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岸田家の異世界冒険  作者: 冬の黒猫亭
三日目 【冒険者の卵】
111/119

Act 40. 困った人

 異国の音楽っていいよねぇ。うん。


 長い事、演奏しあっていたが、楽しい時間はあっという間に過ぎていったが、有意義な時間でホクホクである。


 ざっくりだけど魔曲についてとか、特性とかを色々、教えてもらった。


 というか、まんま音楽を使う魔法という印象を受けた。

 ただ魔法で言う術者が詠唱に時間が取られて無防備になるというデメリットを大いに引き継いではいるが、メリットとして効果範囲が広いといえばいいのだろうか。


 なにせ聴こえる範囲が全て対象である。


 それでも限界はあるようで、微かに音が聴こえる程度なんて、ほとんど影響がないらしい。

 静寂な場所ならまだしも騒がしい所は、効果が伝わりにくい。


 後、肉体に作用する魔曲は、敵味方などが耳を塞いでしまえばそれまでとか、若干しょぼい。


 といった更なるデメリットがあるのだ。


 そうして弱点を打ち破ったのが遺 物(オプテショーズ)の楽器で、どこぞの将軍お抱えの件の『フォノン音楽団』だったようだけど。 


 しかも楽器が増えると、効果範囲が広がったりするらしい。


 戦場に鳴り響く、音楽ってなんか中世の映画の戦争でラッパがなってるのぐらいは聴いたことあるんだけど、どうなんだろうね………すごく、微妙な感じがしなくもない。


 命を掛けたやりとりの中で音楽って。

 ドラマティックではあるかもしれないけどさ。


 あと、こういった魔曲の楽譜はメジャーなモノ以外、あんまし出回っていないか高いらしい。


 そもそも楽器も高い。


 つまり必然的に窘めるのが富裕層になる。

 おまけに燃費が悪いらしく、普通の魔法よりも消費する魔力が多いとなれば、人数は絞られる。


 それらは魔曲奏者(グランフラ)と呼ばれていて、滅多にいないらしい。

 

 魔曲奏者(グランフラ)になるくらいなら、普通に魔法使いになったほうが早いというわけだ。楽器いらないし。


 でも中には、イベイベみたいに高貴な生れの方々は基本的な素養として楽器を嗜み、かなりの魔力持ちで、楽譜さえあれば必然的に弾けるようになった人も居るようだけど、少ない。


 戦ってる最中に音楽奏でている人がいたら、目立ちすぎて真っ先に狙われるだろうしなぁ。 

 演奏一つで死を覚悟せねばなるまい……それを考えると恐るべし豪胆な伝説の音楽団。



 私の中で噛み砕いて総合すると魔曲とはーーー―ー『音楽聴いて元気出る!』とかの最上位版程度と思うことにししょう。


 元気がでたり、気分が良くなると、その後の行動も調子づく、みたいな。

 魔法のない元の世界だってコンサートとか見に行った後、余韻で幸せな気分になったりするし。


 凄いことは凄いけど、過信はしないようにしよう。



 ともかくハードモードの森にいた時は時間が進むのが遅かったというか、一分一秒が物凄く濃密な感じだったが、イベイベ音楽教室は惜しいほど時間の経過は早かった。それくらい楽しかったのである。


 遺 物(オプテショーズ)の事さえなければ。


 もうドッキリな贈り物は要らないよ、イベイベ――――私的に誕生日とクリスマス以外の贈り物は、消え物が一番です。


 できれば、主に美味しいご飯ごちそう………いや、この異世界の食事事情を考えると、苦行になりそうだ。奢ってもらっているのに食べないなんて、許されまい。


 できれば、さっきの大事にしまっていたチョコレートがいいなぁ。


 イベイベと貴公子にお礼を言って退出しようしたら、完全に置物と化していた貴公子の従者の方が『あの』と小さく声をかけてきたので振り返る。


 何か用事があるのかと思ったが、めっちゃ第一騎士団長に睨まれていた。

 それで身を怯ませたようで頭を下げて、それ以上何も言わなかった。


 まぁ、私も第一騎士団長が剣の柄に手まで掛けているの見えたので、勇気をだして『なにか用事ですか?』とか気の利いたことを言い出せないチキンですが。


 すごすごと室外にでると、まだジークがいた。

 有り難いけど……ジーク、もう勤務時間外じゃないのか。 


 この人、一日何時間働く気なんだ。 


 叔父よ、イシュルス王国の経営って、ブラック会社とかじゃないのか?

