老人にコイン飲まされてー…他にも色々あって、目まぐるしい一日だった。
しかも、この先が何があるか、わかんない状態。
本来だったら、もっと混乱したり、現実逃避してもいいと思うけど、良くも悪くも私の家はどこに行っても、そのまんまの家族なんだなぁ。
やっぱり、図太いというか、肝が据わっているっていうか…。
一番しっくりくるのが適当?
「……とりあえず、我慢するけど、私の自慢の肌がダニに食われたら、兄処刑ね」
うわ、軽い調子で処刑宣告されてるよ、兄。
「ははは、とりあえず、買い物の荷物持ちぐらいで許してくれ」
「死ぬほど買ってやるから覚悟しなさいよ」
最初から嫌がらせモードのウィンドウショッピング…おっかな。
きっと早起きして、開店から閉店まで、回るつもりだよ。
がんばれ、兄。
「お父さん、おなか出して寝たら駄目ですからね。夜は冷えますから」
「お、お母さん。うん。シャツは中に入れて寝るよ」
ださっ!我が父よ。ズボンの中にシャツいれたら、完全にダサいよ。
ってか、母、わかってて言ってない?
おほほほ、って笑い声が聞こえるけど、おちょくられているか、八つ当たりだと思うよ。
反対側の隣も大変だな。
「一応、Bプランとして、帰れなさそうだったら、どっかで金稼いで、一戸建てでも買って、移住できるところでも探すか」
「あらー、それも悪くないわね――でも、お母さん」
「「「「「料理が美味しい所がいいわ」」」」」
母の言葉に、全員の声が重なる。
家族全員、母の食い意地がはってるの知ってるから、次の言葉ぐらいわかった。
兄の爽やかな苦笑。
父の満面の笑み。
鼻で笑う姉。
「あら」と、驚いた様子の母が、手に取るように分かる。
ぷぷぷ、と私も偲び笑いしてた。
長い異世界生活一日目が終わり、その夜は牢屋の使うのも躊躇うような、襤褸切れのような布に包まって就寝した。
宰相にはムカつくし、王子も騎士も恩知らずだし、帰れる見込みなんて、まっっったくないのに、全然怖くなかった。
ともかく、父がいて、母がいて、姉がいて、兄がいて、私は一人じゃなくって。
不思議と家族がいると思うと、なにが起きたって平気って感じだった。
―――ま、きっと、大丈夫、なんじゃない?
あまりにも疲れていたせいで、私はいつもの枕じゃなくてもぐっすり眠った。
こうして、私たち岸田家の冒険は幕を上げた。
前の話が短かったんで、勢いで、第一章終了です。
突然の削除や、名前の変更と色々ありましたが、ここまで、お読みいただき、ありがとうございますvv
考えてみれば、ここの所、毎日小説を書いていたような気がします。
嬉しかったり、悩んだりで、部屋を転がる日々ですが、なんか小説書くの楽しいなーとしみじみ思います。
誤字脱字の多い小説ですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
次から閑話挟んで、二章に……いきたいけど、まだ書き終わらない(涙)
濃ゆいのが…濃ゆい奴がぁ…うーん、うーん。
冬の黒猫亭