 考えてみれば料理長ですら、剣士だけどハードモードなイシュルスの森に出張していたしなぁ。



「……大丈夫でしたか?」



 イベイベの部屋から遠ざかった後、ジークが困ったよう表情で聞いてきた。


 内密にと言われたので遺 物(オプテショーズ)の事は伏せ、音楽隊や魔曲の話、簡単に新しい曲を習ったこと、互いの祖国の曲を引き合った事などを、ポツリポツリと帰り道の話題に選ぶ。


 ジークも貴族として音楽の教養があるのだろうから、知ってることは多かっただろう。

 それでも縁側で孫の話を聞くように、穏やかに相槌打ってくれた。

 

 一番食いついたのは、私が美味しいというイベイベ秘蔵のチョコレート――――ジーク、私的にはいいけど、貴族として腹芸を覚えたほうがよいような気がしなくもないんだけど。

 

 後、本当に騎士団長とイベイベの共演は数年に一度位あるらしいが、ジークも第二騎士団長に連れられて見に行ったことが有るとかなんとか。


 予想通り、騎士が多い公演会になるらしい。



「噂では、第一騎士団長の演奏会が始まってから、イシュルス学園で王宮騎士コースに音楽教養を取り入れるようになったと言われてます……私も必須課目でした」



 マジか。


 遠い目をするジークであったが、大変だったらしい。

 なんの楽器を習ったのか気になるが、問うより早くジークが視線を逸らして、話題を変えた。



「リアン様はどの様に見えましたか」



 先ほどのキラキラの貴公子に対してと言われても、とっさに思いつくのは一つだけだった。



「ヴァイオリン、上手い」

「は、はぁ、たしかにヴァイオリンの名士として名高い方でしたね」



 ジークは微妙な感じで、どこか遠い目をしている。


 それとなくではあるがジークは貴公子に対して、あまりよろしくない感情を抱いているようだ。

 露骨とまでは言わないけど、隠しきれてはいないような。



「素晴らしい経歴の持ち主ではありますが、個人的な感情ではなく……」 

 


 困ったように眉根を寄せて、暫し難しい顔をしていたが、首を横に降る。


 ほうほう、つまり高位の貴族で優秀な上に眉目秀麗の優良物件で、貴族のご婦人方から絶大な指示を得ているので、各所の男性陣から妬まれているので良からぬ噂が流れてる的なアレだ。


 身分差故にジークはあんまし話したことはないので、どんな人物かしらないけど、流れている噂は聴いたことあるので不安なんですけど、ですね。


 てっきり、イケメン爆発しろとか言うのかと思ったが。


 

「いえ、その……ミィコ殿は国賓扱いですので、滅多なことはないとは思われますが」



 そこで一度区切ると薄らぼんやりしている廊下を不安そうに見渡して、小さかった声を更に絞って耳元でジークが恐ろしいことを宣った。



「……痴情の刃傷沙汰が幾度か。中には一国の重鎮であるご令弟様の一日の行動を把握している方や、学生時代には誘拐沙汰まで起きるほどの、熱狂的な支持者の方々が」



 おけ把握。


 今、心のメモにしっかりと赤文字で書いておいたよ――――貴公子は姉の男バージョン。

 

 むしろジークは心配していたのは私が貴公子に誑かされるとかじゃなくて、彼を崇める熱狂的なストーカーの存在だったようだ。


 私は有り難いジークの警告に深く頷いて感謝した。


 少しでも眉間に皺を寄せた彼の心労を和らげようと、私はドヤ顔で親指を立てた。



「姉で、慣れてる」



 事実、幾度か姉のストーカーに闇討ち同然で襲われ撃退したこともあるし、唐突に閉じ込められたとか、攫われたことがあるが生還しているし、マナーのなっていない姉のストーカーをドロップアウトさせるために、ストーカーをストーカーをしたこともある。


 なんといっても、攫われた姉を救うために『キシユイ☆ストカズ』の会員であるマナーを守って姉を全力で見守るストーカー集団とタッグを組んだこともある。

 

 いつだったか、急にストーカーのマナーがよくなったので、存在は勘ぐってはいたんだけどね。


 っというか、なぜか『キシユイ☆ストカズ』の会長、電話番号知ってたんだよ……姉が車に連れ込まれた数分後に私に電話かかってきたんだよ!兄にかけたら、こっちに掛けてって言われたって!ちょ、兄!今遠出してるからって!相手間違っとるだろ!つか、会員ナンバー9よ!攫われた時の姉のパンチラショットより、もっと大切な事が有るだろう!お陰で攫った相手の車のナンバーがわかって、会員の中の現役の警察官がナンバー調べて、副会長が元総合格闘技出身者とか腕っ節の強い方が詰まったワゴンの一つが私を回収しにきて、事なきを得たけども!


 姉が抵抗していたというのもあるけど、先に現場に到着していたバイク便のストーカーが頑張っていたらしい。


 しかも、私の到着は攫われてから一時間以内だったという恐ろしい速度だった。


 ………いや、陣頭指揮はしてたけど、私……必要じゃなかったんじゃ?とか思わなくもなかったが。


 正直、予想以上に会員が多くて、まじ怖かったけど。

 ヘタしたら地下アイドルのファンとかよりおおいん……げふんっ、げふんっ。


 マジカルなんとかのお面つけたおんにゃの子が一番凶暴とか、どうよ。


 なにより怖かったのは、帰りのワゴンのストーカー集団との相乗りがね。皆怪我だらけなのに、光悦とした表情でハアハアしてましたよ。


 姉の家で無防備にアイスクリームを食べている生写真を隠し撮りしたのお礼にあげたら、泣いて喜ばれた。


 なんか『妹様』とか、最終的に呼ばれて……時々、知らない人が親切にしてくれると思ったら、皆『キシユイ☆ストカズ』のステッカーと会員ナンバーつけてるとかね。


 実は『キシユイ☆ストカズ』も、叔父が姉を守るために良心的なストーカーを集めて、危険なソロストーカーを防ぐための予防策として作ったとかね。


 そんな裏事情など知りたくなかったけど、彼らはマジ姉の狂信者一歩寸前だと思う。

 しかも会長の話だと、二割くらい男性じゃないようだ。


 ともかく傾国とはいわんけど、傾街ぐらいの姉を持つ妹として、かなり修羅場を潜ってきたと思うから、そうそうなことではへこたれないぜ。


 だからジークも何が起きても、あんまり気に病まない方がいいよ。

 元凶である本人に悪気があるわけじゃないんだからさ。


 街灯に蛾群がるからって、街灯わるくないじゃん?消したら、真っ暗なんだし。



「っ」


 

 突然、ジークが苦痛めいた呻きを上げて、廊下のど真ん中で膝から崩れ落ちた。


 片膝を突いたまま、微かに震える身体を丸めて、片手で目元を押さえているけど、その隙間からキラリと光るものが―――って、なんで!?どっか痛いの?っつか、やっぱり国家公務員なのにブラック経営で過労死的なあれなのか、誰か呼ぼう――――え?お労しやって、今の話で!?どこに泣き所が!?


 いや、本当慣れてるから大丈夫だよ?

 寧ろ姉の敵より、兄とか叔父とかの敵の方が強敵で幾度か死にかけた事を思えば、全然だよ?


 特に叔父の長年の強敵?となった金髪の●●(ピー)野郎なんか、問答無用で屋上から紐なしバンジーさせられた事もあってな。


 アレは兄も姉も若かったし、私も幼かったし軽く殴られてたから上手く身体も動かなくて、お空にポイされた時には『あ、こりゃ死んだな』と思ったけど、驚いたことに父がね―――ジーク、嗚咽から無言の号泣にランクアップしないで!!



「よ、く……今日まで、よくっ、生きられましたっ」



 ……うん、ソレは余計なお世話だが。ジーク。知り合って間もない成人男性がマジ泣きするとどうしていいかわからんのけど。


 てかジークは、よく素直に私の信じるなぁ。

 まぁ、あの初日のゴブリン戦で兄のチートっぷりをみれば、信じるかもしれないけど。


 普通の人はほろ苦い笑みを浮かべるか、冗談だと決めつけて流すのに―――――あんまし、真っ向から話を受け止める上に泣かれると、どう対応していいかわからない。


 基本、私の目からだから兄と姉とか叔父とかが、肉親のよく目で誇張されてるかもしれないけど。

 

 ジークは意外と、涙もろい体質なのだろうか。  


 

「これだけは、言っておきます」


 

 ハンカチで涙を拭い復活したジークは膝を突いたまま、私の手を両手で取った。



「私は陛下に剣を捧げております。ですからミィコ殿が陛下の味方である限り、私は貴方の味方です」



 じゃあ、ずっとジークは私の味方だ――――なんて茶化して言おうかと思ったが、目尻の赤いジークの目はかなり真剣だ。


 

「騎士としては精進しておりますが、私はサミィ殿や陛下のように英雄の力は持ちあわせておりません。頼りなく感じるやもしれませんが、貴方を刃から守る盾となることはできます。たとえ死んでも逃げる時間ぐらい稼いでみせましょう」



 真摯な言葉は嬉しいが、私は首を緩く振って答えた。



「………それ、は、困る」

 


 困惑げにジークが更に言葉を重ねようとした。

 だが、それを遮るように、もう一度『困る』とぽつりと呟くと静かに押し黙った。


 まるで私の言葉を聞き逃すまいと耳を澄ませているとも、話すタイミングを図っているようにも感じるが、どちらかわからない。


 ただ、じっと私を見ている。


 名前も知らないビジネスライクの騎士であったら、私は頷いていただろう。


 かなり私は薄情だと思う。


 知らない人と自分だったら、余裕で自分が大切だろう。

 異世界に家族とともに来てしまった私にとって、今一番大事なのは自分の安全だ。

 

 なぜなら私が危険になれば、間違いなく家族の危険に繋がるからだ。


 チートな岸田家の急所が私だ。 


 あの叔父ですら近くに私がいれば、最優先で保護行動にでるし、共に逃走だって視野にいれることも珍しくはない。時にはジークが言ったように、先に逃走させることもあった。


 理由は簡単――――私がチートではないからだ。


 他の家族のように様々な戦法で戦うすべも、現状を打開するほどの術を持たないからだ。

 当然、私は家族の言葉に従うだろう。


 が、ジークは身内ではない。


 しかし、私は知っているのだ。


 彼の名前を。

 妹が居て、この国で貴族らしいことを。

 かなり食い意地がはっていることを。

 第二騎士団の中では慕われているらしいこと。

 自由な面の叔父を見ても、ドン引きしない大人な対応できるということ。

 いざというときに真っ先に殿になるということも。

 忠義の騎士であるということも。



「私が逃げてジークが死ぬなら、たぶん逃げない」



 見捨てるには知りすぎている。


 私よりも強い―――――だけどジークは岸田家のチート人間のように強くはないということも。

 安心して任せて逃げられるほどの強さではないのだ。


 だけど、今までの人生で私の学んだ事でも有る。


 攻撃対象を分散させることも、相手の注意をひくこともできるのだ。


 私が逃げて生き残れるのなら、それでいい。

 でも、できないなら。



「きっと、一緒に逃げて生き延びたほうが、ずっといい」



 それにやっぱり私は自己中心的な人間で、ジークに生きてほしいというのが、必ずしもジークに友好的だからという理由ではない。


 叔父さんだ。


 ジークはハッキリと明言した『叔父の味方だ』と――――だったら死んでもらうわけにはいかない。


 実際の所、岸田家族のように心の底から『叔父さんの味方』と言い切れる人は多くはない。その多くない人間を失うわけにはいかない。


 あの性格だ。


 叔父の敵は何処にでもいるのだから。




「叔父さんの味方というなら、叔父さんのためにも生きて、最後まで力を貸してくれなきゃ………困る」




 ジークは私の言葉を咀嚼するように緩慢に瞬いた後、穏やかに破顔した。



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